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へっぽこお遍路日記51「なにかにこだわりすぎることで、自分の世界を狭めることだってあるのかもしれない。」

1月12日 81番〜83番札所 30.7km

おもろいよねぇ、ほんと。
自分が予想もしない現実が目の前にあったときって。

しかもそれが寝起きで。
しかもそれが寝起きたままのシッコタイミングで。
やってきていたことを知るときって。

まだ真っ暗ななかを起き出して、お小水をしようと外に出たの。
ほんならズリって。なんだ。ズリって。
ヘッドライトをつけた頭ごと下を向いたら、そこが真っ白なのは分かるんだけれど、天気予報も見ていないし、ぐっすりあったかく寝ていたもんだから、まさかそれが雪だなんて思ってもいなくて。

そしたら雪だもんね。
あの、なんていうの、ほんとに音なくすーっと舞い降りてきてそのまま積もっていくやつ。ヘッドライトで見上げてみるとそれこそ、椿の花びらくらいの雪がふわーッと落ちてくるところだった。

あとから書くとなんともアッサリしているけれど、止んでくれますようにと願いながらパッキングをして、山道の続きを歩き始める。うっすらと白くなっているけれども、これぐらいならなんとか靴下を濡らさないでいけるかなぁぐらい。


それがね、どんどん積もっていくの。あれまーってな感じで。確かに標高が500mくらいあったんだと思うんだけれども、自分が温暖だと思い続けている四国でこれだけ雪が降るともうあれまーって感じだ。山道が途切れてしばらく車道を歩いていたんだけれど、あっという間にくるぶしぐらいまで積もってしまった。

昨日もう少し粘っておけばなぁ。昨日はあったかかったし、そしたら雪道を歩く道のりをあと数キロは短くできたのになぁと思いながら雪がなるべく靴下を濡らさないように歩いていく。

明るくなってきたころにお寺に到着したけれども、参拝客は僕だけだ。屋根のあるところでカッパを脱いで、袈裟姿になってお参りをする。カラダが冷えてくるとブルッとくる。ちょうどお堂の扉を開けられたところだったのか、若いお坊さんが出てこられるところで挨拶をした。


この日の2つ目のお寺でも雪で参拝客の姿はなかった。88箇所のお寺だから、それこそコロナの最初の非常事態宣言のときには参拝客がないような日もあったのだろうとおもうのだけれど、こうして雪のときにもいったいどれだけの人がお参りに来られるのだろうか。

もしかしたら僕ひとりっきりになるかもしれないし、実は意外とポツポツとお参りにこられるのかもしれない。

なんにせよ。寺に休みの日と言うのはなく、お遍路でまわるひとは大抵の人は「納経」と呼ばれるご朱印を、お参りの際に書いていただく。自分は訪ねていく側なのだけれど、寺の人として過ごす1日、また一生というものをなんとなくだけれど頭に思い浮かべるのだ。


2つ目のお寺を参り終えて。山道をくだっていく。住宅街が見えてきたところでやっと雪も無くなった。ちょうど腰を下ろせる高さのところに腰掛けて、バックパックをおろして靴下を履き替える。

外は1桁の気温なのに、こうして濡れていた靴下が乾いたものに変わるだけで、あったかく感じるのだから不思議なものだ。遍路でこれだけ歩くと、きっと足裏が刺激され続けてすんごい巡りがよくなっているのを実感する。僕は冬だと足が冷たくて寝られないときもあるぐらいなのだけれど、こうして遍路を歩き始めてから、確かに夜は寒いけれど足が冷たくて寝付かれないようなことは無くなったもの。


大きな道路とつながるところでコンビニが見つかった。ちょうどお昼どき。レジの脇のところにテーブルと椅子が見えて、助かったぁと思いながら駆け込んだ。暖房がしっかりと効いていて、カラダが凍っていたわけでもないのに、感覚としては溶け出すようだ。

ほんとこの冬の遍路で、どれだけこのコンビニの休憩スペースに助けられたことか。もうすでに「遍路を終えたらコンビニでのごはんは、もう食べるまい」というくらいに、疲れているのだけれど、けれどこの休憩スペースとコーヒーマシーンはほんとに有難い。

食堂があったら別だけれど、こうして歩くスピードでまわる遍路は食事どきにちょうどお店があるなんてことの方が少なくて、大抵はスーパーやコンビニで買っておいたおにぎりやパンを食べるか、もしくはこんなコンビニの休憩スペースがあるときに食事と休憩を兼ねて利用させていただく。

そのどちらもなければ、もれなく冬風に当たりっぱなしでどこかに座りながら、もしくは歩きながら食べるだけだもの。


朝早く歩きはじめたので、結構な距離を歩いた。このまま歩いてしまうと高松市街地に入ってしまうのでどこか寝るところを探さないとなぁと思いながら、こないだ大樹のところで一緒にお世話になった僕の少し先を歩くソウタにメッセージを送ってみた。

「おーい。今日の寝床は見つかったかい?」

「市街地での野宿は厳しいので今日はカプセルに泊まることにしました」

なんと!カプセル!僕が人生で一度しか泊まったことのないやつ!

いくら?と送ったら、2500円でした。と返ってきた。聞けばそこはサウナでお風呂にも入れるらしい。

うーむ。がんばってそこまで歩けばあったかい夜が待っている。はたまたこれから野宿をできるところを探すとなれば、きっと県庁所在地だけに難航する。これまで宿に泊まるというのはなんとなくやめておこうとずっと野宿で来たのだけれど、こうしてお金を払ってどこかに泊まるというのも経験だと思いつき、ソウタのいるところまでがんばって歩くことにした。


高速道路の下の国道にぶつかり。交通量も家に帰る自転車の学生さんたちも一気に増えた。町らしくネオンがたくさん。あぁ街にやってきたなぁと思うと同時に、もう自転車なら1日もかからず徳島に着いてしまうんだなぁとちょっとこの遍路ののこりじかんを感慨深く思った。

商店街を抜けてカプセルホテルに無事たどり着いた。ソウタを誘って夕食へ。そして前に自転車でフリーコーヒーをやったときにお世話になった南珈琲店に顔を出した。

七三分けのマスターは相変わらずたんたんとコーヒーを落とされていた。南さんお久しぶりです!と声をかけたのだけれど、キョトンという顔をされてしまった。

「あぁ来てくれたんやね。マスクしとるからさっぱり分からなかった。」

そりゃそうだ。まだこの世界に僕の意識はしっかりと馴染んでないようだ。

この日のマスターは本当に饒舌だった。

たくさん思い出も語ってくれたし、僕が習った大坊さんの焙煎についても思いをめぐらせながら自分の考えを話してくださった。

「きっと羨ましいんです。これだけ話すのは。」

そう言って、ご自分の貴重な時間をたくさんたくさん使ってお話をしてくだった。自分がしてあげていることを、こうしてサラッと言ってのける。そこに南さんの懐の広さが現れていた。


このときのテンションを持ち帰ったのか、サウナに行ってから今度はソウタとたくさんたくさん話した。2時ぐらいまで話していただろうか。さなぎのようにカプセルに入ってからも、しばらくは頭が高揚して寝付かれなかったことを覚えてる。

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