#41 「カット真珠(カットされたパール)」に思うこと

宝石について「今日は何を書こうかな」と考えるときに、いつも頭をよぎる宝石がありました。

それは、「カット加工を施された真珠(パール)」について思うこと。

私は、自分のnoteのタイトルに共通して使っている"思うこと”というフレーズにはこだわりがあります。
宝石の物理的性質などは情報として正確でないといけないと思うのですが、それはもう宝石学者の方たちがたくさん本を書いていらっしゃるのでそちらを読んでいただくとして、私としては「一個人としてその宝石にどういう感情を持っているか」を記録として残したいという気持ちがあります。
ジュエリーの扱いへの不安とか、宝石の特性についての詳細などももちろん読んでくれている方と共有したいのですが、すでにお分かりの通り、自己満足の日記のようなものです。

今回はとくに自己主張強めな文章になってしまうかもしれないので、「ああ、こんな考え方の人もいるんだな」程度で読み流してもらえたらありがたいです。扱っているメーカーさんなどがもし目にしたら気分を害されるかもしれないので、ちょっと勇気がいりますが・・・「気にくわない文章だな」と思われましたら、どうかそっと画面を閉じてください。

さて、いつもながらに入りが長くなりましたが、今回は「カット真珠(カットされたパール)」について思ったことを綴っていきたいと思います。
これは是非、Google検索で「カットされた真珠(パール)」と検索をかけて、画像でご覧いただきたい宝石です(例のごとく自前の写真が無く、すいません)。

艶やかな球体面に、無数に施されたミラーボールのようなカット面が煌めく1粒。

その外見はただの「カットされた真珠」ではなく、まるで温室の中に大切に真珠が納められているかのように、カット面のついた透明なカプセルの中でオリエント(パール独特の表面のシルキーさを表す語)が揺らめいているように見える真珠です。

私が初めてこの「カット真珠」と出会ったのは、10年以上前に宝石の仕入れの為、アメリカ・アリゾナ州のTucson(ツーソン)で毎年行われているミネラル・ショー(ジュエリーや宝石、鉱物、化石などの展示会で、Tucsonの町全体が会場のようになる)を訪れたときでした。

真珠大国の日本にいながら、この真珠と出会ったのが国内ではないという点がとても面白いですが・・・・。

今でこそ、日本でもこの「カット真珠(パール)」が売られているのを見るようになりましたが、その時代はまだ日本に受け入れられるかどうか微妙な技術だったかもしれません。私が出会ったその時は、保守的な日本で商品展開するよりも、まずは世界中からのジュエラーが集まる、あらゆる文化を寛容に受け入れてくれるアメリカの展示会で反応を見る段階だったのかも。

ただ、私が知らなかっただけという可能性も高いですが・・・。私が初めて出会ったのはこの時。

そのTucson(ツーソン)で出会ったカット真珠は、ブラック・パール(黒真珠)でした。

黒蝶真珠というには小粒の、8mm程度の可愛らしいペアのスタッド・ピアス。孔雀の羽根のような多彩な輝きを放つので「ピーコック・カラー」と称される、とても美しいオリエント(真珠特有のシルキーな艶)を見せるものでした。

このときは「カット真珠」というものを知らなかった私。現地で説明を受けて、「真珠にカットが施されているなんて!!」と衝撃で購入したことを今でも鮮明に覚えています(あくまで会社用の仕入れ)。

ルーペで見ると、真珠のように不透明ではないのです。いや、「不透明ではない」という表現だとおかしいのですが、カットされている真珠はそのカットされた面から1mmくらい透明なクリスタルのようなカット面の膜(? あくまで透明の)が見えます。そのドーム状の中に、いつもの丸い真珠が入っているような外見をしている。とても不思議な美しさを持った真珠です。最初仕入れしたときは、日本に帰国してから「コーティングされているか、されていないか」でスタッフ同士で議論になったものでした(笑 もちろん、カット以外何もされていません。懐かしい)

この表面の不思議な見た目がなぜ起こるのかというのは、真珠自体が「煉瓦のように層状に重なった構造に光が干渉(虹の七色の反射の現象)」する事によってオリエント(真珠のシルキーな輝き)が生まれるわけですが、カットすることによってそこの光の屈折の度合いが変化し、目の錯覚が起こるのではないかと思っています。ただ、このカット真珠専門で扱っているメーカーさんには知り合いがいないので、本当のところは謎。

宝飾業界にいながら、なぜこの「カット真珠」を取り扱っているメーカーさんに知り合いがいないのか・・・。これはもしかしたら、私がその世界を避けているからかもしれません。

ちょっとここからは読んでくださっている方が離れてしまうかもということを覚悟で書きますが、私の「戯言」だと思ってくだされば幸いです。

同じように、とあるデパートのイベントで真珠のジュエリーを出品されているお店の商品を見たことがありました。

そこの商品には真珠に穴が穿ってあって、そこに金属の枠をはめ込み、ダイヤやそのほかのカラーストーンがキラキラとはめ込まれている。一粒だったり、水玉模様のように複数石が象嵌(そうがん)されていたり。まあ、球体に丸いカット石がはめ込まれているものは、ちょっと"目玉感”があってホラーな印象があることは否めなかったのですが、それを差し引いても・・・わたしはちょっと辛くて見ていられなかった。

変な思想があると思われたくないのですが、どうしても真珠からの「悲鳴」が聞こえてくる気がして。

これは、真珠が「生物起源」の宝石だからということが大きいのかもしれません。

昔から「象嵌(ぞうがん・一つの素材に異なる素材をはめ込む技術」というものはありますし、それに対しては何も感じません。もっというなら、生物起源の宝石であっても「コハク(琥珀・アンバー)」や「象牙(アイボリー)」、「鼈甲(べっこう)」は、この象嵌(ぞうがん)がされていても何も感じない。

ただ、真珠は・・・・。

きっと私の中では、真珠は「完結したもの(終わったもの)」ではないからなのだと思います。

まだ、生きている。

呼吸している。

海の中から貝が引き上げられ、人の手で地上に生まれ出たところから「貝殻の中の一部」ではなく「真珠(パール)」という名前を授けられて改めてそこから生命を得る。さなぎ(貝)から蝶(真珠(パール))に孵った印象なのです。そこに表面を削ったり、穴をあけたり、ましてやそこに他の石を埋め込むとなると・・・・なんか、駄目なのですね、私は。

そんなこといったら、パールのネックレスは貫通した穴があいているし、爪で留まっているように見えるリングも実は台座に芯が立っていて片穴が開いているので、「痛いのは同じでは?」とも思うのですが・・・。

表面全体をカットして見た目を変えてしまうのと、他の宝石を埋め込んでしまうということは、どうしても私には耐えられないみたいです。

なんだか長々と加工された真珠ジュエリーの批判のようになってしまいましたが、そういうわけではありません。

「異次元の美しさを持つカット真珠(しんじゅ)」をご紹介したいのですが、その割に何の知識もないということへの言い訳ですね(笑)

私の思いはさておき、是非「カットされた真珠(パール)」を一度ご覧になってみてください。ネット検索でも画像は出てきますが、機会があれば是非、店頭で実物を見てその美しさを確認して欲しいと思います。もし可能であれば、店員さんにルーペを借りて拡大して上記の表面を見て欲しい。結構、感動します。
ただ、まだなかなか一般的に店頭で並んでいることはないかもしれませんが・・・。

宝石業界の、技術の冒険にはいつも驚かされます。
それが自分にとってどうであるかは関係ない。
皆さんがどう感じられるか、是非、お手にとっていただきたいです(^^)

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宝石・ジュエリーの疑問やリフォームの不安な点、疑問点、ご質問などがございましたら記事にしてお答えいたします。お気軽にコメントで残していってください(^^)


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