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へっぽこ遍路日記17「相手のためと言いながら、それが自己満足になってはいないか。自分の旅をしながら戒めも込めて。」

焙煎をした。益大さんという南部鉄器の職人さんが砂型でつくられた鉄の焙煎機。これも僕はアルミの軽いやつを持っていたのだけれど、どうしてもそのスタイルが今回の遍路旅に連れていく道具たちのなかで浮いていた。どうしようかなぁ、焼き物のやつにしようかと思いながらこれは出発ギリギリまで悩んでいた。

そんなときに、僕の相棒の鉄瓶【あかいりんご】を受け取りに車で2日かけていった岩手の田山さんの工房で珈琲を点てながら「焙煎機が困っているんです」という話を出したら、職人さんが「そういえば僕の仲間の職人が頼まれて珈琲豆を煎るやつを作ってたと思うよ」と話してくださり、その工房まで連れて行ってくださったのだ。

益大さんいきなりの訪問に面食らっておられたけれど、珈琲をたてながらお話していると「そっかそっか。そしたらね今は仕上げたものはないんだけれど、僕の最初に作った試作品があるからさ、それなら持っていっていいよ」と提供くださったのだ。この真っ黒で流れるフォルムが僕はだいすきだ。どんなに重くてもこれは旅の相棒だから連れていく。1回で煎ることができるのはせいぜい70gぐらいだと思うけれど、それでいいのだ。

相手に伝わることをゴールにするのではなく、まずは自分がしっかり自分が表現したいものに対して納得の行く準備をする。そしてそれをやる。そこから先のことは相手に委ねてしまう。珈琲が生み出す余白に僕の考え方を詰め込んでしまうことは決して自己満足であっても相手のためではない。

3ラウンドして終了。これで数日は珈琲を点てられるだろう。珈琲を焙煎しているうちによーへいくんもタケちゃんも起き出してきてそれぞれ写真を撮っている。そしてそのあとしっかり珈琲を点てさせてもらって、それから荷物を詰めて出発した。いつもよりずいぶんとゆっくりとした出発だ。もうすでに日はある程度あがってる。けれどそれでいい。自分がやることをやったのだから。

昨日あれだけ歩いたからしんどいかなぁと思っていたけれど、朝は案外足が前に進んでくれた。もう体にインプットされているようだ。歩くという意識を持たずとも足が前に出る感じ。日々続けることってすごいことだなぁ、これはそのときではなく日記を書いているいま思うこと。

さて、今日は道路だけだ。山道もない。あの時間からだから寺にもたどりつかない。こんな日はまさに我慢。アスファルトを歩き続けるのは僕のサンダルには突き上げがありすぎて足裏が痛い。これはもう宿命だろうなぁ。調子がおかしい痛みとはサヨナラできたけれど、この足裏全体の痛みはこれからもずっと付き合っていかないといけないだろうなぁ。

なおこさんがお友だちを連れて珈琲を飲みにきてくれた。ちょうど漁港のところにいたので、海の前で珈琲を点てる。お友だちはキューバで2年ダンスを習っていたというとってもユニークな方。旦那さんとともにこの土地に移住されてきたそうだ。懐かしいな。2017年。

そのほかのどこにもないキューバの空気。カラッとして青がいつもあって、その光のつよさに白い壁が浮かび上がるような街並み。素朴な人たち。サトウキビを絞ってギュッとレモンを絞りかけたジュース。それまでの自分の恋愛にたいする意識が溶けるような恋もしたなぁ。

しばしの珈琲の時間。自然と相手が一杯目を飲み終わるまで。そのとき静かに片付けをはじめる。相手が焦らないように。遍路は結構ギリギリで歩くこともあるんだけれど、それは自分のなかのこと、珈琲を飲んでくださる相手のことではない。自分を二の次にできなければ、そのときの相手のためにはできない。

リョータからも連絡があった。花道家のリョータ。僕が尊敬する仲間だ。ちょうど高知に来ていたらしい。なんとか時間を作ってくれようと思っていたのか、電話をくれて、そのあと夕方にごめん行けなかったとメッセージが入っていた。けれどもこうして僕のことを覚えてくれていて、そして気持ちを届けてくれたこと、そのことに感謝だ。

彼は北海道を旅しているときも小樽まで珈琲を飲みに来てくれた。彼とは旅の空でご縁があるなと思う。そうそうダライ・ラマが来日してあった講和のときには、彼が花をいけ、そして終わったあとに僕も一本くれた。あの花は今は親友の遠藤くんのお母さんの家にある。ときどき「元気に育ってるわ」と連絡をもらうのが嬉しい。

こうしてその思い出とともに、何かが育まれていく。そのことを僕は知っている。ありがとうリョータ。また旅の空のもとで会おうね。

そこからはゆるゆると歩き続けた。休みながら歩きながら。お寺への参道でなければ音楽も聴いていいことにした。昨日はnujabesを聴きながら。世界に通じる才能を持ちながら若くしてこの世を去ったひと。世界にはいろんな人がいるもんだ。

さて野宿を予定していた次のお寺27番札所の神峯寺にあがっていく道のところにあるはずの休憩所まであと少しだなぁと思っていたら目の前に、プレハブの綺麗な休憩所が出てきた。工事現場の休憩所のとなりに、お遍路さんのために用意してくれているものだ。なんとまあ充電もできるし、ウォーターサーバーまで準備してある。

ちょうど会社の人が仕事の片付けにやってこられた。

「こんにちは。お遍路さんが実際に休まれているのにはじめて会えました。使ってくださってありがとうございます。もうすこしで片付けてしまうんです。工事が終わるので。」

そう優しそうなお兄さんが話してくれた。野宿の話をしたら「全然使ってもらっていいですよー」と言ってくださったので今日はここで旅を終えることにした。ほんとにありがたい。さっと体を拭いて、着替えて、橋の向こうの売店で買ってきた金ちゃんラーメンとお赤飯のおにぎりの夕食。

ここ数日遅かったので、8時過ぎにはもう眠りについた。今日もありがとうございました。また明日。

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