臨終

「あーあーあーあー。前村!どうしてお前みたいないい奴が死んでしまったんだっ!」
「時田先輩やめて下さい、僕まだ死んでませんよ」
「時田がこんなに泣くなんて… もし前村が生きていたらさぞかし驚いただろうな。ご家族には俺から連絡しておいたよ」
「鈴木先輩まで冗談やめて下さい。僕はただママチャリでコケて、頭を少し打っただけなんですよ。死んだだなんて、縁起でもないことやめて下さい」
「ご家族はなんて言ってた?」
「葬式は行わず、遺体はそのまま霊柩車に乗せて下さいだって。察するに人間関係でギクシャクしてるようだったよ」
「こんなにいい奴が身内から恨まれていただなんて、俺には信じられん」
「だから死んでないし、女房ともうまくやってますし、女房のごりょうしんともハワイ旅行に行くぐらい仲良くさせてもらってますし、自分の親にはこの間新車を買ってあげたって焼き鳥屋で話したじゃないですか!」
「失礼します。葬儀屋です。この度はお悔やみ申し上げます。こちらが前村様のご遺体ですね。それではストレッチャーに乗せて、霊柩車までお運びさせて頂きます」
「ま、前村… 本当にありがとう」
「泣くな、時田。俺まで泣きたくなる」
「心中お察しします」
「だから死んでないって言ってるだろ! やめて下さい!触るなっ!おいっ!だめだ、力が入らない… 」
「それではお二方、火葬場までご移動願います」
「ちょっと待てよ… 明らかに様子がおかしい。もしかして僕は本当に死んでいるのかもしれない。でも…ああ、気持ちの整理がつかない…」
「ここでニュースが入りました。大手芸能プロダクションのお笑い芸人が生きたまま火葬場で焼かれたとの情報が入りました。警察の話によると主犯格の男性二人は、ボケのつもりだったがあまりにもボケが長すぎたと話しているようです」

✳︎この話はほぼコントですね。
子どもの頃って遊びの最中でケガをするってことがあるじゃないですか。それを学習するから大人はケガをしないわけですが、学習能力を取っ払ってみたらどうかと書きました。
でも、最近のYouTuberとか炎上商法の人間を見てるとギャップがなくなって笑えなくなるんですよね。フィクションが現実に塗りつぶされていく社会問題です。
#小説 #ショートショート

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