見出し画像

読書記録 『東京奇譚集』

 noteで、「男の子は好きになる女の子がどういう子かによって人生が変わる」という命題を目にして、その記事を書いた人(さとくらさん)が、その考えのもととなった作品として、この短編集の中の作品を挙げていたので読んでみたかった。

 その作品自体は、村上春樹お得意の「ごく平凡そうな、しかしいささか理屈っぽい男性が、ひょんなことから周りとはちょっと違う輝きを持つ女性と懇ろになる」話だった。主人公が「意味のある女」だと認定した彼女が、ごく平凡な、どこかの企業で資料を作ったり経費の精算をしたりする事務職だったらもっとよかったのに、と少し残念だった。彼女が何か人と違う仕事をしているから(あるいは容姿が魅力的だから)運命の相手だと思う、というのでは、「彼にとって、なぜ彼女でないとダメなのか」が分からない気がする。

 目的の短編は読んだので図書館に返そうと思ったのだけれど、変な勿体ない精神が働いて結局全編読んだので、「品川猿」について一言。

 品川猿では、主人公の女性はあるモノをたびたび忘れるという奇妙な症状に侵される。原因は分からないままだったが、彼女は生活の不便を補うための策を講じてどうにか生活している。しかしあるきっかけから、彼女は区のカウンセリングを受けてみることにするのだった。

 ネタバレを完全に避けることはできないのだけれど、ここに出てくる猿が「私が何かを盗むと、ついでにその人の一部も持って行ってしまうらしいのです。よいことも、わるいことも」と言うのだけれど、猿は主人公からはよいことも、わるいことも獲っていってないのではないかというのが気になった。物語は前向きに締められているのだけれど、それは猿がどうこうしたからではないように思うし、猿が主人公からモノを盗んでいた間、主人公が(盗まれる前の自分と違って)何か憑き物がおちたとか、逆に不幸になったとかいうこともなさそうだ。猿が実際、目当てのモノとは別に、一緒に何を取り去ってしまったのか、鋭い読者なら推測できる程度の示唆は要るのではないかと思った。


 閑話休題。相変らずテイラー・スウィフトの楽曲を聴いている。彼女はカントリーミュージック出身だ。作品のレビューを見ていると、彼女にカントリーの歌姫を求める人と、失恋リベンジソングを歌うちょっといかれた女を求める人と、近年のポップアイコンとしてのテイラーを求めている人とがいて、スターは大変だという凡庸な感想を抱いた。世間的にあまり成功しなかったアルバムを、往年のファンは「迷走だ」と落胆したり怒ったりしているけれど、彼女自身にとっては迷走ではないんじゃないかと思ったのだ。迷走かどうかは、(カントリー歌手を、いかれた女を、ポップアイコンを)求めている我々の気持ちに左右されている。セールスが振るわないアルバムは「迷走」と言われやすい。セールスが順調なことは、多分いいことだ。でもいいことばかりでもないんじゃないか、とも思う。

サポートいただけたら飛んで喜びます。本を買ったり講習に参加したりするのに使わせて頂きます。