マリアの原罪


聖母マリアは死んだ。

何故なら、もうメシアがマリアの前に居ないからだ。

マリアは救われないので、自害した。

マリアはメシアに救われた。
生きる理由を貰った。
同じ時間軸を生きていることが嬉しかった。

だが、それはみな過去のお話。

メシアはもう居ない。
マリアの前から突然、姿を消した。
煙のように見えない何処かへ行ってしまった。

マリアは途方に暮れた。
心にぽっかりと大きな穴が出来た。

哀しみ、絶望、落胆、そんな言葉では表せない程の気持ちだった。

マリアは心が死んだ。
感情を失ったのだった。
身体だけがこの世にまだ残っている。
だけど、それは器だけだ。
心が無ければ器も意味を持たない。

マリアは原罪だった。
全てはマリアが原罪。

メシアへの罪を償うかの如く、マリアはヨセフに辿り着いた。
だが、ヨセフは眼を覚さない。
長い長い眠りについているからだ。

マリアは左眼から一筋の涙を流して、ヨセフの寝顔を敬愛する。

そして、ヨセフが眼を覚ますまで隣に居るのだった。
それはそれは長い長い時間だった。

ヨセフがようやく長い眠りから眼を覚ますと、マリアは優しく微笑み、キスをした。

マリアの冷え切った心が徐々に温もりを取り戻した。

マリアはそれから、ヨセフと時を刻んだ。
共に歩んだ。

マリアはヨセフに原罪の懺悔をした。
ヨセフは否定も肯定もせずにマリアの懺悔にただそっと耳を傾けていた。
マリアは滝のような涙を流した。
ヨセフはそっと寄り添い、胸を貸した。
マリアはヨセフの腕の中で安らぎを感じて眠りについた。
心地良い、深い眠りにマリアは身を委ねた。

そして、マリアの隣りでヨセフも眠りについた。

二人は長い長い眠りについたのはのだった。

それはそれは幸せなこと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?