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課題は解決しない、スペキュラティブデザインの役割

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あなたは20xx年の革命家です。
どのような社会問題を
どのようなテクノロジーで
どのように解きますか?

"文明の発達と人類の幸福は必ずしもイコールではありません。アートとデザインと科学技術によって世界はどのように変化するのか、したいのか?何をもって幸福なのか?そもそも私たちの存在する目的は幸福になることなのか?このような根本的な問いから始まるアートからデザイン、社会実装までを網羅する授業です。アート、デザイン、プロトタイピング制作に関する色々な知識や技術について老人問題、貧困問題、戦争問題 、ジェンダー問題、食料問題、環境問題、病気障碍問題等、社会問題にまつわるアート、デザイン作品等の講義とディスカッションを行います。最後に課題の発表を計画しています。今回は「2030年の革命家」として様々な国に振り分け、歴史&未来予測リサーチや未来の盲点やブラックスワンの存在を意識しつつ、どのような問題をどのような技術によって、どう解決するかを、短編SF、作品やプレゼン、パフォーマンス等様々な形式にて発表してもらいます。"
(引用:https://aihasegawa.info/revolutionary-20xx

なんて、本質的で、刺激的な授業なのだろう。東京大学の全学自由ゼミで開催されたそうだ。今回は、その際に講師を担当した長谷川愛氏に、"スペキュラティブデザイン" とその実践に関して、話を伺った。

長谷川氏は、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(通称 IAMAS)にてメディアアートとアニメーションを勉強した後、Royal College of Art, Design Interactions にてMA修士取得。2014年から2016年秋までMIT Media Lab,Design Fiction Groupにて研究員、2016年MS修士取得。2017年4月から東京大学 特任研究員を務めるアーティスト、デザイナー。

目次
1)"スペキュラティブデザイン speculative design " とは?
2)I Wanna Deliver a Dolphin... 人間がイルカを産む(事例)
3)Shared Baby(事例)
4)The Extreme Environment Love Hotel, Carboniferous Room(事例)
5)スペキュラティブデザインの創造プロセス


1)"スペキュラティブデザイン speculative design " とは?


"スペキュラティブデザイン speculative design " とは、Royal College of Artのデザイナー Anthony Dunne氏が提唱したデザインの概念。
"speculate" は、「思索・推測する」という意味の言葉。
"デザインシンキング" のように課題を解決しようとするのでなく、これからの社会はどうなっていくのかを考え、未来のシナリオをデザインして、いまの世界に違った視点を提示するデザインの立場だ。

スペキュラティブデザインは、デザインの境界を拡げるものとして注目を集めている。

よく参考にされる書籍『Speculative Everything: Design, Fiction, and Social Dreaming』では、「PPPP図」を使って概念を説明している。

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4つの三角形は、左点の現在(Present)から、右に向かい可能性(未来)を表し、デザインが、どの程度の可能性(未来)をフォーカスする領域とするかを指している。

現在(Present)

望ましい(Preferable)
起こりうる(Possible)
起こってもおかしくない(Plausible)
起こりそう(Probable)

それでは、具体的に、スペキュラティブデザインでは、どのような作品となるのかを長谷川氏が厳選した事例をもとに、3つの事例を挙げる。

2)I Wanna Deliver a Dolphin... 人間がイルカを産む。

私はイルカを産みたい…
(2011-2013) 映像、立体、ダイアグラム、写真

"人間は遺伝子を次世代に渡す方法として子供たちを育てるように遺伝的に仕向けられていますが、人口過剰と緊張した地球環境のために最適な状況で子供を育てることはより難しくなっています。このプロジェクトは、潜在的食物不足とほぼ70億人の人口の中、これ以上人間を増やすのではなく、絶滅の危機にある種(例えばサメ、マグロ、イルカ等)を代理出産することを提案しています。子供を産みたいという欲求と美味しいものが食べたいという欲求を満たす為に、食べ物として動物を出産してみてはどうか?という議論を提示し、そして如何に可能にするかという方法も示します。"
(引用:https://aihasegawa.info/i-wanna-deliver-a-dolphin


3)Shared Baby

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シェアードベイビー (2011)
ワークショップ、写真、プロダクトデザイン、ダイアグラム

"このプロジェクトは社会や技術の進化によって変化する家族の形態、関係を思索します。一対一の関係のmonogamyに対して、複数愛を表すpolyamoryいう言葉も最近よく耳にするようになってきました。浮気や離婚、再婚。私たちはそもそも一人の相手と一生共に過ごせるように出来ているのでしょうか?2016年、ミトコンドリアDNAに問題がある女性の医療の一環で3人の親の遺伝子を引き継ぐ子供が産まれました。体外配偶子形成(IVG: in vitro gametogenesis)の研究等の先には更に3人、4人、5人等、複数親の遺伝情報を持つ子供が作れる可能性があり、子供にとっては 遺伝子や経済、愛情のリソースが増え、親は出産育児にかかわる様々のコストが軽減される等、多くの利点と共に、様々な問題が発生することが容易に想像できます。しかし私達は以前は占有物であった車や家もカーシェアリングやairbnbのようにシェアリングエコノミーと言われる、良くデザインされたサービスシステムの登場により共有することが出来るようになって来ました。私達はどのようなシステムがあれば、子供を他の親達とシェアできるのでしょうか? 複数人の遺伝的親をもつ子供のためのプロダクトやボードゲームを使ったロールプレイング ワークショップを通じ考察した。"
(引用:https://aihasegawa.info/shared-baby


4)The Extreme Environment Love Hotel, Carboniferous Room

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極限環境ラボホテル、石炭紀ルーム

これは今現在人類が辿り着けない場所を体験させるラボ、そしてラブホテルです。 このホテルの部屋は目には見えないけれども生命にとって重要な環境要因である、大気や重力を再構成してあります。現在イギリスの新生児の10人に一人は不妊治療を受けて誕生しています。性行動と生殖は乖離してゆき、むしろ性行動により性感染症等による生命の危機やや出産率の低下が高まっています。もはや私達のプログラムされた性衝動は古く、現在の社会に置いて行かれているように感じます。私達人間はそろそろ進化しても良い時にあるのかもしれません。しかし単純に進化を促進するのならば、単純に遺伝子操作をするのが早いのですが倫理的問題がそれを阻みます。まず遺伝子操作の前に私達は肉体の限界や異なる環境による遺伝子の表現型発現研究しなければなりません。このラブホテルでありラボ(研究室)ホテルは人間の進化を推進するために、人体を生命にとって極端な環境に置き、遺伝子、行動、心理等がどのように変化するか研究し、体験する施設です。3億年前の大気の中で、木星の重力の中で私達の本能、愛情は変化するのでしょうか?
(引用:https://aihasegawa.info/the-extreme-environment-love-hotel-carboniferous-room


5)スペキュラティブデザインの創造プロセス

これまで、長谷川氏が厳選した事例をもとに、3つの事例を挙げた。

作品となるテーマとその内容を伺う中で、長谷川氏が抱く世の中への課題意識、それらを自分自身の関心領域とリンクさせ、実際に調べ、仮説を立てて実践してみる。そうして、課題意識に対する実情や、原因のデータをリサーチして提示して終わらせるのでなく、その世界が実現されたらどうなのか?を動画やバーチャルに実現させたり、その世界観をコンセプトとしたアートを創造して提起する。このようなプロセスを経て、実験を紹介、テーマの問題提起をするように、作品を創造していることがわかった。

個人的に、あるテーマや事象に対して、答えを導き出すというより、「問う」こと、その姿勢が大切なのではないか、と感じた。私自身、ワークショップを提供側・参加側で実践する中で、いかに「自分ごと化して向き合えるか」が大切だと感じるので、その表現方法として、とても関心深いデザイン概念だと思う。

情報元:
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第3回 長谷川愛氏 2019/04/24