見出し画像

品質保証部員にはなるな!#1

導入

 初めまして。製造業の品質保証部で働いているQA太郎と申します。
少々過激なタイトルですが、品質保証部に対する愚痴の様な思いを吐露したいと思います。

 まず、品質保証部とは何なのか?ご存知無い方も多いと思います。品質保証部とは会社の中の部署名です。営業部、開発部、製造部、人事部、経理部とかと同じ並びになります。主に製造業の会社に有り、会社によっては品質保証課、品質係、品質管理課等と名前が違う場合があります。略して「品保(ひんぽ)」「品管」等と呼ばれます。

 営業部とか製造部はやってることを想像し易いと思いますが、品質保証部は何をする部署でしょうか? 一言で言うと、お客様からのクレームを受けて対応する部署です。 こう言うと「そうじゃない!」「未然防止する部署だ!」等と息巻く方がいらっしゃいますが、実際クレームを受ける部署です。よく世間で避けられるコールセンターの仕事に近いものがあります。
 
 実際、私は品保の仕事が嫌いです。できればやりたくなかったです。
そんな私が品保の何が嫌なのかを解説していきます。
 企業の規模や文化によって品保の扱いは違うと思いますのでできるだけ汎用的な解説を心がけます。

嫌なこと其の一:他人の失敗で謝らなければならない。

 製造業であれば、開発部が製品を開発して、それを製造部が製造し、それを営業部が販売すると言う流れになります。そうして販売した製品にクレームがつく原因は主に、開発部が開発ミスをしたか、製造部が製造ミスをしたか、営業部が不適切な顧客に販売したか、の3つになります。品質保証部員は開発をしませんし、製造もしませんし、販売もしません。なのにクレームが来たら矢面に立って対応しなければならないのです。詫び状を書いたり、顧客に謝りに行ったり、製品を検査させられたりします。

 人は自分のミスで責められても「まあ自分が悪いんだし」とミスを受け入れて反省することができます。ですが他人のミスで責められると「なんで俺が怒られなきゃあかんねん」という気持ちになります。人間は自分でどうしようもできない事で責められると強いストレスを受けるのです。これが1件2件くらいならまあ流せますが、毎月毎週クレームばかり受けていると心が病んできます。そして同僚や会社が嫌いになってきます。

嫌なこと其の二:つまらない。

 品保の仕事ってつまらないんですよ。かかってくる電話、入ってくるメール、全てクレームか不具合というマイナスの話ですので。
 普通、仕事ってプラスの面があるんですよ。開発部なら新製品を開発したとか、営業部なら売上を伸ばしたとか。製造部だって沢山生産したとか、新規装置導入して生産量が倍増したとか、ポジティブな話題は沢山あります。でも品保はマイナスの話ばかりです。本来起きてはならないクレームや不具合に対処してもマイナスがゼロになるだけで、決してプラスにはならないんです。
 品質の定例会議ってのが行われるんですけど議題は先月のクレームと不具合の話ばかり。こういうクレームを受けて、お客さんにはこう説明して、車内はこう言う対策をして、損失金額はいくらでした。と言う話が延々と続きます。聞いてる他部署の人たちもつまらなくてだんだん参加しなくなります。社長や事業部長といった責任者すら参加しなくなります。品保の私ですらつまらないと思うんだから仕方ないですよね。

嫌なこと其の三:社内で嫌われる。

 品保の仕事はクレーム対応と言っていますが、その反面、社内の仕事を止めると言う大きい権限が与えられています(本来は)。どういう権限かと言うと、開発部が製品を量産移行する(完成させる)のに品保の承認が要ります。また製造部が作った製品を出荷するにも品保の承認が要ります。本来、品質保証部とは出荷する製品(サービス)を承認する権限を持つので、それらに対してクレームを受けた際に対応する責任を持つのです。

 品保というのは言わば社内の門番です。忖度せずに公平・公正な立場で社内の仕事を確認し、場合によっては止める立場です。なのでイケイケどんどんの開発部や製造部とは対立する宿命に有ります。その対立こそが会社の品質を向上させる品保の存在理由なのです。
 しかし全従業員がその様な品保の高尚な目的を知っているわけでは有りません。「せっかく開発したのに品保が重箱の隅を突く様な指摘しやがって」「せっかく作ったのに何もしてない品保が偉そうに止めやがって」、この様に感じる従業員が出てくるのは当然のことであり、品保は嫌われていきます。嫌われるのが嫌なので開発部や製造部に忖度して甘い判断を下す品質保証部員もいますが、それは品保本来の仕事を放棄していることになります。あえて社内の嫌われ役になって製品・サービスの品質を守るのが品保の仕事なのです。

嫌なこと其の四:評価されにくい。

 今時の会社員であれば上司から評価という点数付けをされるのですが、基本的に品保は高い評価を得られません。

 他の部署、例えば開発部は新製品を開発すれば会社の売り上げに貢献します。同様に製造部は製品を作れば作るほど売り上げに貢献しますし、営業部は製品を売れば売るほど売り上げに貢献します。努力と貢献が正比例の関係で増えていきます。
 それに対して品質保証部は本来発生してはいけないクレームや不具合を相手に仕事します。マイナスからのスタートです。そして頑張って前述の様に社内と戦ってクレームや不具合を減らしたとします。それでもゼロに近づくだけでプラスにはなりません。そしてゼロになったとて評価されません。

 とてつもなく優秀な品質保証部員がいたとします。彼の未然防止活動で担当製品のクレームと不具合がゼロになったとします。しかし上司や周りの同僚は彼の努力でゼロになったのか、元々ゼロなのか区別がつきません。

 バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2という私が好きな映画が有ります。ビフという悪者が2015年の未来でスポーツの結果が載っている年鑑を手に入れ、それを過去の自分に渡してスポーツ賭博で大儲けします。その結果1985年の街はビフが支配する無法地帯になり、主人公マーティーの父親も殺されてしまいます。最終的にマーティーの活躍で歴史は修正され、1985年は本来の平和な街になります。しかしその1985年の住人は平和な未来しか知らないので、マーティーが活躍したおかげとは思わないわけです。

 不具合の未然防止も同じことです。クレームが減っても品質保証部員のおかげとは思われません。それどころか、クレームが減ると仕事は減りますので、「あいつ仕事してねえな」と逆に低評価をつけられて仕事も増やされることになります。まったく浮ばれません。
 
 また品質保証部の管理職は開発部等の他部署の管理職がスライドしてくることが多く、一般職の品質保証部員はあまり出世できません。
 企業によっては品質保証担当役員などと言う方がいらっしゃいますが、遡ると開発や総務や製造等他の部署で昇進した方であり、生粋の品質保証部員が出世するケースは珍しく感じます。

嫌なこと其の五:成長できない。

 評価されないと書きましたが、品保やってると成長できないのも事実です。やはり開発や営業の様な総合職は大変ですが、その分様々なビジネス経験を積むことができ、幹部になるのに必要な広い視野を得ることができます。
 一方品保は慣れてしまえばルーチンワークであり、しかもビジネスの極々一部だけをやることになります。「品保は統計を使う」などと技術職の様な事を言う方もいますがそんなのは高校レベルの初歩です。頭は下げることに使う方が多いです。
 そして前述の様に責められる日々を送るので頭が意固地になってきます。学習性無気力感と言うらしいです。あなたの会社にも扱いづらい中高年の品保の方がいるのではないですか?あれは元々の素養もありますが、品保という環境が作り出した悲しきモンスターなのです。ソースは私です。

おわりに

 この様にグチグチとネガティブな事を書いて気分を害された方もいらっしゃるかもしれません。ごめんなさい。反論とかご意見歓迎します。

 そんなに嫌なら会社辞めればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、品保が嫌で会社を辞めても転職できる先はまた品保だったりします。ここで書いてることが本になって脱サラしたいなと夢見ています(出版社さん連絡ください!)

 品保は現在の日本の企業ではなかなか日の目を浴びない部署です。ですが本当は重要な部署なんです。一昔前は日本製品は品質が良いと言われていましたが、今では海外企業の方が勢いがあり、なんだかんだ品質も良いものが多いです。その陰には海外企業の中の品質保証部の存在があります。日本の企業の様に軽く扱われず、品質のプロフェッショナルが専門性を持って、権限と責任の下にシビアな仕事をしています。気が向いたらそのあたりも書きたいと思います。
 日本の経営者に品保の重要性が伝わる事を願いつつ。

終わり


この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?