ダメな母親

「ちょっとたまにはアナタも協力してよ!」
そうやって私は出かける夫に怒鳴ってしまった。
「仕事でいっぱい、いっぱいなんだよ! 分かってくれ!」
うちには二人の子どもがいて、私だけでは二人同時に授業参観を見てあげられない。そこで夫に協力を求めたがあの人はいつものように家を後にした。なんだか自分が情けなくなって涙ぐんでしまった。
「ねぇ、ママ泣いてるの?」
「大丈夫? パパになにか言われたの?」
「ううん。何でもない… ママは平気よ」
声を荒げたせいで子どもたちを心配させてしまった。「ダメな母親でごめんね」と思ってしまった。
そんなことが朝にあったから、せめて一分でも長く授業を見てあげられるように、下の子の授業を見てから階段を駆け上がって、上の子の教室へと急いだ。心臓はバクバクだったが平静を装った。
「ママ途中で居なくなっちゃったね」
「ごめんね。お姉ちゃんの授業も見ないといけないから途中で居なくなったの。でも、ちゃんと大きな声で朗読できてたね」
「ねぇママ、あたしは?」
「とってもよくできたよ。算数苦手なのに頑張ってた。二人ともいい子だね」
母親として未熟かもしれないが、私はどうにか授業参観を終えることができた。
一方、夫が帰宅したのは翌朝になってからだった。
「私だけに育児を押し付けて、こんな時間まで何やってたのよ?」
「…ったんだ」
「え?」
「G1レースが当たったんだよ! 信じられるか? 2000万だ! それでさっきまで取材責めだったんだよ」
「嘘でしょ」
「嘘なもんか! ほら見てみろよ!」
夫は手に持っていた今朝のスポーツ紙を私に見せた。そこにはピースサインをした見慣れた顔が載っていた。
「ほらな、これで二人に好きなものを買ってやれる。大学にだって進学させてやるぞ!」
「あなた大好き!」
誰も見向きもしない馬が優勝する。これだからギャンブルはやめられない。

#小説 #ショートショート


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