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個人経営飲食店の弱者の戦略 Part.6 ~キッチン後編~

本テーマは、吹けば飛ぶようなお店をやっていた自分の経験を基に、弱者の戦略として「どう戦ってきたか」を記した読み物です。
皆さんのお役に立てればと記しています。

上の記事が前編で、時にはシェフとケンカに至ったという所で終わった。

このお話の続きの正解は簡単に言えば、
もし料理長がコンセプトを理解していたら、
すぐにお客様に自分からお詫びに行ける事だ。

キッチンスタッフでそういった人は中々いない。

少なくともお客様は不満もあるだろうが、
ほとんどは良かれと思って意見をくれる。

どういった反応を示すかは、
お店の懐の深さが試される。

理想の対応は、
ご意見をくれたその時すぐに、
料理長が申し訳なさそうにお詫びに行って、
次回は気をつける旨をお伝えして。

次回に来られた時には、
自分で出来上がった料理を持って行って、

「今日の塩加減は大丈夫か、後ほどご感想を是非お聞かせくださいね」

なんて気の利いた一言をかけてくれたら、
お客様の満足度はそこで既に最高潮になっているイメージしかない。

そういう懐の深さがファンを作る一番だと思うけど、

もしそれが言われなくても出来る人は、
今すぐ料理長独りでも出来る、
カウンターだけの飲食店を初めてもきっと流行る。

それくらい、稀有な人財だ。
中々いないのはもちろんだけど、
これを教えて出来る人もそういない。


キッチンとホールは両輪であること

例えばコストパフォーマンスや、
自分の料理だけでお客様を呼べるようなお店は、ほんの一握りだ。

とはいいつつも、そのようなお店でも、
ホールの力は必要不可欠であり、
そのホールスタッフは、お客様の代弁者である。

という事を分かっていない料理人が、
昔の時代には多数いた。
(もしくは分かろうとしない)

以前、当時ミシュラン一つ星のフレンチの話を書いたが、

このキッチンも、そういった類の人たちだ。

いずれもし、お店をやりたいと考えているのなら、
お客様をいかにファンにするか。
の考え方は、絶対に外すことが出来ない。

コンセプトに共感してくれ、
長く勤めてくれる人が一番ありがたいのだが、
僕が掲げるお客様をファンにするには、
なかなか賛同が得られないことが多い。
キッチンにも負担があるからだ。

キッチン前編より

お客様をファンにするには、

ご要望を受けることは必須

であるとともに、
時には特別の対応をすることも多々ある。
例えば

メニューにないものをご用意する

というのも欠かせない。

そこには様々な背景がある。がゆえに受ける。

食材が足りない時には買いに走ることは当然だし、
事前に分かっていれば特別に準備することも普通。

普段と違う仕込みや、その料理が料理長にとって、
自分の作品と捉えられる事に嫌悪感を示されたのは、
一度や二度ではなかった。

が、ご要望に応えれば、
満足度の8割はほぼ始まる前に勝ち取れる。
弱者の戦略として、
やらないという選択肢はあり得なかった

嫌がっている表情を横目に、
現場は常にライブなので、
即決しなければならない時は、
まずはお客様に対してYESから始めていた。

またかよ。とブツブツ言っているのを聞こえないふりをして、
営業中はとにかく満足度優先。

キッチン内の軋みは手に取るように伝わってくるが、
ファン(お客様)を守るために譲れない。


ラーメン事件

例えばこんな例がある。
僕の前職から懇意のお客様がいらした時のことだ。

前職のお店ではNOと言わないサービスが浸透していて、
それをお客様がご存知だった事もあり、

食事の後にワインと会話でゆっくりしていた後、
小腹が空いたらしくラーメンが食べたいと仰った。
うちはイタリアンである。

この時、当時の料理長は猛反発した。
それが俺の料理だと思われるのがとても嫌だ。
と。

そんな意味ではない。ここに他意はない。
この後、ラーメン食べに行こうかと思ったけど、
それならここで作ってくれれば、
行く手間も省けるし、お金も落とせるし、
という簡単な気持ちだ。

と言う説明を行なって、半ば強制的に、
必要なものを買いにスタッフに走らせた。

料理長は最後まで納得のいかない顔をしていたが、
僕は押し切った。
ここで出来なければ、長年培ってきた、
お客様との信頼関係が崩れる。

前職からの信頼関係があったからこそ、
別段気にせず言ってくれたに過ぎなかったからだ。

キッチンスタッフが買ってきたのが、
【つけ麺】だったことが、
些細な反抗だったのかもしれない。(笑)


成功体験を重ねる

このラーメン事件の時ではないが、
お客様のご要望を達成して満足してもらった後に、

本当は会いたいとは言われていないけど

「お客様がお礼を言いたいって言って下さっているから、挨拶に来て」
と噓をついて料理長をお客様の前に引っ張り出す。

お客様は当然ムリを聞いてもらったという背景もあるので、
料理長に心からの賛辞とお礼を言って下さる。

料理長は、まんざらでもない表情を見せる。
そりゃそうだ。
褒められたら誰でも嬉しい。

そんな成功体験を無理やり重ねながら、
僕はキッチンスタッフを教育していた。


料理長はどう選ぶか?

僕がお店を開いたのは2011年、大震災の年だった。
元々一緒にやろうと約束していて、
料理長を任せる予定だった人の実家が震災にあった為、
彼は急遽合流できなくなった。

そこから慌てて過去のつてを辿り、
なんとか滑り込みセーフでオープンにこぎつけられたこともあって、
実は立ち上がりから問題が山積みの背景があった。

なによりも、コンセプトの理解を、
充分に得られていなかったことが一番の要因だ。

その経験から思う。
一番大事な根幹をなす【コンセプト】イコール、

何が何でも死守すべき項目の達成のためには、
誰と組むか?はとても大事だ。

いざとなれば、独りでもできる準備をしておくことも必要だと思う。


オープンキッチンの利点

最後に。
僕のお店はクローズキッチンだった。
パーティー需要を受けるために、
レイアウトをそうせざるを得なかった。

しかし後で考えれば、絶対にオープンキッチンの方が良かった。
その方がキッチンにも緊張感があるし、
どうやって満足度を得ているかの臨場感を感じて貰えたからだ。

そうして、一体感が生まれる。

これこそが、レストランがドライブしていると感じる瞬間だし、
チームワークを最大化させる要因となったはずだ。

クローズだとキッチンは結果しか聞けないし、
そこに至るまでのストーリーをつぶさに見れるわけではない。

同じ方向を見るのに、
僕はこう在りたい。というゴールを語るが、
それが大事だと思えない人たちとの温度感が課題だった。

昔よく、キッチンとホールは水と油と言われていたけれど、
実は混ざると美味しいソースになる。

そのためには、成功体験の共有が必須だった。
僕はそれをキッチンスタッフに体験させることが不十分だったこと、
腑に落としきれなかったことが、
最大の原因だったと思っている。

顧客満足は得ていたが、
従業員満足を得ることが不十分だった。

他にも色々な要素があったが、一番の決定打は、
コンセプトを共有してくれるパートナーを得れなかったことだ。
僕はそうしてお店を閉めた。

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