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中澤龍二 個展『翳』に寄せて

 早いもので今年もあと少しで終わりである。師走となると街をゆく人も浮足だっているような気がして落ち着かない。
 今回は『翳』というタイトルの個展を今回は開いているがテーマやステートメントが緻密に建てられているという訳ではない。どちらかというと気持ち的にはラフな展示である。吉祥寺という町は以前から通っており、百年は高校生の頃にも何度か足を運んでいた。その上、今年の9月にも吉祥寺で展示があり来る頻度は高かった。だが何回も通っても自分の居場所には決してならない。自分の居場所がどこにあるのかという問いは制作だけでなく生活の中でも考えている。久しく帰らなくなった実家も、いざ帰ってみると再開発で昔の景色が綺麗になくなっていたりする。大学近くの彼女の家も同じで自分の居場所にはなり得ない。お互いが卒業したらどうなるのか、考えることは多く安寧の場所とは言えない。
 『翳』というタイトルは原民喜の短編集から引用している。原民喜と自分の境遇を比べるという烏滸がましいことはしないが、彼の作品が現代でも読み継がれているのは今を生きる人にも彼の孤独に共感させられるものがあるからなのかもしれない。彼は妻を亡くし、郷里の広島に帰って原爆による被曝。その後、上京するが五年後に鉄道自殺をしている。各地を転々とさせられる状態はカフカ的でもあるしアンナ・カヴァンのようでもある。
 ぐるぐると延々と知らない街や土地を転々とする生活は楽しくもあれば、それ相応の居場所を求めてみたいと思ったりする。
 吉祥寺にて 中澤龍二

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