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ゴールと道筋

 人間に搾取される動物をゼロにしたいと願っているヴィーガニズム実践者の一人として、その普及に必要だと考えているものがあります。間口の広さと敷居の低さです。ヴィーガン歴は短いですが、SEのキャリアは長いので、ソフトウェア業界の例え話でそう考える理由を書いてみたいと思います。

爆発的な普及を遂げたWWW

 今やインターネットの代名詞となっているWorld Wide Web(略名WWW)は、情報の提供者が公開するWebサーバーへ、それを閲覧する人がブラウザと呼ばれるアプリケーションからアクセスする仕組みですが、実はその元になった「ザナドゥ計画」というプロジェクトが存在します。そして、当初のWWWの仕様はザナドゥ計画の縮小版ともいえるものでした。

 より高機能なザナドゥではなく、WWWが普及したのはなぜでしょうか?ザナドゥの決め事を守ったソフトウェアを作るのは困難で、そのシステムに関係する人間同士の協調を必要としたのに対して、WWWの決め事を守るのは容易で個人個人が独立して参加できたことが普及の差を分けました。
誰でも参加できる間口の広さがそこにはありました。

 また、イリノイ大学の学生が、当時としては革新的に高機能なブラウザを開発しかつそのソースコードを無料公開したことも普及につながりました。誰もがそれをコピーして必要な機能を付け加えることができるようになったのです。自分で一から作らなくても良い敷居の低さがそこにはありました。

 しかも、時は流れて今、爆発的に普及したWWWで実現されたWebアプリやクラウドコンピューティング等は、厳格なルール運用を想定したザナドゥの思想を遥かに超えたものに成長しています。

 他にもVHS対ベータマックス、SDカード対メモリースティックなど、規格のシェア争いで最終的に抜き出た側には常に、各社の参入のしやすさという要因があったのです。

JPEGファイルの読み書き

 今やフィルムカメラを見ることはほとんどなくなりました。********.jpgというファイル名のJPEG形式画像ファイルを扱うシーンは多いと思います。Panasonicのカメラで撮ったJPEGファイルもCanonのカメラでとったJPEGファイルも、MicrosoftのWindowsパソコンで見られますしAppleのMacPCでも見られます。これは、各社がJPEGという規格に沿ってファイルを作ったり読んだりしているからです。

 実は、JPEG規格といえばこれ!と一つに決められるものではなく、色んな規格の組み合わせでできています。決め事はたくさんあるので、中には厳密に守られていないデータもあったりします。

 出来を見るのを楽しみにしていたのに「このデータは再生できません」というようなメッセージを見るくらい悲しいことはありません。ユーザーにそんな悲しい思いをさせないために、開発者が心がけるべきことがあります。
それは「入りは緩く、出は厳しく」です。

 読んで再生する側のプログラムを作る時には、規格を極力緩く解釈して、再生するために最大限の努力をする。一方、撮影した画像データをファイルに書き込む側のプログラムを作る時には、規格を厳格に解釈して厳密に守ることに細心の注意を払うのです。

道筋をめぐる揉め事を見て思うこと

 ここ数日、「ゆるヴィーガン」という言葉をめぐって、動物搾取を減らしたいと思っている人同士がツイッター上で言い争うという悲しい状況を見ていて、思ったことを書くための前提として上の例を書きました。動物搾取を無くしたいという同じゴールを共有しているのに、そこへ至る道筋の思い描き方が異なるだけで排除の対象にされてしまうのはあまりに悲しいです。

 私は、「ゆるヴィーガン」という言葉を排除したいとは思っていません。これまでにも同様の論争はあったようですし、言葉は生き物なので変化していくことは止められないと思っています。「ゆる」を付けたくなる背景が事実上あることも想像範囲内ですし、「フレキシタリアンと名乗れば良い」と言われて「はい、わかりました」にはなれない気持ちも理解できるのです。

 「そんな言葉を認めると、ヴィーガンの定義が曖昧になってしまい、ヴィーガン対応を謳っていながら動物性の成分が入った商品が出回ってしまう」という危惧については、訴えるべき相手はサプライヤーである企業や飲食店ではないのかなと考えています。訴えられずとも、供給する側のプロフェッショナルとしてヴィーガンを謳う商品を出すならば、消費者の期待に応えるべく、ヴィーガンの定義を最も厳しく解釈した上でそれを厳格に満たすものを出す責任があるはずです。

 そもそも「認める」とか「認めない」とか、「正しい」とか「間違っている」とか、他者の言動や思想やライフスタイルに対して簡単に言っていいものだろうか?という疑問もあります。「1+1=3」は、算数問題の答えとしては明らかに間違っていますが、絶対に間違っていると言えることの例としてはこれくらいしか思いつきません・・・。
 昨日まで絶対正しいと思っていたことが、自分の視野が広がったことで間違いだったと気づいて愕然とした・・・という経験がない方には理解が得られない話かもしれません。(それが悪いということではないです。)

 食品業界は超のつく大企業ぞろいであり、営利目的を満たさない少数派の訴えは無視されてしまいがちなので、志を同じくする仲間の数を増やすことはとても大切ではないでしょうか。考え方が完全に一致しなくても、自分の考えを強要することなく、同じゴールを目指す者同士として手を取り合えることを願うばかりです・・・。

YOASOBI ツバメより引用



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