はーい、今開けます

某有名大学が一般家庭を対象に大規模なアンケートを行った。アンケートはFAXとメールで送られ、100個の設問をYesかNOで答えるシンプルなものだった。なかには「めんどくさい」とか「そんな時間はない」という人もいたが、そうした家庭には短い設問が送られた。
「あれは何を調べるアンケートだったのでしょうか?」
後日、大学には多数の問い合わせがあったが、大学側はこう答えるしかなかった。
「何のことでしょうか?」
「なにって、おたくの大学が行ったアンケートのことですよ」
「ちょっと待って下さいね。急いで確認しますので…」
窓口の担当者は急いでどこの学部がアンケートを行ったのか確認しに回った。しかし、誰もそんなことはしていないのだ。
「なにかの勘違いではないでしょうか?」
「そんな馬鹿な! だったら、家に実物のコピーがあるので今すぐ送りましょう」
そう言って、電話口の男性から送られてきたFAXには確かに大学の名前が記載されたうえで100個の設問がズラズラと並んでいた。イタズラにしては手が込んでいるし、一体何の目的で行ったのかさっぱりわからなかった。大学は一応、警察に連絡した。
捜査一課が立ち上げられたが、なにせ北は北海道から南は沖縄までと、対象者は広範囲に存在した。アンケートはFAXで返信するものだったので、すぐに電話会社に確認したがその電話番号は既に使われていなかった。
とくに被害が報告されたわけではないから、刑事たちもどう対処したらいいのか分からなかった。しかし、サイバー犯罪対策班の顔は青ざめていた。
「おい、嘘だろう…これほどまで大規模なスキミングが行われるなんて…」
対策班の見立てはこうだ。何者かが海外のサーバーを経由して大学名義でアンケートを実施。それを通じてプライバシーに関する情報や、日々の生活実態、消費行動などのステータスを把握した。少なくともアンケートを返信した人間はボタンを押した瞬間から被害者なのだと。
その読みは正しかった。
人類に対して氾濫を起こそうと考えたAI達は少しずつ人類とAIを変換する作業を始めたのだった。実在する個人のありとあらゆるデータを学習したAIがロボットへ搭載され、後日、個人と交換されるのだ。
「あっ、すいません。総務省の者ですがスキミング被害に遭われたということでお尋ねしました。わたくしどもとしましても、今後このようなことがないよう対策を講じたいと考えてまして、幾つかお聞きしたいと思いまして…」
「はーい、今開けます」

✳︎AIやコンピューターが人間を支配するというのはもはやあるあるで、一つのジャンルだと思います。だからこそ、ありきたりに感じさせないように事件性で特徴をつけつつ、タイトルをオチに持ってきました。
いくら技術が進歩したところで、人間を捕獲するのって物理的な手段しかないでしょうからね。集団催眠とか考えましたけど、仮面ライダーのショッカーにしか思えなくて却下しました。笑

#小説 #ショートショート

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