Bogner Burnleyの修理
アンプメーカーBognerのディストーションペダルBurnleyの修理です。
このディストーションペダルの最大の特徴はNEVEデザインのライントランス。
背面からも見えます。
NEVEのトランスといえば、レコーディング機材でこれを通すだけで音が良いなんて言われてる物です。
ちなみにこの個体は現行品では無く、旧バージョンの物です。
症状を確認していきます。
音は出て、エフェクトも掛かるんですが、どーも音が小さい。
このBurnleyは音の入力に合わせてLEDが光るんですが、その動作もしてないようです。
この症状を見て、歪み回路辺りが怪しいと踏んだんですが…。
中身を確認する為に分解していきます。
裏蓋を外すのですが、これが硬くて外れない。
吸盤を使って外しました。
後々判るのですが、ケースが内側に歪んでるっぽくて、裏蓋も硬くて取れない状態になっており、基板も引っかかって取るのも入れるのも苦労しました。
経年劣化でこうなってしまったのか、この個体だけがこうなったのか。
電池で使える事を考えると、この状態は良く無いですね。
中身を見ると、トランスとBogberのシリアルのステッカーが貼られたカバーみたいなのが見えます。
よくわからないので、基板も取り出します。
ジャック、ボリュームノブ、ボリュームポット、フットスイッチを外して基板を取り出し。
基板の表側が見えました。見た事がないボリュームポットが付いてます。
基板を見た感じ、歪み回路が見当たらない。
ピンヘッダーで後ろの黒いボックスに繋がってるのを確認して、よくよく見ると、基板がモールドされてるっぽいです。
歪み回路はこのブラックボックスの中に入ってる様です。
絶望的な感じ。
レベルのLEDがどこに繋がってるか調べたのですが、アウトプットに近い部分で反応させてる様です。
アウトプット付近ではもう信号が小さくなってるんですね。
音が小さくなりそうな部分って歪み回路だと思うんですが。
回路図も無く、どうしようもない感じなので、このブラックボックスを外してみます。
えらく外しづらい場所にピンヘッダありますが、GOOTのTP-100であっさり取れました。
モールドの裏側見ると、オペアンプが付いてる箇所が透けて見えました。
さて、ここからどうするか?
モールドを剥がす方法を色々調べました。
モールドにも色々種類があるそうで、シリコーン、ウレタン、エポキシ、アクリル、などなど。
種類のよって溶解剤も違う様で、しかも専用の物は値段が高い。
これを溶かすだけ為に専用の物を買う訳にもいかないので、他に手がないか探しました。
エポキシ系だとメタノールで溶けるという情報を入手。
メタノールといえば、インディカーの燃料でお馴染みなんですが、どこで売ってるか?
そしたら燃料用のアルコールがほぼメタノールというのが判り、しかも値段も安く、すぐに注文しました。
動画内で出てる謎の液体は燃料用のアルコールです。
これをガラス瓶に入れてモールドの基板を浸け込んでみました。
1日経過した所で取り出したんですが、何も変化無し。
全く効果が無いと思い、違う手を考え、アロンアルファのはがし隊を使いましたが全く効果無し。
仕方ないので、デザインナイフで少し削って見ることにしました。
そうしたら周りのカバーみたいなのが綺麗に剥がれました。
しかし、中のモールド部分は硬くて、削るのには100年くらい掛かりそう。
ここで一旦諦めて、そのままメタノールの瓶に再び浸けておきました。
正直に書きますと、メタノールでは溶けないと思って、修理も諦め、浸けてるのをすっかり忘れてました。
ふとした時に瓶に目が止まり「忘れてた!」と慌てて中身を確認したら、ちょっとだけ溶けてるじゃん。
取り出してみたらWIMAのコンデンサの頭が見えてる。
これはいけるかもと、撮影を再開しました。
角の方などは指で砕けて取れる様な感じに。
ただ、綺麗に取れるという感じではなかった。
中身は少しづつ見えてきました。
ニチコンのMUSEやWIMAのフィルムコンデンサなど。
ある程度モールドが取れたんですが、硬い所がまだまだあって、一気にやるのは無理そう。
ここからは、一日浸けてはデザインナイフで削るという作業を繰り返して、少しづつモールドを取っていきました。
やっていくうちに原理がなんとなく解ってきた。
メタノールでエポキシ系の何かの成分だけが分解してるのだと思います。
それで、その分解してる所だけ、カチカチに硬かったプラスチックみたいなのが、硬いゴムみたいな物に変化したんだと思います。
これでようやく基板の全貌が明らかになりました。
ずっと気になってたオペアンプはTL072。
クリッピングはダイオードの対称とFETとダイオードの対称をスイッチで切り替え。
動画内ではシリコンダイオードって書いてあるけど、ツェナーダイオードですね。
少し回路図調べたら、スイッチでそのまま切り替えてるのではなく、FET使ってスイッチしてます。おそらくノイズ対策だと思います。
いよいよオペアンプの交換。取り外してソケット化しておきました。
新品のオペアンプを搭載して、基板同士を繋ぎ直し。
いよいよ直ったか動作テスト。ここまで長かった。1ヶ月くらい掛かった。
動作テストの結果、全く直ってないと。
モールド剥がしてた時間なんだったんだよ。
ここでようやく、正弦波入れてオシロスコープで調べ始めます。
まぁ、モールドの中身が見えて、回路構成がなんとなく判ったからこそ、調べられたっていう部分もあるんですけど。
モールド部分は歪み回路とトーン回路が入ってて、ヘッダーピンでボリュームとスイッチが繋がってて、それと信号のイン、アウトが繋がってる感じ。
そんな感じでモールド部分は問題なく動作してるのは確認しました。
モールド基板から出た信号はNEVEのトランスに来てるんですが、どうもこの辺で信号は小さくなってるぽい。
トランスの足が8本あって、どうなってるのか判らなかったので、とりあえず外すことにしました。
これで基板の回路を調べてようやく判りました。
トランスは片側の真ん中2本がショートしてておそらく1:1の状態で使われてます。
そうなると、トランスが怪しい訳です。
トランスの直流抵抗を計ると電圧が掛かって、磁気を帯びてしまうので、注意が必要です。
といっても、このままではどうしようもないので、テスターで計りました。
そうしたら、一箇所断線してました。
この製品の最大の売りのNEVEデザインのトランスが壊れてました。
ガックリです。
ジャンクで買ったんだけど、これさえ生きてればいいと思って買ったのに、これ壊れてるのかよ。
一応、トランスも少しだけ剥がしてみたんですけど、目に見える部分ではわからず、修復は不可能でした。
ここまでやってこのままほっとく訳にもいかないので、代わりのトランスを探すことにしました。
軽く回路図を書き起こしました。
これはライントランスの1:1なのでショートしても動作するはず、試した結果、出力音が復活しました。
トランス以外の部分は壊れて無い事が判りました。
問題の代わりのトランス、テスターで計った値から10KΩの1+1:1+1というのが判りました。
一日中、ずっとトランスを探しました。
有名な所だと、LUNDAHLとかOEP/Carnhill。
値段が高い上に、サイズがどうやっても合わない。
パーツショップで手に入るトランスはないかと探したら、Sansuiのトランスを発見。
値も10KΩの1:1がありました。そしてサイズも小さく入りそう。
値段も手頃だったのでこれにしました。
型番はST-78です。
早速取り付けですが、トランスの固定の足の幅が合わないので、まず曲げて取り付けられる様に加工。
後は一次側と、二次側を間違えない様に取り付けて配線。
二次側にはセンタータップがあったので、一応真ん中の部分に配線しておきました。
取り付けて、いよいよ動作テスト。
問題なく動作するようになりました。
意外というか何というか、音は出るだろうと思ってたんですが、音自体はもっと変な感じになると思ってました。
元々ギター用のトランスでは無いので、音の特性は全然合ってないはず。
それが、まぁまぁ違和感無い感じの音です。
こういったライントランスの本来の役割は回路を遮断する事。
遮断できる代わりに、音が変わってしまうのがデメリット。
このデメリットを活かして、特性のあった音に変えてるんですよね。
NEVEのトランスは録音の時に通すだけで太くなるなんて言われてるのがこういった原理です。
真空管のギターアンプのアウトプットトランスも、実はギターアンプの音に大きく影響してるのではないかと私は個人的に思ってます。
無事に音が出たので組み立ていきます。
オペアンプも壊れてなかったので元に戻します。
仮止めのトランスの足も固定。
裏蓋が完全にNEVE用なので、Sansuiでは隙間が空いちゃってますが、これはご愛嬌。
組み立て終わったので、音のチェックもしました。
よく歪みますね。
個人的にはTightの方が好みです。
という事で、長い長い修理がやっと終わりました。
モールドを長時間掛けて剥がして、実は故障箇所は別だったり。
最大の売りのトランスが壊れてたり。
トランス探しにめちゃくちゃ苦労したり。
散々でした。
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