見出し画像

国際的問題をその予想される影響の観点から比較する枠組み

こちらは“A framework for comparing global problems in terms of expected impact”の日本語訳です。
by Robert_Wiblin


あなたが次のことについて迷っているとしましょう。自分は発展途上国における健康について学ぶべきか、あるいは太陽エネルギーの研究者になるべきか、あるいはアメリカの刑事司法改革を応援するべきなのか。どの領域に取り組むことが最も効果的なのでしょうか。

何らかの問題に一年間取り組むとして、同じ一年でも、他の問題に取り組むよりも多くの人を助けることができるような問題があります。実際、私たちの分析が示唆するところによると、どの問題領域に取り組むかについての選択が、あなたのキャリアにおいてあなたが 社会に与える影響を決定する唯一にして最大の要素でありうるのです。

私たちは諸問題を、それに人員を追加することで、どれだけよい影響を増やすことができるか、という観点から評価するために、しばしば次のような簡易的な枠組みを用います。規模、見過ごされている度合い、解決可能性、個人的適性です。この枠組みについての一般的な紹介としてはこちらを見てください。

この簡易版の枠組みの適用は有益で、しかも多くの状況で十分うまくいきますが、二重計上のような問題を生じさせる可能性もあります。本記事ではこの枠組みのより正確で定量的なバージョンについて概説し、それをあなた自身が諸領域を比較するときにどのように適用すればよいかについて詳しく説明します。

この枠組みは Open Philanthropyによって初めて作られました。私たちはさらに、このプロセスを Future of Humanity Instituteのスタッフと協力して発展させました。彼らは、国際的諸問題に優先順位をつける方法について政策立案者と意思決定機関にアドバイスする、オックスフォード大学の研究グループです(世界的優先課題研究についてより詳しく学ぶには こちら)。

この枠組みは、様々な国際的問題を比較するためのツールの一つに過ぎず、多くの弱点があります。本記事の最後では、このアプローチの長所と短所を、質的アプローチおよび費用対効果分析と比較して論じます。国際的諸問題を比較するために有用な、より包括的なプロセスについては こちらを見てください。また、コミュニティと連携している場合は、さらに考慮すべき要素があります。

運用中の枠組みについて知りたいなら、 2017年からのスコア表を見てください。

この記事の大部分は2017年に書かれました。要点のいくつかをさらに肉付けし、アップデートするために2019年10月に手短に更新しましたが、この問題についての私たちの全ての考えはカバーできていません。

諸要素の定義の方法 

私たちの知りたいことは、究極的には、ある問題に投資された資源1単位あたりの予測される「成果(原文では”good done”)」です。資源の単位は、一年間分の労働だったり、寄付金の額だったり、あるいは他の指標だったりします。

成果はそれ自体では評価することが難しいので、個々に評価することのできる構成要素に分解する必要があります。

私たちの 入門記事では、いくつかの質的要素へのおおまかな分解方法を紹介しています。その分解方法のより正確な、量的なバージョンは以下のとおりです。

  • 規模

    • 成果/問題解決率

  • 解決可能性

    • 問題解決率/資源増加率

  • 見過ごされている度合い

    • 資源増加率/追加人員あるいは追加資金($)

この方法で分解するのがなぜよいかというと、これら三つの項目を掛け合わせると、「成果」/問題に割り当てられた「追加人員あるいは追加資金」に立ち戻ることができるからです。

  • 規模

    • 成果/問題解決率

  • 解決可能性

    • 問題解決率/資源増加率

  • 見過ごされている度合い

    • 資源増加率/追加人員あるいは追加資金($)

そうして、私たちは「1ドルあたりの成果」を定量的に定義された三つの構成要素に分解しました。これらの構成要素を分かりやすく言うとどうなるでしょうか。

  • 規模 -  その問題を解決したとき、どれほどの成果になるか。

  • 解決可能性 - この問題解決に費やす資源を倍にしたとき、問題の何割が解決されると期待できるか。

  • 見過ごされている度合い - すでにどれだけの資源がこの問題解決に費やされているか。

最後に、あなた自身が何に取り組むべきかを考える場合、あなたが取り組むのにより適した問題にボーナス点を加えることもできます。これについては後で詳しく説明します。

以下では、上で挙げた諸要素について順番に論じていきますが、その前に分析のための準備をする方法についてもう少しだけコメントしておきます。

問題を慎重に定義する 

あなたが自分で評価を下す前に、比較したい諸問題の範囲を明確に記述しておきましょう。これはあなたが諸要素にスコアをつけるとき、一貫性を保つための助けになります。例えば、私たちが「グローバルヘルス」を評価するなら、次のことを明らかにする必要があるでしょう。

  • どの病気が含まれているか(例:結核、HIV、マラリアなど)

  • どの国を考慮しているか(すなわち、最貧国だけか、中所得国も含めるか)

この種の枠組みで気をつけるべきことは、慎重に選ばれた「狭い」問題は、広く定義された問題よりもスコアが高くなる傾向があるということです。例えば、「マラリアと戦う」は「グローバルヘルス」よりも逼迫したものに見えるでしょう。なぜなら、マラリアは取り組んだときの有効性が高い健康問題だからです。同様に、ケニアでの健康促進はコスタリカでの健康促進よりも優れているように見えるでしょう。これらの知見に間違いはありませんが、広く定義された問題を狭く定義された問題と比べると、誤解を招くような印象をもたらす可能性があります。もし誰かがやる気になれば、定義を変えることで問題をより緊急性の高いものに見せたり、そうでないものに見せたりすることができるということは、、上述のスコアを扱う上で注意しなければなりません。

(対数的)尺度を作成する

これらのスコアを用いて異なる領域を比較しようとすると、各領域が非常に異なることに気づくでしょう。例えば、年間約3000億ドルがグローバルヘルスに費やされているのに対し、工場畜産の問題に取り組むために使われている費用は1億ドルに満たないのです。そのため、工場畜産はグローバルヘルスよりも1000倍以上見過ごされていると言えます。

このことが意味するのは、各要素を評価するには「対数的尺度」がより便利だということです。私たちが採用している方法では、2点増えるごとに、その効果が10倍になることを意味します。例えば、ある問題の見過ごされている度合いとして4点、別の問題のそれに6点与えるとすると、後者は10倍見過ごされていることを意味します。

これは地震を測るための リヒター・マグニチュード尺度と同じものです。マグニチュード8の地震はマグニチュード6の地震より、実は1000倍強いのです。

各部分に対数的尺度を用いると、規模、解決可能性、見過ごされている度合いを掛け合わせるのではなく、単に足し合わせることで全体的な費用対効果の評価値を得ることができます。(数学が好な方は高校で習ったのを思い出すと思いますが、logAB=logA+logBだからです。)

私たちはスコアを読みやすくするため、全て0から16の尺度で表現します。そうすると異なる問題同士の間の費用対効果を比べるとき、それぞれのスコアの違いを見るだけで済みます。

規模を評価する方法

定義

この問題を解決したら、世界はどのくらいよくなるのでしょうか。

例えば、がんはマラリアより大きな問題です。なぜなら、がんは世界の健康障害の8%を占めるのに対し、マラリアは世界の健康障害の2.7%を占めるのみだからです(損なわれる質調整生存年数で算出)(原注1)。がんを撲滅するとマラリアを撲滅するより健康障害をかなり大きく減らすことになるのです。

問題の規模を測る方法の一つに、ウェルビーイングに対する効果を測る、というものがあります。というのも、ウェルビーイングは多くの人々が気にかけるものだからです。また、私たちは異なる種類の利益を比較する道具を持っています。(しかし私たちはウェルビーイングだけが重要だとは言いません。詳しくは定義を読んでください。)

このことが意味するのは、規模は(i)より多くの人々に影響をもたらすことか、(ii)同じ数の人々に、長期的効果と短期的効果の両方を含む、より多くの影響をもたらすことのいずれかによって、大きくなるということです。私たちはウェルビーイングを広い意味で捉えるので、その効果とは、ある人の人生を改善する多くの側面を意味します。それには、幸福、健康、人生が有意義であるという感覚、ポジティヴな人間関係などが含まれます。

私たちは実践において長期的視点を採用しているので、私たちにとって、規模を測ることは未来世代に最大の重要性を持つ問題を見つけることになります。

もしあなたが私たちと違う価値観を持っているなら、異なる規模の定義を使用した枠組みを使うこともできます。

規模に含まれる道具的価値のあるもの (Instrumental sources of value) をまとめることも有益です。例えば、どの問題が最も重要かについて情報を得たり、一群の問題について運動を起こしたりするといったようなことです。ある問題における進展の利益の、他の問題への波及を捉えることが理想的です。後で簡単に補足しますが、協働に関する考慮も規模を測る方法を変えることがあります。

次のことを注記しておきましょう。スケールを問題全体を解決することによる成果と定義しましたが、10%の問題を解決することも分析の対象として適切です。ただし、他の要素と一貫して10%の問題を解決することが必要です。

評価の方法

上記のがんとマラリアの場合のように、問題の規模をかなり正確に定量的に比較できるときもあります。

しかし、多くの場合そうではありません。問題を解決することによる長期的な効果や間接的な効果を考慮に入れようとするときは、正確な定量的比較は特に難しくなります。あなたが物理学で大きな発見をしたとしましょう。それは最終的にどれだけの人に影響を与えるでしょうか。答えることは困難ですが、だからと言って物理学的な大発見は重要ではないなどと結論するべきではありません。

諸問題をより広い範囲で比較するためには、規模を測るための「ものさし」が必要になるでしょう。これらは規模を比較するための、より測定可能な方法で、長期的な社会的インパクトとの相関が期待されているものです。

例えば、経済学者は経済的発展の便利なものさしとしてGDPの成長をよく使います(もっとも、このものさしは多くの欠点があるのですが)。ニック・ボストロムは、長期的な幸福度を測るために鍵となるものさしは、ある行為が、文明の終わりのリスクを増やすのか減らすのか──彼が存亡リスクと呼ぶもの──であると論じます。

これはものさしの一覧です(最上行)。それらを以下の項目で評価しています。

このプロセスは、例えばいくつかの問題をどれだけ健康を改善するかという観点から比較するなど、同じものさしを用いて問題を比較するときに最も有効なものとなります。各項目のトレードオフは非常に不確かであり、Future of Humanity Instituteのようなグループが活発に研究しているテーマです。

列をまたぐことの代償の大きさは、大きな世界観についての判断や価値判断からもかなり影響を受けます。何が最もウェルビーイングにとって重要なのか、未来の人々をいかに価値づけるか、人間以外のものをいかに価値づけるかについては意見が分かれるでしょう。例えば、一般的な経済成長は、意図しない副作用(例:気候変動や危険な新技術の開発の加速化)を引き起こすため、全くよいものではないと考える人々もいます。(このツールを使うと、重要な事柄についてのあなたの意見を入力するだけで、あなたが取り組むのに適した問題を知ることができます。)

上記の各項目は異なるものさしを互いにどのように入れ替えることができるかについての私たちの意見を反映しています。ここでは理由の全ては説明しません。明示化するのが難しいからです。詳しくはものさしの選び方とニック・ボストロムによる Crucial Considerations and Wise Philanthropy(重要な考察と賢明な博愛主義)を読んでください。(残念ながら本記事と私たちのものさしの選択は私たちの最新の考え方を反映したものではありませんが、大まかな考えと方向性はまだ合っています。)

ある問題の解決が効果を持つことが複数の列で示されているなら、最大の効果を示す列に焦点を当てましょう。各行は十分の一に過ぎないので、最上行が規模の全体的評価を決定づけるものになります。

問題が見過ごされている度合いを評価する方法

定義

目下どれくらいの人員あるいは資金が問題解決に費やされているのでしょうか。

なぜそれが重要なのか

大量の資源がある問題に費やされた後は、収穫逓減が起こるでしょう。というのも、資源を最も効果的に利用できる機会から優先して手をつけるので多くの資源が投資されるにつれ、違いを生み出すことが難しくなるからです。そのため、他の人々に見過ごされている問題に焦点を当てる方がよいことがしばしばあります。

例えば、子供への大量予防接種はグローバルヘルスを改善するためのきわめて効果的な施策ですが、それは、各国政府や、ビルゲイツ財団を含むいくつかの主要な財団によってすでに精力的に行われているので、これから支援しようとしている人にとって、より大きなインパクトを生み出す効果的な資源の使い道として最善の選択肢とはなりにくでしょう。。

新しい問題を探すことにも価値があります。なぜなら、それによってどの問題が実際に喫緊のものなのかが分かるからです。つまり、新しいことに挑戦することには付加的な「情報の価値」があるということです。それまで誰も取り組んでこなかった問題は、以前考えられていたよりも簡単に解決可能であると分かるということもありえます。

問題領域が収穫逓減せずむしろ収穫逓増するようなメカニズム もあります。しかし、私たちは収穫逓減が普通であり、収穫は対数的に減少していくことを示す よい理論的・経験的論証があると考えています。収穫逓増は問題領域におけるかなり小さい規模では生じるかもしれませんが、上記の「情報の価値」の利点から、それさえ確信が持てません。(収穫逓増は問題領域というより、むしろ組織の内部でよくあることであるように思われます。)

また、見過ごされている度合いは、その領域が他の行為主体によって悪い理由で放置されている場合にのみ、良い指標となることも注記しておきましょう。しかし、私たちはよいことをするための社会的メカニズムは効果的とは程遠いと考えているので、他の条件が同じなら、見過ごされている度合いはよい基準になると言えます。。

問題が悪い理由から見過ごされることになる特に重要な原因の一つは、他の人々が単純にそれに価値を見出さないことです。この記事では、あなたが平均よりX倍多く何かを気にかけているならば、(あなたの目から見れば)その領域に取り組むことでX倍のインパクトを与えられると期待すべきであると論じています。例えば、私たちは、未来世代の利益は社会によって劇的に過小評価されているので、未来世代を支援する活動に取り組むことで、かなり大きな影響を与えることができます。

評価の方法

課題 – 直接的努力、間接的・将来の努力

自己利益を追求する集団や隣接する問題に取り組む集団が、ある問題の解決に意図せずして資源を投じることもよくあります。私たちはこれを「間接的努力」と呼び、意識的に問題に取り組むグループの「直接的努力」と対照的に表現します。この間接的な努力はかなり大きいものになり得ます。例えば、老化の原因を防止する研究に直接費やされる資金はあまり多くありませんが、生物医学研究の大部分は関連する問題の解決やよりよい方法の開発に貢献しています。このような研究はとりわけ老化の抑制を狙ったものではないかもしれない一方で、かなり多くの資金が、アンチエイジングに特化した研究よりも一般的な生物医学研究に費やされているのです。老化防止における進歩の大部分はおそらくこれらの間接的努力によるものです。

間接的努力は測定が難しく、まして目下の問題の解決にどれだけ有益なのかを考慮して調整を施すことはもっと困難です。

そのため、私たちは通常、問題への「直接的努力」のみを計上します。全体の努力を計上しなくて問題ないのでしょうか。問題ありません。なぜなら、次の要素、すなわち解決可能性を考慮することでこの埋め合わせはできるからです。効果的な努力の大部分が間接的に生じるような問題は、「直接的努力」が大きく増加したとしてもすぐには解決しないでしょう。

また、努力の方向性を重み付けした測定方法を用いることもできます。見過ごされている度合いと解決可能性の両方を評価するときに、それを一貫して適用すれば、大体同じ答えを得られます。

もう一つの課題は、いくつかの問題の解決には他の問題解決よりはるかに多くの努力が将来なされうるという事実をどのように考慮するかです。この課題を解決する一般的な方法はありませんが、(i)見過ごされている度合いについてどの領域にも極端に低いスコアをつけないというのは理にかなっており、(ii))現在の資源だけでなく、将来の資源の方向性を考慮するようにすることはできる、ということは言えます。

評価の方法についての更なるヒント

見過ごされている度合いを直接評価しようとするのではなく、以下のようないくつかの目安について考えることもできます。これらはその問題が見過ごされている度合いと、それが悪い理由から見過ごされているかのかどうかを明らかにするのに役立ちます。

  • この問題が(i)市場(ii)政府(iii)ソーシャルインパクトを与えたいと考えているその他個人によって解決されない理由はあるか。

  • 研究分野として、これは新しい領域か、あるいは二つの分野の交差点か。これらの分野は、学界で見過ごされている可能性が高い。(研究トピックの選択について詳しく知る。

  • あなたがその問題に取り組まないなら、他の人が代わりに取り組むということはどれくらいありそうか。

  • あなたがこの問題に取り組んだら、他の問題と比べてどれほど喫緊のものかさらによく知ることができるか。

これらの問いについて考えることによって、あなたは問題の評価において取りこぼしがないことをさらに確信することができます。

規模と見過ごされている度合いをペアで評価することが重要であると注記しておきましょう。私たちが注意を向けるのは究極的にはその二つの比率なので、両方の尺度で同じ問題を評価していることに注意する必要があります。それぞれの尺度で異なる問題の定義を用いると、結果が狂ってしまいます。。

ある問題にいくつかの異なる種類の入力があるなら、最も低いスコアを示す列を参照しましょう。それが全資源のほとんどがある場所ということになります。例えば、ある問題に年間100億ドルの資金が投資され、1000人のフルタイムの人員がそれに取り組んでいるなら、資金の方を参照しましょう。そのスコアは6ではなく2になります。

結局のところ、私たちは見過ごされている度合いに高すぎるスコアを付けるつもりはないということです。たいてい、目立たない問題であっても、それに注意を向けるグループは世界に存在しますし、単に私たちが知らないだけかもしれません。それゆえ、そうでないことを示す包括的な研究を済ませない限り、その問題には少なくとも100万ドルが向けられていると仮定します。

問題の解決可能性を評価する方法

定義

この問題への直接的努力を倍にしたとき、残りの問題の何割がが解決することが期待されるでしょうか。

なぜそれが重要なのか

ある問題がきわめて重要でかつかなり見過ごされているとしても、それが注力すべき重要な課題領域とは限りません。それについて私たちができることはとても少ないかもしれないからです。

例えば、老化は規模で見ると大きな問題です。世界の健康障害のほぼ3分の2は、老化によって何らかの形で引き起こされたものです。また、この問題はかなり見過ごされています。身体的な老化の原因を防止する試みに焦点を当てる研究機関の数は(老化が引き起こす症候群、つまりがんや心臓発作、アルツハイマーなどを扱うものに比べると)ごくわずかです。にもかかわらず、それが見過ごされている理由の一つは、多くの科学者がその解決が難しいと考えているためであり、これが今すぐこの問題に直ちに取り組むことに反対する大きな理由です(しかしこの欠点を上回るに十分な利点があるとも言えます)。

評価の方法

私たちはこの表を用います。 

私たちの考える大まかなやり方は次のようなものがあります。

  • その問題における進展をもたらす、厳密な証拠を伴うような費用対効果の高い施策はあるか(理想的な証拠は 証拠の階級の上位に位置するものです)。

  • 見込みがあるがその証明はされていない施策で、安価に試せるものはあるか。

  • その進展が可能であるという理論的論証(関連分野におけるよい実績など)はあるか。(例えば私たちはある医学研究が効果的であると事前に証明することはできませんが、その分野は強力な実績を持っており、概算ではとても効果的であることを示唆しています。)

  • うまくいく可能性が低くても、その問題の解決に大きく貢献できるような施策はあるか。

一般に、私たちはその問題に進展をもたらす最良の施策を探し、そしてそれらを(i)潜在的プラス面と(ii)プラス面の実現可能性に基づいて評価します。そこで私たちは、厳密な試験データから思弁的な議論まで、あらゆる形式の証拠を吟味します。両方の要素を評価するときにはベイズ的アプローチを用います。私たちの初期仮説は、介入はあまり効果的ではないというもので、、証拠の強さに基づいてそれをアップデートします(例はこちら)。この種の推定についてより詳しくはこちらを読んでください。

評価における課題

問題の解決可能性は三要素の中で評価するのが最も困難です。なぜなら、単に現在ある物事を測定するのではなく、未来を予測する必要があるからです。

解決可能性は、ある領域に現に存在する技術の費用対効果に基づいて評価できる場合もあります。例えば、グローバルヘルスにおける施策への投資を増やしたときにどれだけ多くの命が救えるかはHIVやマラリア、結核などの問題に取り組んできた過去の経験に基づいてあたりをつけることができます。

そうでない場合、すなわち、問題解決に新しい技術が必要である場合、解決可能性のスコアは、私たちの判断に基づいてつけられることが普通ですが、専門家の意見に基づくことが理想的です。

問題解決のアプローチには漸進的に効果をもたらすもの(例:マラリアを持つ蚊に刺されることを防ぐ蚊帳の配布)と、問題を一挙に解決するチャンスをもたらすもの(例:新しいマラリアワクチンを発明する)があります。スコアをつけるために私たちは「期待値」アプローチを用います。問題全てを解決する確率が10%の場合、その問題を確実に10%を削減するプロジェクトと同じスコアをつけます。(異なる結果に対する「リスク回避」の意味するところは、それらが同じ価値を持つとは限らないということになりますが、「期待値」アプローチがよい近似値を出せることに変わりはありません。)

見過ごされている度合いについて論じたときと同じように、取り組みのほとんどが間接的に行われている(例えば、営利企業が関連する活動をしている)は問題は、「直接的」作業の増加で解決が早くなることはなさそうです。なぜなら、その状況は、多くの見込みあるアプローチは、すでに他のグループによって試みられているからです。

合計スコアの意味すること

健全度チェックのために、各スコアを合計して、ある問題に取り組む人が1人増えることで生じる実際の影響を測定する基準へと変換することもできます。

しかし、これらの値は極めて概算的なものに過ぎず、もっぱらこれらを重視するということはおすすめしません。むしろこのスコアは絶対的な評価ではなく相対的な比較のために用いるのがよいでしょう。

個人的適性を評価する方法

個人的適性は、私たちの問題の定義では査定されませんが、個人の意思決定においては重要です。あなた自身やりがいを感じられない問題領域に踏み込んでも、あなたがインパクトを与えることはほとんどできないでしょう。それぞれの分野において、最も活躍している人は中央値の10から100倍のインパクトをしばしば与えるのです。

異なる問題同士を比較するとき、あなたが取り組むのに適した問題にボーナスとしてスコアを追加することができます。

定義

あなたが持っている技能、資源、知識、人脈、情熱を考慮すると、その領域で活躍できる可能性はどのくらいあるでしょうか。

個人的適性はどう評価できるのか

  • あなたが持っている最も価値あるキャリア資本は何か。それは特にある一つの問題に関連しており、他には関連していないか。

  • その問題に取り組むとして、どれだけやりがいを感じられそうか。

  • 自分がその問題においてどのような特別な役割を果たすことが期待できるか。また、他の人よりも優れたことをなすことが期待できるか。

個人的適性の評価のための入門的アドバイスはこちら。予測の立て方についてさらなる疑問がある場合はこちら

次の表は有用です。

個人的適性の重要度はあなたがどのように貢献しようと考えているかによって変わるということに注意しましょう。偉大な起業家や研究者は平均的な人よりも遥かに大きな影響を与えるので、そのような仕方で貢献することを計画しているなら、個人的適性は重要です。しかしお金を稼いで寄付することによって貢献するなら、個人的適性はそれほど重要ではありません。あなた独自のスキルではなく、お金を送ることになるからです。個人的適性をより深く評価したいなら、その分野におけるあなたのパーセンタイル(全体を100として小さい方から数えて、自分が何番目になるのか)を推定してから、その分野におけるパフォーマンスのばらつき係数をかけることができます。

新しい問題に対する知識や情熱をどの程度まで高めることができるかを過小評価してしまいがちということを心に留めておきましょう。私たちには自分がやってきたことを続けようとするバイアス(埋没費用(サンクコスト)の誤謬)があり、自分の好みや情熱がどれだけ変わるかを過小評価してしまうのです。

最後に、一つの問題に複数のやり方で取り組むことができることを覚えておきましょう。グローバルヘルスに取り組むとき、発展途上の国々の土地を耕しても、生物医学研究を指揮しても、政治分野へ行ってもよいし、他にも多くの選択肢があります。ある選択肢が自分に合わなければ、別の選択肢があるかもしれません。

キャリア機会を比較する他の要素

ある仕事に就くべきか、すべて考慮した上で結論を出すには、私たちの キャリアの枠組みにおける他の要素についても考慮する必要があります。それは次のようなものです。

  1. どの程度の影響力のある役職に就けるか

  2. どれだけのキャリア資本を手に入れられるか

  3. その選択肢に取り組むことで得られる情報の価値

本記事では、問題領域同士の比較しか取り扱っていませんが、それだけが重要であるわけではありません。

算出結果をどのように解釈すべきか

上記の表を使って、それらのスコアを足し合わせれば、どの問題に取り組むことがより効果的かについて大まかな答えを得ることができます(原注2)。ただしそれらのスコアはそれぞれ厳密に測ったものではないので、不正確であり、合算すると不確実性はさらにますということは心に留めておきましょう。つまり、最終的な合計値は話半分程度の気持ち──あるいは話ごくわずか程度の気持ち──で受け止める必要があるということです。

80,000 Hoursでは、二つの問題のスコアの違いが4以上であるなら、一方が取り組むのにより効果的な問題であるとそれなりの確信が持てます。その違いが3以下なら、それらはほぼ同じだけの重要性を持つと思われます。

この枠組みを用いたときに得られるスコアは、それに取り組むことで他の問題より1万倍効果的であるような問題があることを示唆します。しかし私たちはその違いが実際にそこまで大きいとは考えません。第一に、それらのスコアは世界についての常識的判断によって調整されなければいけません。ある問題へのスコアが高すぎるように思われるなら、単にどこかで間違えた可能性があるので真に受けないようにしましょう。第二に、未来はそれなりに予測不可能なので、喫緊ではないように思われる問題に取り組むことは思いもよらない形でかなり有益であることが後になって分かるかもしれません。それゆえ、ある問題が他の問題よりも大幅に喫緊のものであると結論することは慎重になるべきです。

このような優先順位付けの研究が示すものについて、控えめであるべきその他の理由についてはこちらで議論されています。

難しい判断をするときのヒントとしては私たちのチェックリストも参照してください。

このアプローチは普通の費用対効果分析と比べてどのようなものか

私たちが知りたいのは、「その問題の解決に資源を1単位追加したら、どれだけよいことが実現されるのか」ということです。上述のアプローチは鳥瞰的な視点からその問題の解決のためにさらなる資源を割り当てることはどれだけ重要かを評価しようとしています。

代替的なアプローチは異なる問題に取り組む過去の諸施策の費用対効果に目を向け、それらを直接的に比較することです。例えば、教育あるいは健康を改善するために既知の様々なアプローチについての研究に目を向けて、100万ドルの追加資金援助をした場合に、どのアプローチがより人々を助けることができるかを計算することができます。この種の費用対効果データは利用可能であり、共有された結果についてのものさしはすでにあります。これは賢明なアプローチの一つです。例えば、健康経済学において人々はしばしば異なる施策ごとの「1ドルあたりの質調整生存年数」を計算します。

変換係数ある限り、異なる尺度を使う2つの問題を比較することはできますが、その比較ははるかに不確かなものになります。例えば、健康への施策と気候変動への施策を質調整生存年数1年を二酸化炭素削減量1トンと互いに交換できるものとして定義することによって比較することはできます。上の規模についてのセクションに載せた表は、あるものさしを他のものへと交換する方法について大まかに示しています。

また、あらゆる便益をドルに変換して費用便益分析(コスト ・ベネフィット分析)を行うこともできます。これは費用の便益に対する割合を、いずれもドルで表したものです。

このアプローチを取らない主な理由は、それが次のような場合ではきわめて難しいからです。

  1. 政治的アドボカシー(そこでは働く環境が常に変化する)

  2. 新しい基礎研究(original research)(新しい発見をするのにどれぐらいの時間がかかるか誰も分からない)

  3. いかなる施策も知られていない、あるいは既知の施策があまり研究されていない分野

これらが、私たちが上でどの問題にも適用できる代替的な枠組みを作った理由です。

定量的な問題の優先順位付けのの長所と短所

上記のプロセスによって進めることにはいくつかの長所があります。

  • 結果を明示的に量で表すことで、質的なプロセスでは気づきにくい、大きく確かな違いに気づくことができ、スコープ無反応性を避けることに役立つ。

  • それらの評価を下すプロセスにおいては自分の持っている仮定とそれらが互いにどれだけ整合的かを明示化する必要があるので、それを経ることによって、問題への自分の理解度を測ることができる。

  • 分析を明確に提示することによって他の人も理解でき、自分の分析を批判してもらえる。それはさらに自分がその問題と、それがどれだけ喫緊のものかを理解するのにも役立つ。

しかし、心に留めておくべき大きな短所もあります。

  • 実践においては、このタイプの評価は通常高いレベルの不確実性を含む。つまり、その結果は確固たるものではなく、分析の仮定が異なれば、結論はかなり違ったものになりうる。結果として、本来ならもっと幅広い定性分析や、単純な常識で判断した方が良いところを、不完全なモデルによって判断を誤る危険性があります。これは、私たちが結果のスコアだけで判断しない理由です。私たちはむしろ、全体的な評価を下すときは、問題のプロファイルにおける他の形式の証拠を考慮します。

このトピックについてさらに詳しくは、「クラスター思考(cluster thinking)」と比べた「シーケンス思考(sequence thinking)」(費用対効果分析に大きく依拠したアプローチに相当)の弱点についてのGiveWellの議論を見てください。また、量で示すことの利点と欠点も参考になります。

協働を計算に入れる方法

一個人で同時に取り組める問題はせいぜい一つや二つですが、大きなグループで協力すればいくつもの問題を扱うことができるでしょう。

このとき、問題領域を選ぶために考慮すべき要素が追加されます。そこにおいて最も喫緊の単一の課題を特定することを目指す代わりに、次のことの特定を目的とします。

  1. 諸問題への人員の理想の割り当て方とその割り当てが進むべき方向性

  2. グループの他のメンバーと比べたときの自分の比較優位

私たちはこれを「ポートフォリオ・アプローチ」と呼んでいます。詳しくはこちらを読んでください。

協働を計算に入れることは、どの問題が優先されるべきかについても影響を及ぼすことがあります。例えば、協働する他の人々との妥協点を探し、道徳的取引をするためには、当初の見込みよりも多くの仕事をする価値がある場合があります。詳しくはこちらを読んでください。

結論

以上では、私たちの枠組みにおける諸要素──規模、見過ごされている度合い、解決可能性、個人的適性──によって異なる問題をどのように比較すればよいかについて示しました。

効果を正確に測定することは困難ですが、ある問題に取り組む効果と別の問題に取り組む効果が大きく異なることが分かることはよくあります。このことが示唆するのは、不正確な測定でも、ただ直感に頼るよりは有用な指針になりうるということです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?