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あの人はもしかしたら亡くなった大切なひとの思いを道具に託して旅に出したのかもしれない。

【コーヒーミル】
旅するコーヒーBack Packing Coffeeのリュックに入っている道具を紹介していきます。(いまは音信不通でどこにいるか分かりません)

ドイツ・ザッセンハウスのハバナという豆を挽くためのミルです。よくあるアウトドアのものより3倍くらい重くて、握っていたら真鍮の匂いがついて、そしてベアリングがついていないからハンドルをまわしたときにカタカタとちょっと片寄ってまわったりします。
良いところは歯が硬くて尖っているので豆を挽くときにカリカリと気持ちのよい感触が伝わってきます。つまりはこの文章のとおりに、いいところよりも欠点が先に気になっちゃうようなやつ。けれどもそんなやつって愛着が湧いてしまいますよね。

このミルと同じモノを先輩にいただいて使ってたんです。フリーコーヒーの旅のときに。
けれど山梨県の都留を訪れたときに、同じモデルの違うものと取り替えっこすることになるお話。

山梨県都留市、富士山の裾野のすこし先にある山のなかで昔ながらの方法で藍染めをされている佐藤文子さんというお友だちができました。一度展示会にお邪魔したときに、お家においで、と言っていただいて。あれは確かフリーコーヒーで小さな恋をしてテンションあがりまくっていたときじゃなっただろうか。いま思い出しても恥ずかしい。(ここは突っ込まんでね)

藍染め工房でコーヒーを立てていたときに、真っ白な髪のそれこそヨーロッパの童話に出てくる優しい魔女みたいな風貌の文子さんが「あらぁ!」と声をあげて僕の持っていたこの金色のコーヒーミルを手にとりこう言いました。

「これとおんなじものを持っているの!」

文子さんはきれいな藍染めの布に包まれたまったく同じカタチのコーヒーミルを持ち出してきて話してくれたんです。

「これはね、お父さん(亡くなった旦那さん)がもう40年くらい前になるかなぁ買ってくれたものなの。たしかね、どこかのコーヒー屋さんで私がそのミルを見つけたときにステキだなぁって言っていたのをね覚えていたんでしょうね。ある日そのときに見たミルとおんなじものを持って帰ってきたの。嬉しかったわ。それがこのミル。」

なんて素敵な話なんだと心あったまっていたところに、次のひと言で僕はのけぞりそうになったのを覚えています。

「あれ?ふたつ持ってみたらさ、マサくんのミルの方が軽いわね!それにこの下のところもスッと外れる。いいわね!交換しましょ。いいでしょ?だって毎日使うものだからさ、使い勝手がいいほうがいいじゃない!」

(どうやら同じモデルでもすこしずつ改良が加えられているようで、僕が持っていた新しい年代のもののほうが少し真鍮が薄くなったり、フタのカタチが改良されているようだったんです。)

え、ちょっと待ってくださいよ。亡くなった旦那さんの形見みたいなものでしょ?と思い、そして確かにそう言葉にしながらも、なんだかそう言っていただけるなら素直に交換しようと思って、それからはその旦那さんの形見のほうのコーヒーミルが僕の相棒になった。

文子さんはいつも大胆で、そして思いきりがあって、けれど愛がいつもその真ん中にフワッと浮かんでいるようなひとです。

そして、彼女の家にしばらく居候しながら藍染め体験もさせていただき、お家を離れてしばらくして僕は思い至ったんです。僕は彼女の本意に気づかないままにあのミルを持ち出してきたんじゃないかと。

もしかしたら彼女は旦那さんの形見であるコーヒーミルを旅に出したかったんじゃないか。
彼女が元気だったころ、旦那さんとあちこちに出かけたように、今度はその思いをコーヒーミルに託して僕を通して旅に出したんじゃないかって。そんな思いの詰まったコーヒーミルです。

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