『技術法務のススメ』第二版

改訂版が出てたことを知り、約8年ぶりに読み返しました。ビジネスの視点から、知財はどの様に活用されるべきか、どの様な活用の仕方があるのか、鳥の目で見てみようという目的で本書を読みました。
以下、私が気になった点をまとめました。


マーケットは常に歪んでいる

ビジネスにおける知財の役割
事業のバリューチェーンの中で、第三者と協働する場合には契約が発生する。技術を収益化するためには、上手に契約する必要がある。代理人は依頼者の意向に従うが、一歩踏み込んで、依頼者が設定した課題が適切なのか、より良い解決策があるのではないかとプロアクティブに参画することも検討する。

知財投資のコストとリターン
コスト: 出願費用、人件費、コンサルティングフィーなど
リターン: 市場参入を継続している状態(市場参入きっぷ)+ロイヤリティ収入

知財戦略 セオリ

⑴ 必須特許ポートフォリオ論

マーケットシフトに呼応して、必須特許もシフトする。

※本当に強いビジネスでは、自社が当分野でビジネスを独占している状態を意味する。すなわち、ロイヤルティ収入ゼロが理想。

必須特許なき研究開発は投資の無駄に帰着する。
「必須特許なくして市場参入なし」

①一般に、製品を守る特許は複数で構成されることが多い。各必須特許は別々の企業に帰属することが多く、このとき必須特許の持ち合い状態になる。必須特許を保有している者同士が特許を潰し合うと、第三者参入を許すことになるため、争われないことが多い。必須特許は市場参入きっぷ。

②きっぷがない時の対応
・マーケットニーズの動向(マーケットシフト)を捉えて、新たな課題に基づいて次世代の必須特許を取得する。
・特許買収する。
・実施許諾を受ける。

③企業が知財投資し続ける理由
新たな市場ニーズが惹起される(マーケットシフト)と、必須特許もシフトする。次世代の必須特許を確保しなくては、市場撤退となる。

④知財投資のリターン
必須特許を確保し続けてこそ、市場に残ることができる。

⑤必須特許保有者の分析
『被引用回数×出願年』をプロットする。
一般に、出願年が古いものほど基本性が高く、重要な特許ほど審査段階での引用回数も多くなると考えられる。
適宜、基本特許群の中から、製品と明細書を比較して、必須特許かどうか判断する。

⑵ 2軸マーケティング理論

必須特許を効率的に取得するには?

以下の2軸で検討する。
顧客目線-顧客が真に求める商品・サービスなのか
競合目線-コンペティタが今まで着目していない商品・サービスか

市場規模が大きく(①)、かつ、必須特許を取得できる可能性が高い(②)分野が、開発投資をするのに最も適した分野と判断できる。

※分野を切り分ける際、物質だけでなく、用途・機能などの軸で切り分けることも検討する
。また、市場規模が小さくてもその市場でトップシェアを獲得するニッチトップ戦略(主に、中小、ベンチャー)もありうる。

⑶ 知財経営定着理論

リターンには、長い時間を要し、また、定量的に評価し辛い。競合品が出にくくなったり、ブランドが向上したり、従業員モチベーションが向上したりする事も知財経営によるリターン。

以下を連動させる必要がある。
① 経営戦略上の目的・戦略
② 知財活動の目的
③ 具体的な知財活動・仕組み

知財活動(③)を行う事が、経営戦略上の目的(①)を達成する事に貢献する必要がある。また、それを説明する責任し経営陣・他部署に理解してもらう必要がある。更に、知財活動を企業活動のシステムに組込みメンテナンスを行うことで、継続性が生まれる。

例) 4年後に売上4倍を達成する
・既存市場での売上拡大なら、マーケットシフト・コモディティ化時期の予測を行い、市場予測の精度を高める。
・新規市場参入なら、参入きっぷの確保(出願(分野設定)or買収orライセンス)を行い実現可能性を
高める。また、マーケットシフト・コモディティ化時期の予測し参入市場が適切か判断する際の情報に含める。
・競合を特定できれば、競合の背景により、価格競争が起こったり、より高いシェアを狙えると予測できる。予測精度を高める。
・他社特許を潰して競合を撤退に追い込み、シェアを拡大する。

⑷ 技術のコモディティ化理論

技術のコモディティ化が起こると、第三者による無制限な市場参入、先行者の著しいシェア低下を招く事になる。パテントクリフ。特許戦略の限界。

技術のコモディティ化とは以下の状態を指す。
当該製品にかかる全ての製品スペックについて、
(a) 満了した特許技術のみによって製造できる製品スペック
= (b) 市場の要求するスペック

① 技術のコモディティ化の度合いを評価する

技術がコモディティ化する時点(B時点)
=[(最初の実用的特許出願時点と出願件数ピーク時点)の中間時点]+ 20年

特許出願の流れは、試験的な出願→基本特許→必須特許(基本的機能→量産技術)→周辺特許と考えられる。
試験的な特許は、実用的特許(必須特許?)から除くことを検討する。
必須特許が取得され尽くされたと判断されると、出願件数はピークを迎えると考えられる。

② コモディティ化しにくい製品
・スペック数が多い製品、時代とともに新たなスペックが現れる製品
・一定すうの製品スペックを実現するためには、特許のみならずノウハウ等の比重が大きな製品
※すり合わせ技術
※機密情報の漏洩は人の移動に伴うことが多いので、秘密管理対策が必要

③ ステージ論: 研究開発や事業化の際に技術のコモディティ化の度合いを考慮する
・特許出願件数がピークアウトし、コモディティ化の時期を予測できるのは、コモディティ化の10年以上前なので、10年かけて事業の売却や移管などの経営戦略を検討できる。

・・A: 技術力を用いて、高機能・多機能化する
・・B: 技術以外で、デザイン性、アフターサービス、ローカライズなど行う(低価格を含む)
・・C: 市場から撤退する

※Bの場合でも、ビジネスモデル特許、意匠、商標、ブランドなど、知財を活用すべき場面がある。

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