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モイモイ?ジーニアス?本当にネタキャラなのか ~デイヴィッド・モイーズを考察する~

皆さん、こんにちは。
体調、いかがお過ごしですか?楽しくフットボール、観られていますか?

6月半ばから再開したヨーロッパ各地のフットボール国内リーグも、大きな出来事なく順調に日程を消化しています。
安全にできていることは何よりですし、選手や監督の情熱に触れて幸せな気持ちになれていることでたくさんの人が救われているのでしょう。
感謝に堪えません。

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そんな中、このコラムを書き始めた前日、愛するウェストハム・ユナイテッドが超重要なシックスポインターのワトフォード戦を3-1で勝利しました。
アントニオ・ソーチェク・ライスの素晴らしい個人技と連携、気合の入った身体を張った守備で見事に果実をもぎ取りました。
この勝利で、勝点は37に。残り2試合を連敗してもドロップゾーンを下回ることはなくなり、実質残留が内定しました。
ただ、ウィガンの8-0のような事もありますので、まだまだ…
とはいえ、まず安全圏と言っていいでしょう。

やっと未来の事を胸を張って話せるようになった訳ですが…
その前に、どうしても形にしておきたい事があります。
そう、この人についての話です。

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デイヴィッド・モイーズ
そう、皆さんが『フットボール・ジニアス』『モイモイ』『香川を無駄遣いした男』と揶揄しまくっている、モイーズ監督です。
某著名コメンテーターの恨み節?愛憎?による有難い批評も手伝って、SNSや某コメント欄はいつもネタ扱いの状態です。
そんなモイーズですが、今までのキャリアを客観してコメントした日本語メディアを私は見たことも聞いたこともありません。
ここで私なりに、普段彼について考えていることを僭越ながら形にしてみようと思います。


1.モイーズのキャリア

まず、ここを扱うメディアが本当に少ないので、まとめていきます。
(というより全体的にどの監督についても選手時代について語るメディアが本当に少ない!これは由々しき問題です、選手時代のプレースタイルとか経験が指導に活きるのは間違いないでしょうに…)

年齢は57歳、モウリーニョ、マークヒューズと同い年になります。近接した年代にはクロップやベニテス、パーデューといった名前が見つかります。
実務的な、手堅い志向のフットボール監督が多く並ぶ世代です。

選手キャリアはセルティックで始まるものの、国際舞台はほぼ皆無。トップフライトクラブに在籍することなくキャリアを終えます。

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しかし最終渡航地となったクラブ、プレストン・ノース・エンドでプレイヤーの傍らアシスタントコーチ業を始めます。コーチライセンスは22歳で早くに取得、キャリアを見据えていたのでしょう。
そして1998年1月、3部降格の危機を迎えていたPNEのケアテイカーとして監督に昇格。見事15位でフィニッシュして残留を確定させます。
翌シーズンはジャンプアップして5位、そして99/2000シーズンは優勝!見事2部ディヴィジョン1(現チャンピオンシップ)への昇格を果たします。
上位ディヴィジョンになっても4位(プレミア昇格まであと一息でした)・8位と昇格組にも関わらず好成績を連発。

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ここで2度目の転機が訪れます。ウォルター・スミス監督のケアテイカー(またケアテイカー!)としてエバトンの監督に就任します。
この年と前年のエバトンは本当に酷いシーズンだった記憶がありますが、モイーズは見事立て直しに成功。15位でフィニッシュします。
この時期のエバトンは出戻っていたダンク・ファーガソンを筆頭にウィアー、ジノラ、ガスコインが在籍していた、当時スパーズと並ぶいわゆる養老院クラブ枠だったのですが、ここに大きな改革をもたらします。

まず、チームの中核にレオン・オズマンとトニー・ヒバートのアカデミー出身者を据えながら既存ベテラン選手の存在感を大切にしつつ、外国人選手を軸に主戦の刷新を図ります。
大きく目を引くのは現・アーセナル監督のミゲル・アルテタ、長くディフェンスの重鎮として貢献するジョセフ・ヨボ。そして私たち日本人も散々辛酸をなめさせられたティム・ケーヒル。
限られた予算で一定のパフォーマンスを残せるベテラン選手を入れ替えながら、主軸になる選手を堅実に獲得しています。
また、フィル・ネヴィルという勝利のメンタリティ―を備えた選手も加えている辺りが強かです。
(名監督のネヴィル自身にとって、エバトンは重要なキャリアのはず)
その間の2004/05シーズンは何と4位で終了、チャンピオンズリーグ出場圏をゲットしています。ヨーロッパには計3回進出しています。

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    若きウェイン・ルーニー君とモイーズ監督、ケンライト会長

そしてこの人は外せないでしょう。
ウェイン・ルーニー。彼のプロキャリアはモイーズ監督の下スタートしています。
加えてフィル・ジャギエルカやレイトン・べインズ、シーマス・コールマン、マルアン・フェライニ(当時19歳!)ロス・バークリーといった若手選手も加えて未来への準備も着々と進めています。
この間、2桁順位フィニッシュはなんと2度のみ!2回しかないんですよ?
大事な事なのでもう一度、11シーズンで2桁順位はたったの2回です。

明らかにこの時期のモイーズについて、日本では語られなさ過ぎです。
語れるほどエバトンを追いかけて視ていた人が少ないからでしょうね…

こうした、チームビルディング力を評価されて、晴れてマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任するのですが…
ここからは皆さんの方がよくご存じかもしれませんね。現在より更に硬直した戦い方を中堅年齢層が多いあのスカッドで試みてしまったのは確かにいけませんでした。

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出ました、例のバナーですね…

その後、バスクの雄ソシエダでケアテイカー(またかよ!)として成功するものの翌シーズンで解任。2016/17シーズンのサンダーランドでは遂に最下位に終わり、クラブを降格させてしまいます。
この時期のサンダーランドは数試合視た程度ですが、選手のモチベーションは相当低かった印象があります。秩序というより元気がない、というか…
Netflixのドキュメンタリーでその後の一端を垣間見ることもできます。
後述する、モチベーターとしての資質の薄さが露呈したのかもしれません。

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ウェストハムとの縁が始まるのは2017年11月。ビリッチ親分のケアテイカー(またかよ!)としてでした。
アルナウトビッチに預けてあとは任せた、というルールレスなオフェンス構築・人海戦術としか言いようのないスリーバック・交代起用の下手さで溜まるファンのストレス…
いろいろありながらもやっとこ残留(勝点42も13位)を果たすのですが、評価していいのはデクラン・ライスをアンカーで起用した事でしょう。
これは彼にとっても重要な決定でした。この残留を契約延長の材料にしたかったモイーズですが、契約はここまで。ペジェグリーニ監督を後任に据える事となります。
そして今期、そのペジェグリーニ監督のケアテイカー(またかよ!)として2019年年末に再就任、現在に至ります。

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そうなんです、ケアテイカーとしての仕事引き受けが多いのが彼のキャリアで特筆するポイントなのです。

2.モイーズの基本戦術

モイーズ監督が現場指揮しているのを初めて視たのは、皆さんと同様にエバトン時代からになります。
そこからの殆どの時期について、モイーズの守備構築についてはほぼ一貫しています。
4-2-3-1で選手を配置し、先頭の選手がトップ下と協働で追い回しを開始。中央部の選手がカバーシャドーをきっちり果たしてサイドに早く追い込んでボールを奪取。
セントラルまで運ばれたら、早めに4-4の2ブロックを形成。手堅いゾーンディフェンスで粘り切ります。


攻撃へのトランジションは、原則として早くサイドに開いてクロス攻撃…というわけでもなく、現場の選手に裁量を与えている印象です。
エバトン時代から1トップ+周囲を活かすためのオフェンスをチョイスする傾向があり、人選にも表れていると思いますし、マン・ユナイテッドでも同様の傾向があったと思っています。
(ダンク、ビーティー、ヤクブ、サハ、ジョンソン+ケーヒル、ルーニー…)
(ファンペルシー+ルーニー、ウェルベック、香川、マタ…)

現在のウェストハムでも、攻守の決まりごとは原型をほぼ同じくしているのではないでしょうか。
スリーバックを採った試合も幾つかありましたが…上手くいかなかったり、『観る地獄』と化したマン・シティ戦のように殻を造るだけの内容に留まってしまいましたし、それをモイーズ本人も自覚していると思います。
ウィルス中断→再開後は一貫して4バックで臨んでいます。
攻撃も、アントニオやボーウェン、フォルナルスに早く預けて最短の手数で相手ゴール前にペネトレーション、ソーチェクも顔を出して厚みを持たせるといったシンプルながら相手が嫌がるであろう有効な手段を採ってきています。

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問題なのは、攻守とも上記した手数しかオプションを持っていないことなのです。いわゆる『プランB,C,D…』が異常に少ない、というより無い(笑)
90分のうち70分位をプランAでハメきれる試合はかなりの勝率になっているのですが、戦術修正や選手交代でのアクセント付けがとても不得意なため、非常に硬直した試合になることが多いです。それはエバトン時代からの印象でもあります。
因みに、再開後7試合の選手交代数と最初の交代策を打った時間帯は
交代数
3,2,3,2,2,5,3名
最初の交代カードを切った時間(分)
67、71、65、57、62、78、72

と、5人フルで使い切った試合は1試合のみ。その1試合も余裕の展開となったノリッジ戦なのです。攻めの交代策を一度も打っていないことになります。
もっとハッキリ見えてくるのは最初の交代カードを切る時間帯です。5人起用できるのに明らかに時間帯が遅い!
(これについては他クラブとの比較検証をシーズン後に行う予定です)
現代化・グローバル化が猛加速している現代のプレミアリーグの特徴の一つに『柔軟性』があると思うのですが、この点が決定的に欠如しているのがモイーズ監督の問題点と言えるでしょう。とにかく硬い…

しかし、前任者ペジェグリーニとの最大の違いがウェストハムを救ったとも言えます。
その『硬さ』が文字通り『堅さ』に繋がったのです。ペジェ時代は明らかに攻守の約束事が少なすぎました。その意味では現在の成績に落ち着いたのはある意味モイーズの功績と考えています。
あの『観る地獄』が2失点でなく5失点で終わっていたら…降格圏からの再開になっていたのです。明らかに気もちや出足は悪くなっていたことでしょう。多分そこまで見越してモイーズはあの拷問を選手に要求していたのだとすると…


3.モチベーターとして、マネージャーとしてのデイヴィッド・モイーズ

「植え付けようとしたチーム構想がなんだったのか、最後まであやふやだった。ファーギーは積極的だったけど、モイーズは無意識に消極的な雰囲気を作っていたと思う。次第に選手たちの信頼を失っていったし、僕自身も彼のもとではプレイを楽しめなかったんだ」…リオ・ファーディナンド

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マン・ユナイテッド時代は彼がモイーズ叩きの最右翼でしたが、彼だけでなくギグスやヴィディッチ、ファン・ペルシ―といった年長選手から支持をとりつくことができなかったといろいろなメディアで書かれています。
確かに、今もモイーズが現場を明るくしようとしているようには…まあ見えませんね(笑)
エバトン時代はどうだったんでしょうか…あの時期のエバトンは堅物・職人気質の選手が多かったので亀裂も少なかったのでしょう…というより、自分でそういうキャラクターの選手を集めたのですから何も問題は出なかったんでしょうね。

その一方モイーズはマン・ユナイテッド入団時に、コーチ陣を従来から刷新してエバトン組と入れ替える『愚行』を犯してしまいました。
郷に入っては郷に従う…このルールを破った事で失敗してしまったのです。
指揮官と選手との繋ぎ役が全くいなくなってしまい、不信~分裂に至った、というのが真相かと。
この点に関して彼は反省を活かし、現在は隣にケヴィン・ノーランを据えています。クラブをよく知る人物でもありサイドキック役にもなってくれるノーランはありがたい存在と思っていることでしょう。

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ノーラン、もっとアドバイスしてもいいんだよ!(笑)

ですが、真面目な選手には愛されるのは今も変わらず。
ライスがワトフォード戦で素晴らしい3点目を決めた時、真っ先に飛び込んだのはモイーズ監督の元でした。

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勝利を決める3点目!会心の笑みです


また、ノーブルやオグボンナ、ソーチェクといった『じっと耐える』系の選手も応えようと奮闘する目の輝きがありましたし、フォルナルスを信頼して起用するに至った過程も、ファンとしては見ていて泣けてくるところでもあります。フォルナルスのメンタルをを変えた一番の触媒はモイーズなのかな、と考えたりもしています。

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明らかに逞しくなったフォルナルス!東京で観たかったですが残念…


そして、モイーズにとって最大の強み、それはスカウティングの眼力です。
まず、今年の1月にトマス・ソーチェクとジャロッド・ボーウェンを連れてくることに成功したこと。これだけで有能さは証明されています。
エバトン時代は先述した通りです、あれだけ世界中から適材適所の若駒を連れてくることができるのは、確かな眼力あってこそです。
きっと性格面を含めて、総合的に選手をスカウティングしているのでしょう。
アレックス・ファーガソン爺は間違いなく、このマネジメント面を高く評価していたに違いありません。
(だったら自分もそうしていたように、戦術面の不足を補う人物も準備しておかなければいけなかったのですが…)
アルテタをマージーサイドに連れてきたのはモイーズなんですよ、アーセナルファンの皆さん?彼がイングランドでプレーしていなかったら、きっと今の縁はなかったことでしょう。
※FA カップの準決勝・マンシティ戦は見事でしたね。素晴らしい手腕です。

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アルテタの現役時代…イケメン過ぎてムカつくな
因みに奥さんはミスエスパーニャ…


4.私が思うデイヴィッド・モイーズ監督


ここまでのコメントでお察しかと思いますが、私はマスコミやSNSで辛辣に書かれるような目線でモイーズ監督を見てはいません
むしろ、状況と人材が揃って中期のマネジメントを任せることで、一定以上のアウトカムを期待できる人物という考えでいます。
ただ、現代の、特に現在のプレミアリーグを生き抜いて好成績を弾き出す戦術眼は残念ながら備えていないのが実情かと。
今回の就任当初に、RBメソッドを持ち込みたいと意気揚々に発言し、練習場にストップウォッチを手にした映像が公開されたときは『本気だこれは…』と思いましたし、実際ハマった時の試合展開は素晴らしかったと思います。
(言われてみれば、エバトン時代からそういうゲームモデルの人でしたしね)
元旦初戦のボーンマス戦(私は現地で跳び上がりました)やサウサンプトン戦、チェルシー戦とか…接戦の末敗れたリバプール戦やアーセナル戦も本当に惜しかった…
ただ柔軟性が決定的に足りない、それだけ
なのです。その不足が致命的な結果に繋がるのが現代フットボールなのですが…
しっかり試合をマネジメントすることでニューカッスルは勝ち切れましたし、バーンリーにも敗けはなかったと思っています。
そうして今の順位にいるのが実情です。

そういう点で、モイーズ監督にとっての適職は指揮官ではなくフットボール・ダイレクターやスカウト統括部長といった人たらし職なのではないかと常々考えています。
モイーズに後方担当を一手に担ってもらい、現代的かつ粘り強い守備組織の構築や指揮・指導ができる指揮官を連れてくることができれば…
今のウェストハムのスカッドやアカデミーの状況から、あっという間にクラブ黄金期が来ても不思議じゃないはずなんですよ、GSBトリオよ!
解ってんのか、おい!解ってないならとっとと誰かに譲れよこの○☓◇☆!

…あ、失礼しました(笑)

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この難局を乗り切りそうなモイーズ監督、感謝しかありません


最後までお付き合いいただき、有難うございました。
今回のコラム、いかがでしたでしょうか。
モイーズ監督に対する、日本でのひねくれてしまっているイメージを少しでも変えられたらと思って気合を入れて綴ってみました。
皆さんにこの気持ちが届いて、何か感じたり考えてくれたりしてもらえたら…それは本当にありがたいことです。

よろしかったらツイート・note共々、イイネやご感想をいただけたら嬉しいです。お待ちしております。

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