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J-POPまもる君問題

 某所でこの企画に誘われたので、めちゃくちゃ久しぶりに企画に乗っかってみる。
 なるべく真面目に考察してみたいけれど、雰囲気的な考察になることが想像される。またあまりエビデンスがあるものでもないので、雑な解釈としてとらえて読んでもらえるとありがたい。
 企画のため有料設定にしてるけど全部無料で読めるよ!


「君を守る」歌の実態とは

 「君を守る」という歌詞のついた歌が、近年一体どういうアーティストによって歌われているのか、詳細に調査してから考察に入るべきだと思って、「君を守る 歌詞」で検索してみたところ、めちゃくちゃ膨大な数の歌がヒットした。私の勝手なイメージでは、マイルドヤンキー(もう死語かもしれない)が好むようなヒップホップ、レゲエ風の歌で歌われているイメージがあったが、そんなことはなく、ACIDMAN、三浦大知、YOASOBI、とにかくたくさんの人が「君を守りたい」と歌っているのである。
 仕方がないので、まずざっくりと二つに分けてみようと思う。

・アニメの主題歌になっている曲

・そうでない曲

 引用記事にある脱輪さんのツイートには「鬼滅の刃」が取り上げられているが、アニメの主題歌として使われるのが決まっている曲は、アニメ世界における「守るべきもの」が明確になっているので、歌詞にもそれが反映されていると考えてよいだろう。というわけで、アニメ主題歌の「君は守る」はまず除外してよいだろう(ということにする。本当は、アニメにおいて他者を守ることが命題とされていることをも考察すべきかもしれないが)。
 そして、残った「そうでない曲」について考察を進めていこう。

 そうでない曲についても、ジャンル分けが可能だろう。それほど沢山歌詞を眺めてみたわけではないが、ここはざっくりと「恋愛の曲」「恋愛以外の曲(主に親子関係)」と分けよう。
 親子関係で「守る・守られる」ということはまあ自然といっていいかもしれない。子供とは一般的に守られるべき存在であるし、自分が育てている小さい存在を怪我、病気、経済的不自由さから守ることは大人に求められる仕事であるだろう(ただ、親子関係を歌ったような歌はそこまで多くないように思う)。
 ここまでが前置きである。脱輪さんの元ツイートでも示されたことではあるが、実際、今回考察したいのは「なぜ『恋愛の歌』において、それほどまで『君を守る』という歌詞が乱発されているのか?」ということなのだよね。

仮説①恋愛段階が違うと「君を守る」の意味合いも変わる?

 恋愛の曲といっても、「恋愛初期・絶頂期」と「恋愛の終末期」にざっくり分けることができる。
 そして、本当にざっと見た限りではあるが、「恋愛の終末期」を歌っているような歌において「君を守る」が割と多いのである。

 へえー! 実際調べてみるまでそういうことに気付かなかったので、私自身驚いたのだけれど。

 別れたのに何を守るんじゃい、ということなのだが、要は「君とはうまくいかなくなってしまったけれど、僕はずっと君を陰ながら見守っているよ」、むしろ「もう君を見守ることしかできないけれど、見守らせてね」というようなことなのである。

 ストーカー?

 穿った見方をすればそうなのかもしれないが、思うのは自由である。歌というのは、聞く人の心を慰撫する役割もあるのだから、失恋にあえいでいる人の耳に、「もう元恋人と関わることは難しくても、『君を守る』という考え方を持つことで、君の無念を宥めることはできるよ」と伝えるのはそれなりに意義のあることかもしれない。

 恋愛の初期・絶頂期に発せられる「君を守る」は、性欲や高揚感等々で浮かれポンチになっている人による、脈絡もなく発せられるものであるから、捨て置いてもよい気がする。「君を守る=君が好きだ」程度の意味なのではないか。
 ではなぜ、「君が好きだ」と言うのではなく「君を守る」になるのか。

仮説②誰が「君を守る」を求めているのか

 そもそも、「君を守る」という言葉を欲しているのは誰なのだろうか。歌を作るのはミュージシャンなわけだが、ミュージシャンは自分の心の発露と、時代の要請に基づいて歌を作っている。
 歌い手側、「守る」側の人と、歌われる側、「守られる」側の人に分けてみると、うまく考察できるのではないだろうか。

①「守る」側は何から恋人を守りたいのか

②「守られる」側はどう守られたいのか

③恋愛や結婚の要素が変容している?

 現代の日本は、賃金水準があがらない、少子高齢化が止まらず社会保障費が高い等、あまり明るい要素がないものの、先進国の末席にはいることができている、まだまだ恵まれた国である。少なくとも(アニメなどのように)命を狙われるような危険に晒されることはあまりない。
 
 一方で、核家族化、経済格差の拡大、(特に都市部における)地域社会の弱体化等により、人とのつながりのベースが以前より狭い。そういう社会においては、人とどれだけつながれるかが、その人の能力に強く依存する状態になっているのではないか。人とうまくコミュニケーションを取り、いざという時に助けてもらうような人とのネットワークを作るのも、自己責任という訳である。
 ただ、そのように自己の能力を駆使して人とのネットワークを作ったとしても、それは盤石ではないのではないか。怪我や病気、離職などによって資本主義社会から脱落し、その人と付き合っていくメリットを失えば、そのネットワークは簡単に縮小するだろう。

 そのような社会情勢の中で、「自分だけはあなたの味方として、関係を切ることなく、いつでもそこにいるよ」と言われることを、聴衆は期待しているのではないか。
 その期待に応えるように、(実際には何から守るかも不明確で、本当に何があっても守れるかは全く保証できないが、とりあえず)「君は守る」という歌詞が選好されるのではないか。

 一方、その裏返しになるが、歌い手、および歌い手に感情移入して歌を聞く人にとっての「君を守る」という言葉は、「誰かを守り得る存在である」と宣言することが、かろうじて自分の生きる意義になっているという事情があるのではないかと考える。

 ここまでが、先に述べた①「守る」側は何から恋人を守りたいのか、②「守られる」側はどう守られたいのかについての考察である。

 ここからは、③恋愛や結婚の要素が変容している? について述べる。

 かつては、そして今も一部の層はいまだにそうではあるが、結婚や恋愛と男性の経済力というのは切り離せなかった。女性は男性に経済的な意味で守られてきた。
 しかし、現代においては男性だからといって正社員になれるとか、高い昇給が約束されるかといったらそうではなく、結婚する際も共働きが前提であるという風に変わってきている。家庭によっては、妻の方が給与が高いということもあり得るだろう。
 かつては、結婚生活がどれほど辛くても、経済的に自立できない女性は余程の覚悟がなければ離婚を切り出しにくかった。しかし今はそういう女性ばかりではなくなっていると考える。
 結婚や恋愛において、男女を結ぶものはお互いの気持ちと金銭、および子供の存在だが、子供は脇に置くとして、金銭の紐帯が弱くなれば、お互いの気持ちが通じているかどうかが、関係継続していくかどうかを大きく左右するようになるだろう。

 お互いの気持ちなんて、めちゃくちゃ曖昧模糊とした、確証のないものだと思いません? だけど、ずっとお前が好きだよと(本心は分からないが)言い続けていくくらいしか、関係継続の合理的な(?)理由がなくなるのである。

 そこで、人は根拠のない、何から守るか、何を守るか定かではない「君を守る」という言葉を多用するのではないか。

 それは、実際の所実現することが不可能だからこそ、歌うに値する、祈りのようなものなのかもしれない。

まとめ?

 以上より、「J-POPまもる君は、人とのつながりが不安定になってきた日本社会において、誰かと強いつながりを持っていたいという聴衆の期待によって生まれたのではないか」ということを主張して、論を締めくくることとする。

 ここからは卓袱台をひっくり返す蛇足だ。

 「守る」ってなんかこう、粘っこい言葉だよね。対等な関係じゃなくて、粘膜の内側に引き込み、一体化するような趣がある。
 Twitter(X)では、「恋愛関係であっても依存しあわないで、自立した関係を構築すべき」という意見が割と一般的になっていると思うが、Twitterなんてやっていない人達のことを(観測範囲は狭いものの)眺めていると、今でも「男は仕事、女は家で家事育児」という考え方の人って実はけっこういるし、お互いが同意していればそれでうまくやっていけるようなのだよね。

 そういう人にとっては「君を守る」という歌詞は割と自然なことだし、何から守るのかといったことについて、あまり疑問を持たずにカジュアルに受け取っていて、むしろ「なんで身近な人のことを守る覚悟もないのに、恋愛(結婚)するの?」みたいな感覚もあるのかもしれない。特に地方では、そういうマイルドヤンキー的マインドが未だにある、というかむしろ根強いのかも。そういう人が大多数だから、そういう歌が売れるのかもとも思う。これまでの考察を全部ひっくり返すようなことを言うけど。

 あるいは、今の子って叱られ慣れてなくて、めちゃくちゃ弱いから、以前よりも生きていくこと自体がハードになって、「守られなければ生きていけない」と感じている人が多いのかもしれない。
 そういう世界観で生きている世代の人達は、SNSでは見せない、よそゆきの自分じゃなくてありのままの自分を受け入れてくれて、苛酷な外界から帰って来た時に傷付いた心を癒してくれるような人が欲しいのかもしれない。そういう人に絶対的に守られたいのかも、なんてことも思ったりした。

 なんだか取っ散らかった論になった気がしなくもないが、考えだすと無限に考えてしまいそうなので、この辺りで筆をおくことにする。
 反論とか「ここがおかしい」とかあったらこそっと教えてください。再考してしれっと書き直すので(笑)。

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