起業で社会は変えられるのか?

最近、起業に関心をもつ若者が増えている。なぜなのか? 理由を尋ねると「社会を変えたいから」という答えがかなりの割合で返ってくる。どうやら彼ら、彼女らにとって起業というのは、この社会を変える手段のひとつでもあるようだ。

しかし企業活動、すなわちビジネスという手段でもって本当にこの社会を変えることができるのだろうか。若者たちの純粋な情熱に水をさすようで申し訳ないが、私の見立てではそれはきわめて難しい。というよりほぼ不可能だ。

もちろん、表面的なあるいは対症療法的な変化をもたらすことは可能だし、対症療法にすぎないからといってそれが無駄だというつもりはない。しかしながら、そうした表面的な問題の奥底にある根本原因までさかのぼって変えるとなるとそれはほとんど不可能といっていい。

じつは私もマーケッターの端くれとして一時はマーケティングという切り口から社会を変えようと意気込んだこともある。だが、そういった情熱はいまやほとんど消えかかっている。そうしてなかば諦観の境地に安住したままお茶を濁しているのがいまの私の偽らざる心境である。

しかし、なぜビジネスという手法でもってこの社会を根本から変えることが不可能なのか? つきつめていえば、多くの社会問題の根本原因がビジネスの手のおよばない深いところにあるからだ。

深いところとはどこか? お金にまつわる仕組みである。

私たちの経済は、お金を中心に回っている。お金は経済の血液であり、お金がなければ経済は動かない。もちろん経済が動かなければ社会も機能しない。つまり私たちの社会は、お金の仕組みの上に築かれているのだ。これは裏返せば、あらゆる社会問題の根底にはお金の問題が横たわっているということでもある。

実際、貧困や失業はもちろん、食、教育、医療、さらには環境悪化から国際紛争まで、現代社会が直面するほとんどの問題の根本にはいまのお金のシステムの矛盾がある。したがって、こうした問題を解決しようとするなら、いまのお金の仕組み自体を変えないかぎり抜本的な解決は不可能なのである。

では、企業家にそうしたお金の仕組みを変えることができるのだろうか? 答えはノーである。なぜなら企業家はお金というゲームのプレイヤーでしかないからだ。プレイヤーはルールの枠内でしか動くことが許されていない。また「このルールはおかしい」と思ってもプレイヤーにはそれを変える権限はない。その上、このお金という巧妙な仕組みは舞台から見えない場所に隠されている。そして企業家にはその舞台裏に立ち入ることが固く禁じられているのだ。

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