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大人の「創曲」 ファイル2

今回も、大人編のOto to Art。30代男性Yさん。
まず最初に 耳をひらき、音を認識する解像度をあげるウォーミングアップを行った。

※「ウォーミングアップ」や「創曲」に関する詳しい内容は、前回の記事を参考にしていただきたい。

このウォーミングアップをすると、耳が、今まで聞こうとしたことがなかった音も拾うようになる。普段僕らは、目を使うことが多いが、敢えて「耳によって」世界をみてみようとするようなワークである。

ウォーミングアップ。即興で音遊び。徐々に、耳を開く。

今回のYさんは、珈琲が好きだということもあり「珈琲から音楽を創る」ということに決めていた。

まず、珈琲をドリップする。前日に焙煎したものだ。
インドネシアの珈琲"トラジャ" を深煎りで。

実は僕、生豆を買って 自家焙煎する程の珈琲好きです。

ウォーミングアップから創曲の間、休憩がてら、淹れた珈琲を飲む。飲みながら、味の印象を紙にメモしてゆく。Yさんは普段から珈琲をよく飲み自らも焙煎したりドリップするほどの珈琲フリークである。最近味わいながら飲んでなかった、と言いつつも、さまざな印象を言葉にしながら飲むのを楽しんでいた。

やさしい味、ミルクチョコレート、果物で言うと・・・。などの切り口は、珈琲をテイスティングする時と同じ。ここから音楽がどのようにして生まれるのか。

日常を共にしている「珈琲」から音楽を創る。

最初は、あくまでふつうに珈琲を楽しむ。味を言語化しながら二人で感覚を探る。深煎りなのに、甘みが強い、とか、鼻に抜ける香りがどこかで嗅いだ食べ物の香りがする、バナナじゃない?とか。飲み下し、鼻から息を吐いた時に立ち昇る香りがある。余韻。その余韻が、後頭部側から周り、鼻の方へ降りてくるのをジェスチャーで表現しながらこの「縦型の香りの旋回」を線描で描いてもらった。色で表すと?色鉛筆を使って、線描の上からなぞる。香りの軌道を描いてみる。

香りの軌道を、色鉛筆で。

珈琲を飲みながら線描や、言葉が少しずつ出てくる。インドネシアの珈琲特有の「土臭さ」なども音楽につながる重要なキーワードとなった。

そろそろ、創曲に取り掛かる。まずはやはり、音色探し。取り掛かりやすそうなキーワードから取り掛かってみる。

まずは、先程描いた香りの軌道。縦型に、首の後ろを通り、頭頂部に達し、鼻に落ちたあと、落ち切らずに弱々しく平行線を描くように進み、やがて消えてゆく。線描に重ねるようにして塗った色は緑、黄、オレンジ。これらを思わせる音色を探す。曲線や色の印象が音色探しにぼんやりと方向性を与えてくれる。

僕は例のごとく、Yさんが鳴らしてゆく音色の中で候補になりそうなものをメモしてゆく。都度、この音色ならばこのような音楽的アプローチが合うかもしれない、というのを弾いてみせる。

Yさんがまず選んだのは、カリンバの音に水音が尾ひれのようにくっついてくる音色だ。弱く鳴らせば、カリンバはならず、微かに水音だけがする。音楽の冒頭に相応しい。Yさんが戯れに弾く感じが、物語の幕開けを告げるような音だった。それを拾い、早速録音。

一つ録音する度にプレイバックを聴く。自分で納得がいったか、もっとこうしたいと言う感覚があるかに敏感で居てもらう。納得がいったら、次の音を重ねてゆく。 

次は、Yさんは囀る鳥の音をイメージし、エレピの音をランダムに入れた。

最後に、この楽章の土台になるような低音域が欲しくなったので僕がコントラバスの音色を入れた。

蜜璃の濁った、流れの緩やかな川をカヤックでゆくようなシーンが浮かんできた。その絵を描いてみる。Yさんが「朝方のイメージだ」と言ってくれたので、朝方に霧のたちこめるジャングルの川をカヤックで往くと、樹々が開けた先にボロブドゥールのような古代遺跡がバーンと現れた!というようなイメージがまた生まれた。ちょうど太陽が南中し、霧が開けた先にボロブドゥール。これはまた面白い展開になりそうだ。

そこから更に、ボロブドゥールからイメージする言葉や印象を出してゆく。
宗教、仏教などを取っ掛かりとして、また音色を探す。

電子オルガンの音色が東南アジアの仏教寺院のイメージとぴったり来る気がしたので、電子オルガンの音色を用いる。宗教感を出すために、少しサウンドを鳴らす上でのヒントを伝える。楽理的なことも、必要の中で触れると、アレルギーを感じずに(難しく考えすぎずに)受け入れられる。イメージと楽理を結びつけながら進める。

5度や4度の音程を保ったまま、自由に手を動かしてもらった。

プレイバックを聴く。

珈琲からどんどん音楽が出来上がってゆくプロセスに、Yさんも興奮を隠せない様子。

遺跡内に無数の中型の仏像が並び、迷い込むような音楽になったので、次の展開が見えて来た。

遺跡に暮らす民族の饗宴に招かれ、、

最後は生け贄にされる・・・。

生きたまま心臓を取り出す音色って?

生け贄にされる瞬間と、された直後の昇天までの様を、音色を探しながら、二人で音楽にしていった。

・・・

完成品を聴いてみる。

こちらもまた、10分ごえの大曲になっていた。まさか珈琲からこのような音楽が生まれるとは想像もしていなかったらしく、Yさんも非常に興奮していた。違う味の珈琲で創ったらまた全く違う音楽になりそうだという風に言ってくれたので、早速参加も決定した。

次はどんな音楽が生まれるのか。楽しみだ。

創曲は、新しい遊びだ。

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