幽霊の落し物

「母ちゃんこのシャツ俺のじゃなくて父さんのだよ」
「ごめんね、サイズが同じだから間違えちゃうのよ。名前を書いておこうかね」
「嫌だよそんなの。ダッセェ」
そこで母親は名案を思いついた。
後日、少年はいつものようにサッカー部の朝練へと向かった。その時、ロッカールームで着替えた際にシャツを落としてしまったが、少年は気づかないまま教室へと行ってしまった。入れ違いで部室を訪れた顧問は、慣れた手つきでそのシャツを拾い上げた。
「はーい、注目。シャツの落し物でーす。誰か心当たりはありませんか?」
「オレのじゃないっす」
「僕のでもないでーす」
「じゃあ、誰のだっていうんだ?」
「名前は書いてないんすか?」
顧問はシャツのタグを確認した。
「えっと…ゲンジュウロウ⁉︎ そんな名前のやつサッカー部にいたか⁉︎」
「いや、知りません…」
「あ、ボク知ってます!それ歴代の校長先生の名前ですよ!」
一同、顔を見合わせてシャツは「幽霊の落し物」として処理された。

#小説 #ショートショート

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