Not There leabe Knight

夫 マクベス「なんということだ… まさか、待望の我が子がこんな姿で生まれてくるなんて…」

妻 マリア「あたしのせいだわ。きっとあたしが悪いのよ…」

夫 マクベス「いや、君は何も悪くない。難産をよく頑張ったよ。それに、生まれてきたこの子にだって何の罪もない。あるとすれば…」

妻 マリア「まさかっ!」

夫 マクベス「あるとすれば、僕が人を殺めたせいじゃないだろうか?」

妻 マリア「あなたっ! その話は忘れましょう! あれは事故よ!」

夫 マクベス「君の言う通り、確かにあれは正当防衛だった。相手がいきなり刃物を振り回してきたのだし… でも、結果的に殺してしまったのは逃れようのない事実だよ…」

妻 マリア「天罰だって言うの? 何よそれっ、あんまりじゃない! こんな事なら死んだほうがほうがマシよ! 私たちは普通の家族で居たいだけなのに…」

夫 マクベス「落ち着いて。これは神が与えた試練だよ。せめて親として、この子だけでも幸せになれるように考えよう。何か方法はあるはずだ… 何か…方法が…」

ヨブ爺さん「すまんが話は聞かせてもらったよ」

妻 マリア「お、お爺さん。聞いていたんですかっ⁈」

ヨブ爺さん「ああ。もしあんたら夫婦さえ良かったら、どうかその子をワシに預けてはくれまいか?」

夫 マクベス「お爺さんがそういうのであれば…」

妻 マリア「あなた… 本当にいいの?」

夫 マクベス「僕たちがこの島を追われずに生きてこれたのはお爺さんが仲裁に入ってくれたおかげだし、ここはお爺さんにこの子を託そう。これはきっと運命だよ」

妻 マリア「わかったわ… お爺さん、どうかこの子をよろしくお願いします!」

ヨブ爺さん「子どもができなかったワシら夫婦にとっては初めての子ども… いや、初孫と言うべきじゃろうか。まぁ、いずれにせよあんたらの分まで幸せにすると約束するよ」

妻 マリア「よろしくお願いします」

ヨブ爺さん「ただし、一芝居打たにゃいかん。少しばかり協力してもらうよ」

夫 マクベス「分かりました。最後の親の務めだと思って協力させて頂きます」

後日、その計画は実行された。お爺さんは夫婦が用意した、島のご神木に実る長寿の実の中に、授かったツノのない鬼の子どもを入れて川の上流から流したのだ。下流で洗濯しているお婆さんが発見するのは時間の問題だった。
昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが…

✳︎この話は『桃太郎は実は角のない鬼でした』っていう、わりとテンプレ化した話をサンプリングしたものです。
殺される運命にあるマクベスと、救世主の母であるマリアと、ユダヤ教のヨブ記のフレーバーを取り入れて「輪廻」の意味合いを強めてみました。タイトルは犬と猿とキジをもじったもので、主人公マクベスからすれば『いなくなる騎士』と読めて、桃太郎からすれば『ここにいない騎士』というダブルミーニングの意味合いがあります。

#小説 #ショートショート

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