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1社目

 通っていた職業訓練校の電気設備のクラスでは四十代の人が多く、建物の配線作業などの現場仕事を志望する人はほとんどいなかった。多くは資格を増やすことで昇給が見込める職種であるビルメンテナンス業への就職を考える人が多かった。勉強ができる時間がある程度確保されている会社が多く、勉強すればするほど手当てが上乗せされていくからである。

 ご多分に埋もれず私もそちらの方向での就職を考えてもいた。しかし求人サイトに載っていた給料の額と仕事内容から「できるかも」という気持ちで応募した会社はメンテナンスの会社ではなく電気の業界の中でも半導体の製造工程の一部を扱っている会社だった。

 業務内容としては半導体の製造工程の際に使われるマシンの組み立て作業だった。普段から楽器をばらして組み立てなおすことを趣味にしていた私には組み立ての作業は魅力的に思えた。またものづくりという点では前職に通じるものがあるし、マシンの組み立てなら図面が決まっているものを組み立てる作業ができると思った。給料は基本18万に手当てが7万がついて25万という額面だった。求人票を見たところでは休みは基本土日のみであとは盆と正月という内容だったと思う。
 

 具体的な日数は覚えていないが一月の半ばに履歴書を提出し一月の最後の週に面接が決まっていたと思う。訓練校に午前中だけいき、午後二時からの面接だった。面接という行為自体は『ただしゃべるだけ』というイベントと考えているので特に緊張などはなかった。

 事務の人に会議室に通され少しの間面接官を待った。面接官はやせた背の高い男だった。スーツのズボンが瘦せすぎでスウェットのようにたるんでいたのが印象的だった。話し方はゆっくりでヌボーっとした感じ。

  開口一番「そのスキンヘッドは何か理由があるんですか」だった。あくまで興味をもって聞いてきている感じだったので正直に前の仕事で禿げたと答えた。少し怖がっていたんだなと思う。そんなアイスブレイクが終わってから聞かれたのは半導体が何かわかっているのかというものだった。企業研究は我なりにしていたので事業内容への理解と作業のイメージを伝えた。次に会社内を見学させてもらって作業場やクリーンルームを見せてもらった。

 見学の最後に思いもしない質問があった。「もし縁があったら二月一日からの入社になりますが大丈夫ですか?」

 その時私は二社同時に応募していてもう一社の面接含め答えを出すには間に合わないかもしれないと答えた。向こうもそれには理解を示してくれて決まったら連絡してほしいとのことだった。そして来期から祝日も休めるようしようかと考えているというお得な情報を最後にその企業は面接を終えた。


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