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『彼氏彼女の事情』(原作版)感想


庵野秀明ファンであればおそらく全員が見たであろう超名作アニメ、『彼氏彼女の事情』

当然私も見ている。

このアニメを見たのは大学生の頃だったので大体10年ぐらい前。
ようやっと原作を読んだので忘れないうちに感想を書くことにした。
(この漫画のあらすじや登場人物を未読者に説明をする気力がないので既読者向けのクソ記事です)

〇文化祭の話

アニメ版カレカノ「文化祭やるぞ~!文化祭やるぞ~!」

ぼく「へぇ~。そろそろ文化祭やるんだ」

アニメ版カレカノ「そろそろ文化祭やるぞ~」

ぼく「なかなか文化祭始まらないなぁ…」




最 終 回

ぼく「えぇ!?」

これ、アニメ版しかカレカノ見てない人はみんな思ったと思うのだが、アニメ版カレカノは散々「文化祭やるぞ~!」という話をしておきながら結局文化祭に突入する前に終わった…

しかし今回は原作である。アニメで散々焦らした後に結局やらなかったその続きが読めるのである。
もうこれだけでちょっと感動した。

〇13巻以降がマジで面白い

『彼氏彼女の事情』まぁともかく面白い漫画なのだが、13巻以降がマジで面白い。13巻よりも前は「面白いけど続きが気になる系の面白さではないなぁ。あと読むのにすげぇ時間かかる」という感じなのだが13巻以降は続きが気になる系の面白さになる。あとコマがそれまでと比べて大きくなるのですごい早く読めるようになる。
筆者は12巻までは1巻に付き2時間はかかっていたが、13巻以降は1巻45分ぐらいで読んでいた。全然違う。


〇有馬の話

この漫画のもう一人の主人公。(主人公は女の子なので)
アニメを見た時は「めんどくさすぎるだろこいつ…」と思っていたがまぁしょうがないかなと。
幼少期の虐待→一族からのいじめと凄まじい経験をしている。
読んでて思ったのだがエヴァのシンジくんが『父親から捨てられる』という経験であんなになってしまったのだから実の親から虐待を受ける、愛されないという体験をした有馬がああいう人間になってしまうのはさもありなんというか…
まぁでも有馬は叔父さんと叔母さんに愛されて育ったから一概にシンジくんとは比べられないか… 

先ほど「13巻以降めちゃくちゃ面白くなる」と書いたがこれは13巻から有馬の話が一層掘り下げられるからである。(そのため、13巻に突入する前に主人公である宮沢と有馬をいったん放っておいて、サブキャラの話は2巻かけて全部終わらせた)

〇不幸の連鎖の話

この漫画、不幸の連鎖の話でもある。
親から虐待され、引き取られた有馬一族においてもいじめや嫌がらせを受けていた有馬。しかしその父親である怜司も心中でただ一人生き延び心に深い傷を負っていた人物だった。(「一緒に死のうとした母親の顔を何度も踏みつけ、顔がぐちゃぐちゃになった怜司の母親」、「一緒に死のうと息子を引きずり込もうとした母親の爪痕が付いた怜司」とここの心中描写はすさまじい)
その怜司の母親は怜司の父親の愛人であり、一族からいじめを受けての自殺であった。
そしてその怜司の父親は愛人との間にできた怜司を愛してはいたが、本妻との間にできた子に愛を注がず、息子たちは渇望していた親の愛情を受けることがなかった。(怜司の語りにより実は有馬の叔父である総司おじさんには愛情があったらしい)だからこそ怜司の父の子供である詠子おばさんは怜司と有馬をいじめたのだ。

しかもその後有馬の叔母さんが幼少期に父から聞いた話によると総司おじさんのお父さんは醜かった自分に顔が似ていないという理由で父から虐待を受けていたというのだ。

不幸の連鎖続きすぎィ!

ここで有馬の叔母さんが語る不幸の連鎖の話でDNAを思わせるような螺旋の絵が書いていたのが印象深い。(あと有馬の叔母さんってサブキャラなのかと思ったら怜司周りの話ですごい掘り下げられていくよね。こんなこと思ってたんだ…みたいな)

カレカノはその一族で延々と続いている不幸の連鎖を断ち切る話でもあった。(まさかアニメ見た時にはそんなスケールのデカい話になるとは思ってなかった)

〇宮沢について

主人公、宮沢は人間的にとても強いやつである。
宮沢は自分がクラス中でいじめられた(無視された)ときに自力で問題を解決し、しかもそのいじめの主犯と友達になるという凄まじい強さを持った人物である。

なので、有馬やその家族から話を聞いた宮沢が有馬の母や昔から有馬をいじめ続けていた連中に対して悪知恵や度胸でどうにかしたりしないのが意外であると同時に良かった。
やはり有馬の問題は有馬が自分でケリを付けないといけないというのが作者のメッセージなのだろうか。
宮沢は直接的に有馬家の人間にアクションを起こすことはなかったが、有馬が自分で母親等の問題について解決できたのはやはり宮沢がいたからだろうと思う。

すごく意外だったのが、有馬が救われるのが最終巻ではなくあと5巻も残っている16巻だったこと。
「やっぱ宮沢はすげぇよ…!」となると同時に作者の構成のうまさに感心する。


〇親と和解できないやつが何人か

この漫画、家族のことで心に深い傷を負った有馬を初め、家族に対して複雑な事情を抱えた人物が何人かいる。
浅葉もそうだし十波(好きなキャラである)もそうだった。
しかし、彼ら二人は最後まで家族と和解することはなく別の道を選んだ。

別に家族と和解する必要などない。
家族だろうがなんだろうが合わない相手はいる。
シビアだが、ある意味優しい答えだと思った。

〇みんな事情がある

みんな事情がある。
金持ちだろうが貧乏だろうが結婚してようが独身だろうがそれぞれ何かを抱えている。
私もそうである。
これを読んでいるあなたもそうだろう。
この漫画の登場人物もそうだった。
主人公である宮沢と有馬だけでなくその友人たちもそれぞれ事情を抱えていて苦労している。
『彼氏彼女の事情』というタイトルは宮沢と有馬だけを差しているわけではないのではないだろうかと思っているのだが、どうか。

〇最終巻について

この漫画の最終巻の「消化試合感」は好きだ。
ラスト5巻前で有馬が救われ、その後有馬が父と再会し和解する。自分を虐待していた母親とは永遠に別離する。
全ての問題が解決しての最終巻。

最期の最後で今まで深堀りされていなかった浅葉について掘り下げられ、彼の救済が描かれる構成も良い。

この間『おやすみプンプン』という漫画を読んだのだが(超名作!)最終回のラストシーンで「他人の目から映った主人公たちがそれなりの幸福を得ているように見えた」というシーンがあった。マジで陰鬱な描写や展開が続く漫画であり、登場人物たちもひどい目に会いまくっていたのだが、ラストで他人から見た主人公たちはそれなりの幸せを掴んでいるように見えたし、実際にはそれなりに幸せになっている。
それを読んで私は「どんなひどい状況になっても、罪を負ってもがんばれば幸せになれるのかもしれないなぁ」と思ったのだが、カレカノの最終回にも似たようなものを感じた。
宮沢も有馬も、友人たちもみんな成功して幸福になっていたが、彼らの過去を知らない人間がそこだけしか見てなかったとしたら、こいつらがとんでもなく苦労をして今の幸せを掴んでいるという風には見えないだろうと思った。

名作ノベルゲーム『CARNIVAL』もそうだったが、カレカノは「幸せになる」ために生きる人間が描かれた漫画だ。(この漫画、「しあわせ」という言葉を「幸せ」ではなく「倖せ」と毎回表現しているのだが、おそらく作者のこだわりがあるのだろう)
最終回ではそのテーマが直球で描かれている。

「ああ 面白かった疲れたーー」って言って死ぬのが夢なんだ」 
「そうだね。人生本当におもしろくなるのはこれからだよ」

というセリフで閉じるこの作品、宮沢と有馬はまだまだ幸福になることを追い求めていく。良い作品を読んだなと思った。



あと最終回で出て来る宮沢と有馬の娘かわいすぎるだろ…(敬語で喋るし)
浅葉羨ましいぞ…!

〇終わりに

いやぁ~マジでいい作品を読んだ。
読んでよかった。

気になっていて買ったまま長い間積んでいる少女漫画はそこそこあるのだが、『少女漫画』というくくりで次読むとしたら『こどものおもちゃ』を読もうかなと。(大地監督が作ったアニメ版の再放送をたまたま見てたらすごい面白かったので)
あの漫画もコミカルながら家族関係でかなりシリアスな話なんだっけか… 

『漫画』というくくりで次読むとしたら今劇場版をやっている『ぼっち・ざ・ろっく!』をそろそろ読もうかなぁと。
しばらくは最近の漫画を読んで過ごしていきたいですね。
ではでは。


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