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アンチヴィーガンを増やさない③

 前回の記事では、英国ヴィーガン協会が定めるヴィーガニズムの目的と定義、食事面の用語として使われる場合の意味について確認しました。今回はアンチヴィーガンについて思うことを書くのですが、まずは私が座右の銘としている言葉の紹介から始めたいと思います。

「たまたま感」という言葉

 先日、下に引用の対談記事で「たまたま感」という言葉に出会いました。インタビュアーの方が即興で口にされたもののようで、Googleで検索すると意図しないものばかり上がってきてしまうのでされない方が良いかと思います・・・😅

A sense of Rita 特別座談 | ap bank

さっきの自己責任論的なところ。それは自己と他者の分断だと思うんです。お話があったように、たまたまその人たちはそういう状況で、たまたま自分はそうじゃないという。
<中略>
たまたま感というのはすごく大事だなと思っていて。
そうじゃない人たちは、自分たちが貧困じゃない、自分たちがうまくいっているのは、自分の力だと思っている人が多いと思います。

A sense of Rita 特別座談 | ap bank

 上の考え方は、このノートの最初の記事「人生を変えた本」の2冊目で学んだことと同じで、ずっと心に留めていたものに名前がついたことでさらに愛着が湧きました。

 引用文中にある自己と他者との分断を、ツイッター上の一部のヴィーガンの方々に感じることがよくあります。英国ヴィーガン協会のFAQでも、「攻撃的で過激なヴィーガン活動をどう考えるか?」という質問に対する回答の中に、それらが生み出す不要の産物として役に立たない「私たち対彼ら」の考え方(the unhelpful ‘us versus them’ mentality)という言葉が出てくるのですが、同様の指摘だと思います。

 今現在、日本において完全なヴィーガン食実践者がかなりのマイノリティであることは間違いないでしょう。対応している飲食店も多くはないですし(地方には東京ほどありません!)、スーパーで購入できる市販品も増えては来ましたが決して多いとは言えません(特に地方のスーパーではそんなにいろいろ買えません!)。通信販売はどうしても送料がかかるので安価とはいきません。また、ヴィーガン食及びその実践者を目の敵にするホリエモンさんのような方も少なくない中、家庭で、職場で、学校で、仕事上の付き合いの席で、親戚づきあいの場で、地域や趣味の交流の場で、貫き通せているのはかなり幸運なことだと言えるのではないでしょうか。

 例えば私は「たまたま」在宅勤務という自炊がしやすい環境にいます。以前は会議のたびに出社していたのが、ご時世によりオンライン化され、ほぼ100%在宅になったというのも「たまたま」です。工場式畜産の現実を知ってヴィーガンになろうと決めた時、既に結婚していた相手がメンタリストDaiGoさんやホリエモンさんではなかったのも「たまたま」なのです。

みな生きてるだけで精一杯

 私も含めて、多くの人は毎日普通に生きて行くだけで精一杯です。今日の仕事、明日の出張準備、今週締め切りのレポート、今月中に達成しなければならない売り上げ、食事の支度、食器洗い、掃除、洗濯、日用品の買い物、かけなければならない電話、出さなければならない郵便物、支払わなければならない授業料、子供の習い事の送り迎え、愛犬の散歩、老猫の通院、子供の学校での友人関係トラブル、自身の職場での人間関係トラブル、幼児の保育、親の介護、近所づきあい、親戚づきあい、引き受けざるを得なかった同窓会幹事、PTA役員、自治会役員の仕事、回覧板を届ける、朝のゴミ出し、ゴミ集積場の掃除当番・・・時間に追われる状況は数多くあると思います。

 格差社会の日本では、社会に出た時期の巡り合わせの差だけで非正規雇用となり、時間に追われ身を粉にして働いているにもかかわらず金銭的にも厳しい暮らしを余儀なくされている方がたくさんいらっしゃいます。小さなお子さんが2人、3人とおられる場合は毎日が分刻みでしょうし、高校生や大学生を2人、3人と就学させている場合はよほど高収入でない限り金銭的に余裕のある状態にはならないのではないでしょうか。

ヴィーガンでいられる理由

 完全なヴィーガン食の実践ができているという場合、それはもちろん本人の意識の高さと努力に依る部分がありつつも決してそれだけではなく、家族の協力、周囲の人柄、住んでいる土地柄、就いている仕事の内容、職場の雰囲気、家計の状況といった環境にたまたま恵まれているおかげであることもまた事実だと思います。

 ヴィーガン食を実践したいと思った時、既に結婚していた相手が菜食に否定的だったなら果たして切り出せるでしょうか。親友の実家が畜産農家だったなら、菜食にした理由を正直に言えるでしょうか。一部上場の食肉加工品メーカーに内定して喜ぶ従妹がいる新年会の場で言えるでしょうか。強面の上司がホリエモンさんのようなヴィーガン嫌いの人だったら職場で公言できるでしょうか。取引先との飲み会やランチミーティングがたまたまヴィーガン対応の飲食店である可能性はどれほどでしょうか。外回りの営業職で昼食をとる際に、ヴィーガン対応の飲食店がちょうど良い時間と場所に毎回あるでしょうか。給食を食べたくないと思う子供たちの親御さん全員が毎日ヴィーガン食のお弁当を作ってあげることはできるでしょうか。親が健康のために肉や魚を食べるべきだと考えている場合、扶養下の子供がそれを拒否し続けることはできるでしょうか。

 例えば外回りの営業職なら毎日お弁当を作るという解決策があるかもしれませんが、適切な食事場所を見つけられる保証がありません。夏の暑い日、冬の寒い日、雨の日もあれば風の日もあります。動物たちの苦しみを思えばそんなことは苦にならないという人もいるかもしれませんが、全ての人に当てはまるわけではないと思います。例えば子供たちならアルバイトをしたり親を説得したりという解決策があるかもしれませんが、どの子にもできることではないと思います。

 何より苦しいのは周囲との摩擦でしょう。自分が今までと違う生き方をしたいと言い出しことで、周囲の人の人生にも少なからず影響を与えることになります。動物に優しくありたいと願った結果、周囲の人間を傷つける結果になることは望まないはずです。

摩擦を避ける

 以前の記事で触れた「ゆるヴィーガン論争」をきっかけに、ヴィーガンと名乗ることをやめてしまった方がありました。それをとても残念に思ったことが前の記事を書いた動機になっています。工場式畜産の残酷さを知り、動物性食品の摂取をやめようと思い立って情報収集用のツイッターアカウントを作った人は、「ヴィーガン」という言葉で検索をかける可能性が高いと思います。そんな人にはぜひつながって欲しいと思う方だったからです。

 論争の中で、ご自身は動物性食品を一切摂っていないと思われる方から非難の対象となっていた状況の一つに「仕事中の外食でやむなく蕎麦やうどん(つゆの鰹だしが動物性)を食する」というものがあります。ヴィーガンの定義である「可能な限り避ける」に該当しないというのがその理由です。だし抜きでお醤油に変更してもらってはどうかという具体的な回避策の提案をされている方もありました。

 ただ、ヴィーガン対応を掲げていない飲食店でそれを要望する場合は慎重に状況を見る必要があると思います。少なくとも店内が込んでいて店員さんがてんてこ舞いしているような状況では避けるべきでしょう。店員さんや周囲のお客さんに「この忙しい時に何を考えているんだ!」と思われ、ヴィーガンへの嫌悪感を持たせてしまう危険性があるためです。

 みんな一生懸命です。1分でも早く昼食を済ませてできれば1本早い電車に乗りたいと思いながら注文を待っているお客さんがいるかもしれません。店員さんはまだ新入りでさほどの込み具合でなくともいっぱいいっぱいかもしれません。高級レストランならともかく、高回転でビジネスランチを提供する飲食店で特別対応を依頼することは良識を欠く行動とみなされる可能性があります。

 動物性食品の摂取を避けるためなら周囲との軋轢をものともしないという態度では、意図したことではないにせよ、アンチヴィーガンを作り出してしまいかねません。そして、ヴィーガンに反感を持った人が矛を向ける先は、多くの場合において原因を作った当人のみに留まりません。それは、動物搾取を無くしたいという究極の目的に対してはマイナスです。にもかかわらず貫き通そうとする動機はもはや「動物たちのために」ではなく「自分がそうしたいから」になってしまっているのでは?ということを、常に自問自答することが必要ではないでしょうか。

 政治の世界でもビジネスの世界でも、何かを成し遂げるために必要なこととして「味方を増やすこと」と同じくらいよく語られるのが「敵を作らないこと」の重要性です。たいていの場合、味方にすることは無理でも、完全に敵に回してしまうことは避けようがあるものですよね。

 お店に何のメリットもなく手間がかかるだけの特別対応をお願いするのは非常識だというようなことが言いたいわけではありません。お店側もそういった需要があることに気づいて積極的に対応するようになったことで、思いがけずインバウンドのお客さんにもありがたがられるなど、良い方に向くケースもあり得ると思います。昆布つゆを使ったヴィーガンフレンドリーなうどん屋さんが駅前に普通にあるようになったら私も嬉しいです。

自分も他人も尊重しながら生きる

 上のうどん屋さんの例では、特別対応依頼は難しいケースの方が多いだろうと考えています。「ここはやむを得ない場面だ」と判断することは、まだまだヴィーガンフレンドリーではない現実世界と折り合いをつけるバランス感覚のある行動だと個人的には思います。昼食のたびに都度ギリギリの選択を自身に課すのは大変すぎて仕事に支障が出かねません。生活の糧は必要です。普通に生きるだけで、日々の仕事をこなすだけでみな精一杯なのです。

 自身が「たまたま」完全なヴィーガン食を365日継続できる恵まれた環境にいるという自覚があったならば、日常と折り合いをつけながらできる範囲で動物性食品を避けようと頑張っている人、そんな自分をゆるヴィーガンと呼ぶことにした人に対して高圧的な言葉を発して分断しようとはしないのではないかという気がしてなりません。

 その言葉を使うことはこういう理由でマイナスだと思うのですがいかがでしょう?と一度問いかけるくらいまでならわかるのですが、絶対に認めず何としてでも変えさせようと執着する様は不穏当に感じるのです。以前の記事にも書いたのですが、ゆるヴィーガンと名乗る人のいることが、プラントベースと銘打っておきながらゼラチンを含んだ製品がメーカーから出る原因になっているという批判理由についても、責めるべき相手はメーカーの方ではないかと個人的には思います。

 また、いくら恵まれた環境にいるといっても、家族全員(これはあるかもしれない)、友人全員、職場の同僚全員、ご近所様全員、その他リアルにお付き合いされている方全員がヴィーガンということは有り得るでしょうか?さすがにないと思います。では、そうではない人たちにことごとく、「なぜ革のベルトをしているのですか?」、「なぜ羽毛の布団を干しているのですか?」、「なぜ忘年会を焼き肉店でするのですか?」、「なぜ唐揚げ弁当なんか買ってきたのですか?」、「それらの背景でどんなことが行われているか知っていますか?」と尋ねたりやめさせようとしたりしているでしょうか?おそらくしていないと思います。そんなことをしていたら、まともな社会生活が送れるとは思えません。だとしたら、容認しているはずです。容認どころか、自分のヴィーガンライフを尊重してくれることに感謝すらしているかもしれません。ツイッター上の他人に投げかけているような言葉遣いもしていないと思います。明らかに動物搾取に加担している直接の知り合いには不干渉だったり寛容的な対応を取っているにも関わらず、明らかにアニマルライツを意識した行動を取っているツイッター上の他人に対して言うことを聞かせようと躍起になる様は自己矛盾しないのでしょうか。

それは本当に動物のためになるか?

 動物性食品を摂取している人も、その多く、おそらくほとんどの方が動物を苦しめたり命を奪ったりしたいとは思っていません。栄養面でも嗜好の面でも価格の面でも問題なく代替可能なものが世に溢れればそちらを選ぶ人も多いと思います。さらに進んでむしろ動物性食品を探す方が難しいくらいになったなら、今何も考えずに動物性食品を手に取っている人はやはり何も考えずに代替品を手に取るようになるでしょう。

 企業は営利目的で動いているので、イノベーションを起こすためにはまずは需要が増える必要があります。鶏が先か卵が先かのような話ではありますが、需要が増えるためには菜食を実践する人が増えなければなりません。「お肉やお魚食べなくても大丈夫なのかな?ヴィーガンってどんな人たちなのかな?」と思ってちょっと検索してみた人たちが目にするものが「頭のおかしいヴィーガンどもめ!!」みたいなツイートであるのとないのとを比べれば、ない方が良いに決まっています。アンチヴィーガンさんは増えないに越したことはないのです。

 同じくない方が良いものとして、菜食主義者同士の言い争いがあります。たまたまヴィーガン食を完全実行できる人が、完全には実行できない人に対して例え「ゆる」付きでも、むしろ「ゆる」付きだからこそ、ヴィーガンと名乗るな!と執拗に言い続けるツイートも、新しく入ってこようとする人を萎えさせるのに十分なマイナス効果を持つとともに、今現在名乗って問題ない状態の人も疲れさせるものだと思います。その文面が荒々しい物であればなおさらです。(トーンポリシングについてはまた別で書きます。)

 ヴィーガニズムの目的は動物搾取を無くすことです。活動のすべてはその目的に向かってプラスでなければなりません。「動物搾取はするかしないかであって、ゆるくやめるとか有り得ない!」とゆるヴィーガン撲滅に執着した結果、活動が広まらず搾取が減らないパラドックスに陥っていないかは、よく考えるべき問題だと思います。

 繰り返しになりますが、「動物たちのために」ではなく「自分がそうしたいから」になってしまっていないか?と常に自問自答することが必要ではないでしょうか。

 長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。今回もまたアンチヴィーガンについてはあまり書けなかったので、次回も同じテーマで続ける予定です。またお時間あれば見に来て下さると嬉しいです。よろしくお願いします😊


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