見出し画像

【読書感想】 「逆ソクラテス」 伊坂幸太郎

収められた5つの短編はそれぞれ主人公が異なっており、どれも小学生時代が舞台の中心となっています。
どの話も世の中の先入観や偏見への挑戦状、簡単に人を軽んじたり他人の尊厳を犯すような人達へ警告するような、作者からのメッセージ性が強い作品のように感じました。

ストーリーは俗に言う「スカッとする」話ばかり。人によっては全て都合良くまとまりすぎていてつまらないと評する人もいるかもしれません。

たしかに世間に揉まれ、知らなくても良いことまで知ってしまった一定年齢以上の大人には、これら物語のようなストーリーが現実ではなかなか起こり得ないことを知っています。偏見や先入観があながち間違っていないということも経験してきたのではないかと思います。

それでも、もしかしたら探せば現実にもあるかもしれない、ひょっとしたら1000ケースに1つくらいはこんな気持ちの良い現実があるんじゃないか?そんな風に思わせるパワーを感じました。

そしてどのお話も、痛快さだけでは終わらない、読後になんだかわからないもの悲しさ、心に残る哀愁もあります。
友達に何も言わず転校していった子、お父さんがくれた服をいつも着ている子、昔のクラスメイトが大人になった写真を見て涙する元クラスメイト、更生しようと頑張っている元犯罪者…
弱き者を包み込むような愛や祈りのようなものが伝わってきました。

登場人物に向けられた眼差しが暖かく、伊坂先生はきっと優しいお人柄の方なんだろうなぁと思いました。

世の中に疲れてしまった時、厭世的な気分に陥ってしまった時に一服の清涼剤としてお勧めしたい本です。

また、それぞれの物語は完結しているのだけれど、同じ登場人物が複数回現れたり、この人はあの時のあの子なのでは?と思わせるような記述があったり…物語の外側への想像を掻き立てられます。伏線回収のような楽しみ方もあるのかなと思いました。

漢字のルビが少なめですが、可能なら小学生にも読んで欲しいと思う作品でした。むしろ子供の方が共感する部分も多いのでは?と思いました。

余談ですが、私は映画トランスフォーマーで肝心な時にいつも不在がちなリーダー、オプティマスプライムをギャグかしら?と思いながらいつも観ていました。作中に少し触れられるオプティマスプライムに対する評価が面白く、伊坂先生も私と同じような視点でトランスフォーマーを観ていたのかも、と思うと少し嬉しくなりました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?