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31年という月日

須賀しのぶ 著「革命前夜」を読んだ。

ドイツの音楽院へ留学する主人公が、昭和から平成へ元号が変わったニュースを知るところから物語が始まる。帰りの電車で読む本が欲しくて寄った駅の本屋で、なんとなくタイトルがいいなと思って買った。レジでカバーをかけてしまったこの文庫本が、どんなあらすじなのか知らないまま読み始めた私は、「ドイツ」「平成元年」というキーワードにハッとした。

私はあと一か月ほどで31歳になる、“平成元年度生まれ”だ。(正確には平成2年1月生まれ。)卒業アルバムの最後のページに載せられる「私たちの歩みと社会の歩み」は1989年から始まり、社会科の教科書の1989年という数字にはビンカンだった。歴史は苦手だけど、その年にドイツで何が起こったか、ほかのどんな歴史上の出来事より心に刻まれている。

だからといって今まで特別調べたことはないし、ベルリンへ行ってみたわけでもない。こういう作品は、ある程度史実に基づいて書かれるはずだから、この小説は私に初めて、特別な感情を抱いている出来事がどんなものであったのか教えてくれるんだ、と感じた。

さて、読んでみた感想はというと、結局、私はここに描かれていることが、私の生きる同じ世界で、たった31年前に起こったことだと意識することができなかった。ミステリー小説が好きなので「こいつ怪しいな」とか、小さいころからピアノをたしなんでいるので「こういう嫉妬、わかる」とか、満足するほどハラハラして、感情移入して、とても楽しく読んだ。

平成生まれの私たちは、戦後の急激な復興も、バブル景気も、一つの日本の歴史として学んだ。そこに、両親や会社の上司が生きていたのだと想像すると、なんだか不思議な気持ちになる。両親と、マヤマやクリスタはたぶん同世代だと思う。彼らにとってこの31年という月日は、どんなものだったのだろう。

逆に、登場人物のほとんどは物語の中で、私と同じくらいの歳か、少し年下だろう。今、この令和2年も、そう遠くない未来で、中学校や高校で学ぶ、一つの日本の歴史になるのだ。

いろんなことに絶望する日もあるけど、そんな時代に真っ直ぐ音楽に向き合ったラカトシュのように、自由を手に入れるために亡命したクリスタのように、背中を押したマヤマのように、はたまた、時代を超え音楽を通して人々の心に焔を灯したハインツのように、私にもやるべきことがあるのかもしれない。そう思えた一冊でした。

#読書の秋2020

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