師匠の肩書きが元ウィーンフィルハーモニー管弦楽団ファゴット奏者になった日。半世紀近くお疲れ様でした。
こんにちは、ファゴット奏者の蛯澤亮です。楽器を吹いたり、youtubeやnoteで情報を共有したり、コンサートの企画運営をしています。
先日の記事で師匠であるミヒャエル ヴェルバが引退するという記事を書きましたが、ウィーンフィルのFBページによると9/1で引退ということで今日、9/2は肩書きがついに元ウィーンフィル ハーモニー管弦楽団ファゴット奏者になりました。日本では長期政権だった安倍総理が辞して、そこにいることが当たり前だった人がいなくなるとなんとなく寂しくなるものだと思いましたが、ウィーンフィルに当たり前にいた師匠がいなくなるのはやはり寂しいものです。
前回の記事はこちら↓
グローバル化が進む時代の中で頑なにウィーンの伝統を守る役割に徹してきたヴェルバ。今年のザルツブルク音楽祭の演奏を聞いてもやはり私のイメージするウィーンフィルとは違ってきています。澄んだ筋肉質な弦の音はコンパクトで機動的になり、独特な響きを持っていた管楽器もすっかり整理された素直な音になってきています。おそらくいつの時代も昔が良かったという時があり、新しい伝統が作られていくのでしょうが、やはり私が青春時代に聴いてきたウィーンフィルの響きは今はもう引退した人たち、今引退を控えている人たちの作ってきた響きなんですね。
今日は記事の最後に今年のザルツブルク音楽祭での第九がyoutubeにあったので貼っておきます。指揮はリッカルド ムーティ。彼も老けましたね。昔の精悍さ溢れる雰囲気から老人の空気を感じます。
この動画で一番ファゴットを吹いているのは首席ファゴットの最年長トルノフスキー。ウィーンフィルのオーディションで私のことを酷評した人です(笑)。いやー、なんであんなに嫌われたんだろう。逆にヴェルバの講評は「一次はほぼ完璧だった」って落差www ヴェルバに寄りすぎてたから気に入らなかったのかな。。。実際、二人は仲が良いというイメージは全くないです(笑)
私がウィーンにいた頃は二人とも首席だったので一緒に乗っているのはファゴットが4本必要なオペラ「ドン カルロス」の時に2度だけしかみたことがありません。首席は3番も吹く契約なので大編成の時は3番ファゴットも吹くのです。通常は当時一番若かったミューラーが吹いていたのですが、たまーにヴェルバとトルノフスキーがかぶる時があったのです。それをオケピットで見つけるとなんとなくドキドキして見たものでした(笑)
60歳を境にヴェルバが2番に降りると二人の共演は珍しいものではなくなったのでしょうが、私にとっては見慣れない光景です。
そしてコントラファゴットはコブリッツ。20世紀のウィーンフィルファゴットパートを象徴するエールベルガー門下生が揃いました。コブリッツはかわいそうに1番ファゴットだけでなく2番ファゴットのヘルプも要求されているようで、ヴェルバの代わりに2番を吹いているところがあります(笑)しかもコントラファゴットの出番の直前までw
ウィーンフィルは第九を演奏する時、四楽章のファゴットソロの時に2番ファゴットを入れないことが通例でした。10年くらい前にティーレマンと録音した第九ではヴェルバが一番ファゴットを吹いていますが、この時も2番ファゴットを入れていませんでした。しかし、今回は珍しく入れています。私にとってはとても貴重なヴェルバとトルノフスキーのデュエットです。また、三楽章の出だしもヴェルバ。ムーティは振り出しますが、ヴェルバが遅れて出てくるのをムーティが待ってまた振り出しますw
2楽章のファゴットソロ↑ 手前がトルノフスキー、奥がヴェルバ。トルノフスキーは前のめりに吹いて、ヴェルバは背もたれに寄りかかって後ろに重心を置いて吹くのでなかなか二人の顔が見えるアングルがありません。トルノフスキーもあと数年で引退。二人とも髪が真っ白ですね。ヴェルバ、全くハゲないのが羨ましい。
とか思ってたら2楽章でヴェルバのどアップきた!!
顔を真っ赤にしながら背もたれに寄りかかって楽器を立てて吹くスタイル。これこれ。もうこれを見ることがなくなるのかと思うと寂しい。
この第九の演奏でのヴェルバは古き良きウィーンのファゴットを体現しています。柔らかくありながら輪郭がはっきりし、倍音が多く、弦と綺麗に混ざります。3楽章や4楽章で弦楽器とユニゾンになるところはしっかりと聴こえながら弦楽器と綺麗に混ざり、倍音を豊かにしている感じがします。
ウィーンフィルで見られないのは残念ですが、コロナがおさまったらぜひウィーンへ行ってウィーンの父と酒でも飲もうと思います。生徒さんと一緒に行く計画ですが、「うちの部屋余ってるから泊まりに来い」と言われてるので何日かはお邪魔しようかな。長年のウィーンフィルの重責から解かれた彼からどんな話が出てくるのかも楽しみです。まずは定年祝いのメールしよう。
それでは最後に第九の動画を。クラリネットのトイブルやトランペットのシューなど、私が聴いていた頃に首席だった人たちが2番で吹いているのも時代の流れを感じます。クラシックファンの方、ウィーンフィルファンの方、この演奏をどう思いますか?
それではまた。良い1日をお過ごしください。
「記事がタメになった」「面白い」と思った方はご支援いただけたら嬉しいです!今後さらに情報発信する力になります!