鍼灸施術の危険性[神経損傷、皮膚疾患、灸施術 編]
前回に引き続き、鍼灸施術の危険性を解説していきます。
今回は、神経損傷、皮膚疾患、灸施術についてです。
前回の記事を見ていない方は先にこちらをどうぞ!
1.神経損傷
両側椎骨動静脈瘻とクモ膜下出血、迷走神経損傷などが報告されており、
重要血管が損傷し大出血した為に、重要神経の損傷が起こっています。
つまり、頸部の血管の位置を把握することは非常に重要です。
頸部の経穴では深度40mmで重要血管に達する可能性があります。(3)
風池では椎骨動脈、完骨では後頭動脈、翳風では外頸動脈と顎動脈に
達する可能性がある為、深くとも30mm(1寸)、もしくは斜刺で行うことを
勧めます。
上記の経穴下では、僧帽筋上部繊維、頸板状筋、頭板状筋、頸半棘筋と
いった肩こりや頸部痛に関係する筋肉がある為、使用する頻度は
多いかと思います。
2.皮膚疾患
銀皮症※1、金属アレルギーの他に、なんと有棘細胞癌※2が
報告されています。
まず、銀皮症に関してです。以前から伏鍼による銀皮症は報告されて
いましたが、通常の鍼施術によるものも報告されています。
銀鍼にはこういったリスクがあるので、ステンレス鍼の方がよいかも
しれません。
金属アレルギーに関しては、伏鍼によるものが報告されています。
やはり折鍼が起こらないようにディスポーザブル鍼を使用する、
体動をさせない、運動鍼を行わないといったリスク管理が必要です。
とはいえ、鍼施術は体内に金属を穿刺する施術ですので、通常施術でも
アレルギー反応が起きる可能性はあります。
事前に患者に金属アレルギーの有無を聴取し、有る場合は
施術前に有れば施術前に末梢部に鍼を1本置鍼、円皮鍼を貼付して
アレルギー反応が起きないか確認しましょう。
そして、有棘細胞癌についてですが、灸施術ではなく鍼施術によって
起きたものが報告されています。
経緯としては、23G注射針程の太さ(0.65mm)の鍼で100ヵ所程に刺入する
施術を20年にわたり、時には連日行われた結果、施術していた箇所に
苔癬様反応※3が出現し、最終的に腫瘤が形成されたというものです。
23G注射針程度の太さの鍼を100本近く使用する施術は、昨今SNSで
よく見ますね。この症例の様に腫瘤ができることは稀だと思いますが、
このような鍼を用いれば出血するでしょうし、容易に苔癬様反応が
起きるのではないでしょうか。
学校で勉強する程度の鍼施術の作用機序を理解していれば、こんなに
太い鍼を沢山刺入する必要がないということは判断できるはずです。
どうか、このような施術は行わないことを願います。
※1銀皮症 = 銀製品を使用した際に、皮膚に色素沈着が生じる疾患。
※2有棘細胞癌 = 表皮有棘層の細胞が癌化する皮膚癌
※3苔癬様反応 = 皮膚の上層の慢性の炎症によりかゆみが生じる疾患。
3.灸施術のリスク
焦灼灸による有棘細胞癌が報告されています。
焦灼灸はイボ、魚の目、創傷部位に行うとされていますが、火傷による
皮膚の損傷とそこからの二次的な感染症に繋がる可能性がありますので、
行わない事を勧めます。
4.まとめ
この記事で記載したリスク管理の方法を箇条書きで記します。
〇神経損傷
・頸部の重要血管の位置を念頭に入れ、頸部経穴(特に風池、完骨、翳風)
では深さ30mm、もしくは斜刺で刺入する。
〇皮膚疾患
・金属アレルギーの有無を確認し、有れば施術前に末梢部に鍼を1本置鍼、
もしくは、円皮鍼を貼付してアレルギー反応が起きるか確認する。
・できれば、ステンレス鍼を使用する。
・折鍼の対策を行う(ディスポーザブル鍼を使用する、体動をさせない、
運動鍼を行わない)
・必要以上の刺激を与える施術を行わない。
○灸施術
・焦灼灸を行わない。
5.さいごに
鍼灸施術に関するリスクを解説してまいりました。
しっかり、リスクと対策方法を頭にいれておけば、回避できるもの
ばかりだと思います。
鍼灸院や整骨院に就職した際、院によっては安全教育が不十分、
もしくは行わない場合がありますので、個々が把握しておくべきでしょう。
また、2.皮膚疾患で書いた、23G程度の太さの鍼を100本刺入するといった
誤った施術方法がSNSや勉強会で発信されることがありますが、
誤った施術方法だと見分けられるように論文を読むことも重要です。
また、この他にも、レッドフラッグサインを見逃してしまうと重大な疾患に繋がりかねません。
次の記事では、レッドフラッグサインの鑑別方法について
解説していきます。
6.参考記事
(1)古瀬 暢達,山下 仁,鍼灸安全性関連文献レビュー2016~2019年,全日本鍼灸学会雑誌,2021年第71巻4号,245-264.
(2)古瀬 暢達,上原 明仁,菅原 正秋など,鍼灸安全性関連文献レビュー2012~2015年,全日本鍼灸会雑誌, 2017 年 67 巻 1 号 p. 29-47.
(3) 松岡 憲二, 北村 清一郎, 金田 正徳など, 後頸部諸経穴への刺針に関する解剖学的考察〓門・天柱・風池・完骨・翳風について, 全日本鍼灸学会雑誌1989年39巻2号p.195-202
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