世田谷パン祭り2023 嫌いなパンの話
全国からパン好きが集まるイベント、世田谷パン祭りにて嫌いなパンの話を集めています。
パン好きに真っ向から刃向かってる感じの企画ですが、人の嫌いな食べ物の話聞くの面白いんですよ。
2023年10月28日、29日に世田谷公園で、嫌いなパンの話を聞くブースを出展しています。
そこに誘導するために作った、短編小説嫌いなパンの話を下記に載せておきます。
短編小説 嫌いなパンの話
その1
「ちょっと聞いてくださいよ。ゆるせないパンがあるんです」
突然友人のNから電話がかかってきた。LINEではなく電話をかけてくるとは、よほど憤慨しているのだろうか?
「ゆるせないパン?だってパン大好きじゃん。こないだもパンのイベント行ったインスタ見たよ。いっぱい買ってたでしょ」
「いやパンは好きですよ。でもパンが好きだからこそ、許せないパンがあったんですよ」
「なになに、どんなの?」
「アンパンマンのパンです」
アンパンマンねぇ…たしかスーパーに売っている、スティックパンか。小さい頃に牛乳に浸して食べたな。半分お菓子みたいなものじゃないか。
「そんなに嫌わなくても、あのスーパーにある細長いやつでしょ?子供のおやつだし、いいじゃん」
「スーパー?あの顔の形したやつですよ、街のパン屋に売ってるリアルなアンパンマンのやつ」
あっちか。僕が子供の頃はドラえもんパンが多かったけど、そういえば実家そばのパン屋にもあったな。最近、町中華が流行っているけど、町パン屋もいいよな。
「はいはい。かわいいじゃん。子供もよろこぶし。たまに形が崩れてるんだよね。まぁ美味しいかって言われると、自分じゃ買わないけどさ」
「味の問題じゃないんですよ。味としては嫌いじゃないですけど、中身の問題です」
「中身?」
「そうです!あれアンパンマンなのに、中にチョコレート入ってるんですよ。ゆるせなくないですか?アンパンマンなんだから、あんこ入れるべきでしょ」
たしかに、言われてみれば中身はチョコレートだ。アンパンマンなのに。
「で、でも、やっぱ子供向けだからチョコのほうが喜ぶんじゃ」
「そこですよ!べつにあんこ好きな子供だっていますよ。原作だってバタコさんがあんこ作ってるんですよ。それをみんなが喜んで食べるんですから」
「そ、そうなのあれってバタコさんがあんこ作ってるの?」
「そこはどうでもいいんですけど、やっぱアンパンマンって言ってるんですから中身はあんこであるべきだと思いません?子供に媚びてるっていうか、勝手に子供はこっちが喜ぶって考えてんですよ」
「たしかに、じゃあのチョコ入りのアンパンマンパンが許せないってこと?」
「そうです、味が嫌いっていうかチョコ入れる考え方がどうかなって思うんですよ。あんこだったら全然いいんです。アンパンマンの中にチョコ詰め込むなんて、なんか暴力的じゃないですか。例えばカレーパンマンパンがあって中がチョコだったら怒りません?」
「ま、まぁねぇ」
確かにカレーパンマンだったらなんか嫌だな。
「バイキンマンパンとか作ってチョコ入りにすればいいんですよ。アンパンマンはあんこであるべきです」
「世の中には、あんこのもあるんじゃない?」
「食べたことあります?あんこ入り」
アンパンマンパンあまり食べたことないのだが…
「食べたことないなぁ…あっあそこは、あのアンパンマンミュージアム。あそこパン売ってるんじゃない?公式は、あんこなんじゃない?」
「ちょっと調べてみます!」
「うんうん」
電話の向こうからキーボードの音が聞こえてくる。
「あっありました。ミュージアムのパン屋。えっと、アンパンマンは、北海道小豆のつぶあんです!さすが公式、わかってますね!」
「ちゃんとしてるな」
「すいません夜おそくに電話かけてしまって、ちょっとホッとしました。ありがとうございました」
「いやいや、いいよ大丈夫。面白かったよ。それじゃ」
アンパンマンの中身ってつぶあんだったんだ。
短編小説 嫌いなパンの話
その2
「はい、もしもし」
Nさんからの電話だ
「嫌いなパン、まだあったんですよ」
そうか、まだあったか。
「嫌いというか、もう買うのやめようと思ったパンなんですけど、最近買ってなかったんで、すっかり忘れてました」
「そのパンも味は好きってこと?アンパンマンみたいに」
「そうですそうです、好きっていうか。好きすぎて嫌いになったんです」
そうなんだよNさんは、味で嫌いになるんじゃないんだよ。
「で、なんのパンなの?」
「塩パンです!」
「塩パン?なにそれ?」
「知らないですか?塩パン。あのロールパンとクロワッサンの間みたいな感じで、流行ったじゃないですか」
「えーちょっと待って」
僕は携帯をスピーカーモードにして、塩パンをググった。
「あぁ知ってる。パン屋で見たことあるよ。食べたことあったかなぁ」
「美味しいんですよ。バターの香りがたっぷりで、上に塩が乗っていて。それがアクセントになっていて」
好きじゃん。
「それで昔大好きだったんで、塩パンのお店でバイトしたことあるんですよ」
えっ、大好きじゃん。
「それであのパンってすごいバターを練り込んでるんですけど、焼くとジュワーってバターが滲み出てくるんです。で天板に滲み出てくるんですよ」
「ほうほう」
それで、クロワッサンみたいに軽く仕上がるのかな。
「そしたらその天板に滲み出たバターって捨てちゃうんですよ。もったいなくないですか?」
えっ、そこ。
「その天板に溜まったバターを捨てるのがすごい嫌で。バターに申し訳なくてバイトも辞めて買うのもやめたんです。私が食べた分だけ多くのバターが捨てられていくんですよ。それを少しでも阻止するためにもう買うのやめました」
うっ、たしかに勿体無いけど。でもなぁ。
「そんなにバター出てくるの?見たことないんだけど。でもそれで軽く仕上がるんじゃない」
レシピにもよるんじゃないかと思うのだが、Nさんのバイトした店はいっぱい滲み出たんだな。
「でも、なんかバターに申し訳ない気がして、もう食べるのやめたんです」
そうか、作る行程が嫌いなのか。人が何かを嫌いになるっていろんな理由があるもんだなぁ。
今度塩パン買ってみよう。
短編小説 嫌いなパンの話
その3
「ちょっといろんな人に、嫌いなパン聞いてみたんですよ」
Nさんからの、嫌いなパンの話だ。
「パンなんて誰でも食べるものだし、そんなにあった?」
「それがけっこうあるんですよ、みんなの嫌いなパンの話。ちょっと聞いてください」
「うんうん聞かせて」
「まず最初は、ベーグルです」
「あぁベーグルねぇ、これは好き嫌いありそう」
「そうですね。固くて嫌だって人もいるんですけど。私が聞いた話はですね。そのひとアメリカに住んでいたことがあるそうなんですよ」
「本場だね」
「そうなんです。でもきっかけは歯医者らしいんです。向こうで治療したそうですが、アメリカの歯医者さんにベーグルは銀歯取れちゃうから、しばらく食べないでって言われたんですって」
「銀歯とれんの?」
「なんか安定するまでは食べるなって話らしいんですけど、それからベーグル食べるのが怖くなっちゃったらしいんです」
「本場のベーグルはそんなに硬いのか」
「アメリカもいろいろあるらしいですよ。軽いサクッとしたベーグルから、みっしりしたものまで」
「なるほど、でもそれは怖い。僕も銀歯あるからちょっと怖くなっちゃったんだけど」
「アメリカだと、あるあるかもしれないですね。でもきっと日本の餅のほうが銀歯はずしていると思いますよ」
たしかに。
「あとベーグルに関してだと、買って食べてみないと硬さがわからないから買わないって人いましたね。その人はもっちりむっちりが好きらしんですが、でも硬すぎるのも嫌らしくて、その買ってみないとわからないギャンブル性が嫌みたいです」
「なるほど」
「あと他にはですね、バゲットですね」
「おっ王道だね。やっぱり固いからかな」
「私の聞いた話は、食べると血が出るって話ですね」
「血かでるのか、歯茎とか?」
「その人は上アゴらしいです。でも今は食べれるらしくて、パンに詳しい人から食べ方を聞いて実践したら血が出なくなったそうです」
「えっ食べ方の問題なの?」
食べるの下手すぎないか。。。しかもどんなレクチャーを聞いたんだろ
「前はどんな食べ方していたんですかね。でも今は血がでないから食べれるそうです」
「とがってるバゲットの端っこ固いよね、そこが美味しいんだけど」
「あとは、上アゴだと、クリームパン食べると上アゴがイガイガするって人がいましたね」
「えーそんなことなる?」
「なんか、イガイガするクリームと、平気なのがあるらしいです。大手のクリームパンのほうがなりやすいそうです」
「なんだろ、なんかのアレルギーなのかな」
「パン屋のは平気なことが多いけど、イガイガすると嫌だから食べないそうですね」
なるほどね。嫌いな理由もさまざまだな。
「嫌いな食べ物の話なんて、ふだん聞かないから面白いね。個性があるよ」
「そうですね。その人の奥の方に触れる感じがあって話すと盛り上がりますね」
短編小説 嫌いなパンの話
その4
「僕にもあったよ、嫌いなパン。僕は無いと思ってたんだけど考えていくと出てきたよ」
今回は僕から電話をした。今日も嫌いなパンの話だ。
「これみんな嫌いだと思うんだけど、飛行機の機内食で出るパン」
「嫌いな人いそう。私はけっこう好きですけどね、飛行機のパン」
「そうなの?なんか最近飛行機乗ってないから、今は変わっているかもしれないけど、一つずつビニールに個装されてる丸いパンのイメージない?」
「大きいバターもついてきますよね」
「そう、それなんだよ。パンもいまいちなんだけど、あのバター大きすぎない?」
「あれは確かに大きいです。それで冷えてて固いんですよ」
「そうなの!まぁせっかくバターついてるし、使ってみるんだけどさ固くてぜんぜんパンに塗れないの。それで無理やりパンをつけにいくと、パンがスカスカで乾燥してるから、パンがバターに負けて、けずられてボロボロになっていくんだよ」
「なるほど。なりそうですね」
「もちろん飛行機会社で違うと思うけど。なんかいい思いしたことないよね、機内食のパン」
「でも機内食って楽しく無いですか?」
「基本的に、機内食って美味しく無いと思ってるんだけど。まぁあれも旅情っていうのかな。ちょっと気分あがるのはわかる。だけどパンはダメだね」
「もしかしてエールフランスでパリから乗ったら、すごい美味しいパン付いてくるかもしれないですね」
「パリからの飛行機かぁ、乗ってみたいな」
たしかに安い飛行機しか乗ったことないしな。ファーストクラスは美味しいパン食べてるのかなぁ。
そりゃ飛行機によって違うものでてるよな。
「あっあともう一個、フランスと言えばブリオッシュ」
「ブリオッシュ…ってどんなのでしたっけ?名前はわかるんですけど、形がうかんでこないです」
「あの変な形のやつ、上がポコって丸くなってたりする」
「えっと、どんなのでしたっけ?」
「ちょっと調べてみて」
「はいググってみますね」
「あぁこれですか。食べたことあります。でもいろんな形あるんですね」
「ブリオッシュって卵とバターをたっぷり使ってリッチなパンです。ってポップに書かれてたりするんだよ」
「へぇそうなんですね」
「でもさ食べるとなんかパスっとしてて、リッチな感じがしないんだよ。うたい文句と食べた時の印象が違うんだよ。クロワッサンのほうがリッチな感じするし」
「そんな味でしたっけ?」
「そうそう、あれだったら他のパン買っちゃうなぁ」
「調べるとフルーツとかクリームとか挟んでるのありますよ。美味しそう」
「ケーキ的に使うのか、だったらケーキ食べればいいじゃん。やっぱブリオッシュは今後も買わない」
「フランスから飛行機乗ったのに、ブリオッシュでたら残念ですね」
「うわぁそうなったらほんと残念だな」
「私は機内食好きだし、ブリオッシュも絶対美味しいと思いますけど。新しい視点をもらう感じで面白いです」
「まぁ食べ物って、みんなが同じように感じているわけじゃないってことだよ」
「なんか個人的な事情を聞いているみたいで面白いですね」
「味覚だけじゃないんだなって思ったよ。嫌いな話なんだけど、思い出とかフェチっぽいところが出るよね」
「ただ好きとか、嫌いって話するだけじゃなくて理由を聞くと許せるっていうか楽しくなりますね」
「いがみ合わずに嫌いな話できるって文化的だと思うよ」
「アンパンマンパンも納得いかないってだけですもん」
「アンパンマンの話は嫌いな話なのになんか平和だな。もっといろんな人の嫌いなパンの話きいてみたいね」
「いろんな人に聞いてみたいです!」
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