プリンを食べた犯人

「あー!あたしのプリンがない!おかぁさーん!プリンがないんだけど!」
「そんな大きな声出さないの。ちゃんと見たの?」
「冷蔵庫の一番上の棚の左に置いて置いたのにないんだけど!誰が食べたのよ!」
そこへこの家の主人(あるじ)が帰ってきた。
「ただいまぁ、どうしたんだ一体? 玄関の外にまで聞こえていたぞ」
「あ、あなたお帰りなさい」
「ちょっと!お父さん!あたしのプリン食べたでしょう?」
「プリン? 食べてないよ」
「じゃあ、誰が食べたって言うのよ!」
「トモキじゃないのか?」
「トモキは修学旅行で一昨日からいないわよ!ねぇ、お母さん」
「じゃあ、誰が食べたのかしらねぇ」
主人は少し考えてこう言った。
「うーん…じゃ分かった。お父さんが今からコンビニ行って買ってきてあげるから。それで我慢しなさい」
「誰が食べたのよ!全く!」
娘は頭から湯気を出しながらバタンと扉を閉めた。
「すいませんねぇ、あなた」
「いいんだよ。家の空気も悪くなるからね。他に何か買うものがあれば買ってくるけど?」
「じゃあ…明日の朝に食べるパンもお願いします」
「わかったよ。じゃあ行ってくる」
「すいませんね。いってらっしゃい」
「なるべく早く帰ってくるよ」
そうして父はコンビニに行った。
コンビニに着くと、家を出る寸前にバレないように回収したプリンの容器をカバンから取り出してゴミ箱に捨てた。
「危なかった。痕跡は全て消したはずだったのに… 言えるわけないだろ。家族のいない昼間に呼んだ浮気相手が食べただなんて」
青い顔をしながら主人は頼まれたパンとプリンを5つ買って帰った。

✳︎キーワードが「推理モノ」で不採用だったショートショート。
推理もので警察が登場するのはベタなのでそれは避けた。場面の設定が生活なので「犯人は〇〇でした!」でオチに持っていくだけでは味気ないと感じ、家族の人数よりも一つ多いプリンを用意することで、不倫の継続性を匂わせるオチにした。
#小説 #ショートショート

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