マラソン

当時、肥満気味だった僕は健康のために或る村で開催される『42.19キロ』を走るマラソンに参加する事にしました。
当日はスターターの合図とともに大勢のランナーが走りました。天気も良く心地良い風が吹いていて、最初はやる気に満ちていた僕ですが、次第にスタミナが無くなってどうにか歩くのがやっとでした。そんな僕に対しても沿道で応援してくれる人達がたくさんいて勇気をもらいました。
「ゼェ…ゼェ…」と息を切らしながらようやくゴール地点が見える距離まで進めたのは夕方で、最後尾の僕を除いて全員ゴールしているようでした。全く人気が無いので「忘れ去られているのではないか?」と焦りを感じて、体力を振り絞ってラストスパートをかけました。
なんとかゴール地点にたどり着くと、そこには朝、スターターを務めた女性村長がポツンと立っているだけでした。
「散々待たせやがって! 最後がこんな豚野郎だなんて、ふざけるんじゃないよ!」
ゴールするや否や金切り声で怒鳴られた僕は頭にきてしまいーー
「何でそんな事言われないといけないんですか!」と言って村長を睨みつけました。すると村長は目を真っ赤にさせて、手に持った人の腕を食いちぎりながら、さらに罵詈雑言を僕に浴びせかけました。
これはマラソン大会ではなく、健康な肉体を備えた人間を疲れさせ、生け贄として鬼ばばあに捧げる儀式だったのです。
不健康な身体をした僕は食べられてしまうのを免れましたが、現在は大会の運営委員会で奴隷のように働かされています。
『死に行くマラソン大会』に関するデータは全てUSBメモリーに入っています。
この内部告発文書が鬼ばばあの地獄耳に届かない事を願います。

#小説 #ショートショート

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