ネジ

ロボ太くんとロボ美ちゃんはとても仲良しで、いつも一緒に学校に通っていました。
ある日のこと、いつものように登校していると電柱からカラスが石を落としました。その石は豆粒ほどの大きさでしたが、けっこうな高さから落ちたのでみるみるうちに速度を上げてロボ太くんの頭をめがけて落ちました。
「カーン」という音とともにロボ太くんは倒れて、すぐにロボ美ちゃんは「大丈夫?」と声をかけました。少しして「うん、大丈夫」と返事があって、ロボ太くんは立ち上がりました。
その時、ロボ太くんから丸いものが落ちるのが見えましたが、ロボ美ちゃんは「早く学校の医務室に行こう」と言ってそれどころではありませんでした。
学校に着いてからロボ太くんは手当てされましたが「とくに問題はない」と言ってすぐに授業に加わりました。ロボ美ちゃんも「あーよかった」と胸をなでおろしましたが、変化があったのは次の日からです。
いつものようにロボ美ちゃんがロボ太くんを家まで迎えに行くと、ロボ太くんは右腕が上がらなくなっていました。「へーき、へーき」といって元気に学校に行きました。
次の日になると今度は左腕も上がらなくなってしまいました。「だいじょーぶだよ」と言っていつものように歩いて学校に行きました。
また次の日になると今度は右足が動かしにくくなってしまい、ロボ太くんは「歩けるけどちょっと待ってね」と言って、ロボ美ちゃんの肩を借りて少しだけ遅刻をしましたが学校に到着しました。
次の日、心配しながらロボ美ちゃんがロボ太くんの家に迎えに行くと「ごめんねロボ美ちゃん。今日はボクお休みするよ」と言って、動かなくなった左足を見せてくれました。「わかった。先生にはワタシが伝えておくね。バイバイ」と手を振って、ロボ美ちゃんは初めて一人で学校に行きました。
その途中、電柱の上にいるカラスを見て「もしかしたら、あの時に落ちたのはネジなのかもしれない。だとしたらワタシのせいだ」と思って、地面の隅から隅までを見ましたがネジはありませんでした。
次の日、恐る恐るロボ太くんの家まで行くと、昨日までが嘘のようにロボ太くんは立ち上がることができましたし、腕もブンブンと振り回すことができました。
ロボ美ちゃんはとても嬉しくなりましたが、いくら挨拶をしてもロボ太くんは返事をせずに悲しい顔をして「ロボ美ちゃんありがとう。学校には行けるけど、声が出なくなっちゃったんだ」とホワイトボードに書きました。
「気にしないでいいよ。学校に行こう」と返事をして、いつもとは違って手を繋いで学校に行きました。
次の日、ロボ美ちゃんがロボ太くんの家を訪れるとロボ太くんと全く同じ姿をした違う子がいました。
ロボ美ちゃんが「一緒に学校に行こう」と言うと「キミは誰?」と返すのです。
冗談だと思って「早く行きましょう」と続けると「どうして?」と言ったままロボ太くんは動きません。
ロボ美ちゃんはまさかと思いましたが、ロボ太くんはとうとう記憶を失ってしまったのでした。嘘だと思って、ロボ太くんの身体を揺さぶりましたが、ロボ太くんはキョトンとして見つめるだけでした。こうなってはどうしようもありません。仕方なくロボ美ちゃんは一人で学校に行きました。
先生にロボ太くんのことを伝えると先生も昨日のロボ太くんみたいに言葉を失いました。
その日の晩のことでした。ロボ太くんの家のほうがどうも騒がしいので、居ても立っても居られずにロボ美ちゃんは家を飛び出しました。
ロボ太くんのお家までの道はいつも一人で歩いて迎えに行きますし、帰りも歩いて帰ります。ロボ美ちゃんがこの道を走ったのは、ロボ太くんと手を繋いだ日の帰り道とこの時だけでした。
急いでロボ太くんの家に向かうと、燃えるような赤色灯がクルクルと回っていました。そこには大勢のロボットがいました。ロボ美ちゃんはそれをかき分けて家の中に入って、叫ぶようにロボ太くんの名前を呼びました。
目の前にあったのはバラバラに分解された大切な友達の姿でした。ヘルメットを被ったメカニックさんが、その場に崩れ落ちるロボ美ちゃんに気づいて声をかけました。
「知り合いの子かい。ごめんよ、八方手を尽くしたんだが腐食が激しくて助けられなかったんだ。もう少し適切な処置ができていたら…」
ロボ美ちゃんは泣きながらそれを聞くしかありませんでした。

次の日、ロボ美ちゃんがロボ太くんの家に行くと誰もいませんでした。それでも扉に鍵はかかっていなかったので、そおっと家の中に入ると、静かな部屋の中で一台のコンピューターが青い光をぼうっと放っていました。
「Pass word」
その時一瞬、ロボ美ちゃんはロボ太くんに呼ばれた気がして、キーボードに手を伸ばして自分の誕生日を打ち込んでみました。
するとロックが解除されて、ロボ太くんがお休みした日に撮影されたビデオレターが流れました。
「ロボ美ちゃんいつもありがとう。ボクの腕と足は治るかわからないけど大丈夫だよ。きっと。でも、学校はお休みすることになるだろうから時々、こうやってお手紙を送ることにするよ。迷惑でなければお返事ください。また遊ぼうね」
それはロボ太くんがロボ美ちゃん宛に送るはずだったものでした。
ロボ美ちゃんは思わず声を失いました。
さらにキーボードを叩くと、ちょうど昨日の晩の日付に書かれた文章が見つかったのです。
『ロボ美ちゃんだあいすき』
それが記憶を失くしたロボ太くんの最後のメッセージでした。
それを見るなりロボ美ちゃんの目には大粒の涙がこみ上げて前が見えなくなってしまいました。
ありふれたネジほど無くなった時にだけ大切になるのでした。

✳︎ドラえもんの画期的なとこの一つは「ロボットが涙を流す」ということだと思っていて、それを違和感なく書けないものかと実験的に作ったのがこの話。
童話っぽい語り口のほうが違和感が消えると思って、擬音だとか話し方を丸くした。
難しいですね。同時にアニメってすごいなと思った。
#小説 #ショートショート

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