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【企画展】竹内栖鳳 破壊と創生のエネルギー

出会いは古本屋の数百円の画集
「おっす、やってるー?」という声が聞こえてくるような無邪気に描かれた熊(1910年 京都市美術館)を見てこの画家の虜になった。


まず初めに驚かされたのはおよそ日本画らしくはないモチーフ中でも花鳥動物だ。ライオン、像、虎、鯖、鰹、いずれもこれまで見た日本画ではなかなか見かけることがなかった生き物たちの息遣いの聞こえるような作品の数々どれをとっても素晴らしかった。


素晴らしい画家の作品の多くは絵を見ると誰が描いたかわかるというが、応挙の虎しかり等伯の松然り積年の画業の中で生み出されたその画家の風合いを味わうのも絵画鑑賞の醍醐味と言える。
栖鳳の作品はそれが特に楽しい。
対象をよく観察し写生した上で描かれる「写意」は、毛並みや表情、構図、切り取られた瞬間によく現れている。

百騒一睡(1895年 大阪歴史博物館)は栖鳳がのちに何度も描くことになる雀が群れてエサを取り合っている様子が左側に描かれ、右側には当時栖鳳が飼っていた洋犬(ラフコリーかボーダーコリーかはたまたボルゾイのように見える)がお澄ましした表情で目を閉じ落ち着き払っている。
忙しない様子と落ち着き払った様子、その傍には何を考えているかわからないような子犬が何かを見ている。
その場にいたら思わず微笑みたくなるような情景を絵を通して我々に共有してくれるその画力は本当に素晴らしい。

とにかくいろんな生き物をありありと描いでくれるというところがまず好きになったポイントだったが、先日美術館にて、風俗画、山水画、etc、様々な作品を見ることができなお一層好きになった。

霊峰富士は様々な画家によってこれまでもたくさん描かれてきたが、栖鳳の描く富士図(明治期 本間美術館)は雪の表現がとても面白かった。
過去の偉人たちを模写していた時代の作品である雪中蒼鷹図(1893年ごろ 京都国立近代美術館)は応挙のような雪の表現のように見えたが、この富士図においては、まるで食べかけのヨーグルトをこぼしてしまったような塗り方に見えるにもかかわらず、それでいて富士の雄大さは失われずや山頂の冷え冷えとした感じが伝わってくるような印象を受けとても不思議な感覚になった。また富士の左側は山水画において山々の合間にある雲と同じような表現が金屏風上でなされておりさらに雄大さを増すように見えた。

風景画について特に驚いたのは、ベニスの月(1904年 高島屋資料館)だ。画集でそのような作品があることは知っていたし、水墨画で海外の風景を描くというチャレンジ自体に非常に関心をそそられていたが、まさかこんなに大きいとはと思うほどとんでも無く大きな作品だった。そのため実物を見て、画集で見ていた頃よりもずっと(これは全ての作品に共通することなのかもしれないが)吸い込まれるような感覚に陥った。
水の都であえて、その水の反射や太陽の煌めきではなく夜でしかも水墨画というセットなのにそこにはヴェニスがあった(まだ行ったことないので自分のイメージするヴェニスがそこにあった)。他の作品も、そこにあるであろう湿度や音や静けさや涼しさのような感覚のイメージがストレートに伝わってくるような作品が多く絵画を見ながら旅をしているような錯覚に陥るのは、旅を好みいく先々で写生を行いながら作品を制作した栖鳳だからこそなのかもしれないと思った。

そしてやはりなんといっても動物たちである。栖鳳はたくさんの動物たちを描いたが、中でも鳥類を扱った作品が多いような印象を受ける。先ほどの雪中蒼鷹図の鷹をはじめ、雀、鵜、烏、軍鶏、梟、家鴨、鷺、鶏などの作品があった。驚くのは作品ごとにまた作品の中の1羽の中でもその描き方に差分があることだ。もちろん意図あってのことなのだろうが、それが例えば軍鶏の蹴合いでは、大きく開かれた羽根は飛び散らんばかりの筆使いで描かれているのに、その腹部や股の間足の根本の部分などは普段隠されている柔らかな暖かそうな毛であることがわかるような筆使いで描かれている。蹴合いを描くにあたって、栖鳳が軍鶏と同じ目線に腰を落とし写生している様子の写真が同じく展示されていたが、本当にそのような細部まで見ていてこの作品の出来であったのだと思うと感動する。

大きな屏風に描かれたライオンはその風に靡くような、動きに合わせて揺れ動く立髪が太い線、細い線の両方を巧みに使い動きが如実に伝わるように描かれている。尻尾についても尾先までは強い輪郭線で描かれていてツルツルとしていることを強調し、尾先のみが輪郭では無く一本一本細い線でふさふさした毛が生えている部分が描かれ本当によく観察していたんだなあと思わされた。

またゾウについてはこれは意外にも強い線を用いて描かれていて、像もよく見ると硬い毛がたくさん生えているのだがおそらくあえてそれを描かずに、像の持つ静かな迫力・歴史のようなものがドンと伝わってくる出来上がりになっているような印象を受けた。像の上に乗る猿は仔細丁寧に毛の一本一本描かれているのもまた面白い。

今回の美術館の展示で実物を見て得た新たな発見は、下絵との比較だ。
動物、特に虎については下絵はとても厳しいトラで描かれているのに、仕上がりは少しぼやっとした朗らかな印象を与える虎になっていたり、人物画についても下絵の段階ではドレープがすごく丁寧に描かれている一方で、着色においてはそのドレープがあまり表現されていないように見えたりする。なぜそうしたのかは汲み取れなかったが、企画展の書籍を読む限り下絵を描いた上で仕上げをしていく上でも創意工夫を組み込んでいったということだったので、何かしらそうした方が良い理由があったのだと思うがそれもいずれ分かればなお嬉しい。

解説書を読むと、栖鳳の生き様もなおかっこいい点が多々あるのだが、それはまた別の機会にということで、様々な生き物を描いた日本画の傑作を見たい人はもちろんのことあまりアートに興味がない人も、もしちょっとものの試しに見てみようかなと思っていただければ幸いだ。
涼しく、外に出やすい季節にもなったので京都への観光も兼ねて、興味のある人はぜひこの機会を逃さず作品を見ていただければと思う。
竹内栖鳳 破壊と創生のエネルギーは12月3日まで京セラ美術館にて開催中。


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