見出し画像

【キャリアガイド】第4部:良いことをしたい? どの分野に注力すべきかを決める方法について

こちらは “Want to do good? Here’s how to choose an area to focus on.”の日本語訳です。[1]

もしあなたが自分のキャリアの中で人の役に立ちたいと思うならば、まずはグローバルな問題のうちどれが最も重要視されるべきものであるかを考えてみるのがよいでしょう。 取り組むべきは教育、気候変動、貧困、あるいは何でしょうか?

あなたが最も興味のある問題に取り組みなさいというのがよくあるアドバイスですが、結局ほとんどの人は自分の目に最初にとまった社会問題に取り組んでいます。

19才にて気候変動に最も強い興味を持っていた我々の同志、ベンもまさにこれを実行しました。 これは抗議活動に参加しているベンをおさめた素晴らしい写真です:

彼は様々な問題について比較検討した上で気候変動の問題を選び注力したわけではありませんでした。 むしろ、気候変動を偶然学んだとき、科学オタクであった彼は科学的な考察対象としてそれに惹かれたのです。ベン自身がそれを認めています。

この方法における問題点は、あまり重要でなかったり、進展させるのが困難な課題に出会って取り組み始めてしまうかもしれないことです。また、すでに大きな注目を集めている問題にほど出会いやすく、その場合は大きなインパクトをもたらすことができません。

では、どうすればそういった過ちを防ぎつつより良い貢献が果たせるでしょうか?

我々は、どの社会課題が最も緊急であるかを自分で考えるための三つの問いを用意しました。これにより、あなたがもたらす追加の一年がより大きなインパクトを生み出すことになるでしょう。

これらの質問は、数十億ドルの資金を拠出する財団であるオープン・フィラントロフィー ,と、オックスフォード大学の研究グループであるGlobal Priorities Institute(これは控えめなネーミングです)による調査を基にしています。

これら三つの問いによって、取り組みうる分野同士を比較したり、あなたが既に特定の分野で活躍している場合はその分野内のどの活動に従事するかを比較検討できるでしょう。

I had 99 problems: 解決しなきゃいけないことが99個あるんだ
So I learned about problem prioritization: だから、それらに優先順位をつける方法を学んだのさ Now I have 100 problems: それで問題が100個に増えたってわけ。
(X kcdより)

読了時間: 12分。
あるいは、短い動画を用意しています。 我々が最も緊急だと考えている問題はどれかについてまず知りたい場合は、次の記事に進んでください。また、フレームワークのもととなった厳密な議論はこちらです。

結論

最も差し迫った問題たちは、以下の特徴を兼ね備えていることが多いでしょう:

  1. 規模が大きい:その問題の規模はどれくらいか? それは現在どれくらい人々の生活に影響を与えているのか? より正確には、それを解決することで長期的にはどれくらいの良い影響が発生するのか?(そのような影響があるとして、とてつもなく先の影響を含む)

  2. 見過ごされている:その問題を解決するためにどれほどの人員や資源が投じられてきたか?現在その問題に対してどれくらい適切に資源が割り当てられているのか?市場や政府によってその問題が上手く解決できていない正当な理由はあるか?

  3. 解決可能:その問題に取り組んで改善をもたらすのはどれくらい難しいか?確固たるエビデンスに基づいた対策や介入がすでにどれくらい存在しているのか?

あなたが取り組むべき問題を見つける上では、あなた自身の適性を考慮する必要があります。その問題に取り組むモチベーションがありますか?キャリアの後半であれば、その問題に関連する専門知識を持っていますか?

我々がどのようにフレームワークを実行しているかは次の記事で確認してください。

1. その問題は規模が大きいか?

我々は、様々な社会問題の重要さを直感、つまり感覚的に大事だと思うことによって量ってしまいがちです。

例えば、2005年のBBCニュースにこのようなものがあります:

原発は数年後にすべて停止する。どうすれば英国の明かりを灯し続けられるだろうか?...使わない間は携帯電話の充電器コンセントから抜こう。

ケンブリッジ大学の物理学教授であるデイビッド・マッケイ氏はこのことにひどく腹を立て、携帯電話のプラグを差しっぱなしにしておくことが実際どれくらい悪いことなのか調べることにしました。詳しい様子はこちらで確認できます。

わかったのは、もし携帯電話の充電器のプラグを差しっぱなしにすることが一切なくなったとしても、イギリスが節約できる電力は個人による電力使用のせいぜい0.01%ということです(しかもこれは工業用の電力使用などは除いています)。よって、たとえ完全に成功したとしてもこのBBCのキャンペーンは無意味であり、これに関してマッケイは「茶こしでタイタニック号を救済しようとするようなものだ」と述べています。

代わりに、そのキャンペーンにかかる労力を別のこと(住宅断熱材の設置など)に使えば、気候変動に対して750倍のインパクトをもたらすこともできたはずです。

長年にわたる研究によって、我々は物事の規模の違いを直感的に推し量るのが苦手だとわかっています。例えばある研究によると、石油による汚染から2,000羽の鳥を救うのと200,000羽の鳥を救うのに人々が払っても良いと感じる金額はほぼ同じなのです。後者は客観的に見て100倍良いことをしているのにもかかわらず。これは非常によくみられるバイアスの例であり、スコープ無反応性と呼ばれています。

このスコープ無反応性に引きずられるのを避けるためには、それが非常に難しくとも数字を使った比較が必要です。

前の記事で、 社会インパクトはあなたの行動が他者の生活をより良くする度合いで決まると述べました。この定義に基づくと、ある問題の規模が大きいとは以下のことを指します:

  • 影響を受ける人の数が多い

  • 一人当たりが得られる効果が大きい

  • 問題解決による長期の効果が大きい

ある問題に対する活動の成果はその問題の規模に比例することが多いため、問題の規模は重要です。キャンペーンによって差しっぱなし充電器の問題を10%解決してもその成果はごくわずかである一方で、10%の人々に断熱材を設置するよう説得するキャンペーンを実施すれば、その成果ははるかに大きいと言えます。

もし日常生活で、複数の問題のうちどちらが相対的により重要かについてほとんど考えなかったとしたら。
Holy crap susie, we’re out of coriander!: スージー大変だ、コリアンダー(香辛料)がもうない!

2. その問題は見過ごされているか?

以前の記事で、米国と英国の医療は比較的人がよく集まっている問題であることを扱いました。米国にはすでに85万人以上の医師がおり医療費支出も高いため、医療に携わる人が1人増えても大きな貢献は難しいでしょう。

ところが、貧しい国では医療ははるかに注目を受けておらず、それが原因となってわずか5,000ドル程度で命を救うことができます。

すでに問題に対して向けられている労力が多ければ多いほど、あなたが加わることで有意義な貢献をするのは難しくなります。これは収穫逓減が原因です。

たとえば木の上の果実を取るとき、手が届きやすいもの、つまり低い場所にある果実から始めるでしょう。最初は楽ですが、それらを取り尽くしてしまうと、一つの果実をとるのにかかる労力はどんどん大きくなっていきます。

社会的インパクトも同様で、ある問題に取り組む人がほとんどいない段階では、一人の行動によって前進を遂げる機会がたくさんあるのが普通でしょう。ところがその分野でより多くの仕事が行われるようになると、独創的で大きなインパクトを与えることが難しくなっていきます。それは以下の状況です:

限界効用の逓減:経済学の超入門。 労力・インパクト

あなたの友人が話題にしているもの、取り組みたいと思っているものは、きまって他のみんなもすでに注目している社会問題です。このときそれらは見過ごされている問題ではなく、そしておそらく最も緊急でもないでしょう。

むしろ、最も緊急性が高い問題—あなたが最も大きなインパクトをもたらせるもの— は、あなたが取り組もうなどと思ったことも無いような領域である可能性が高いです。

癌との闘いについては誰もが知っていますが、寄生虫についてはどうでしょう?チャリティ・ビデオをつくるには不向きですが、世界中で10億人もの人々がこれらの小さな生き物に感染して熱帯病に苦しんでいます。ですがこれらの熱帯病は見過ごされています。 癌よりもはるかに治療が簡単であるにもかかわらず、お金持ちにはほとんど関係のない話なので、私たちは耳にすることすらありません。

つまり、流行を追いかけるのではなく、他の人々がごっそり見落としている問題を探すのです!つまり、以下の項目を考えましょう。

  1. その問題は「見過ごされている集団」、例えば私たちから遠い場所にいる人たちや人間以外の動物、あるいは将来世代に影響しているか?

  2. その問題は起こる確率が低いがゆえに見過ごされていないか?

  3. その問題について知っている人はほとんどいないのではないか?

これらに沿って行動するのは見かけよりも難しいでしょう。なぜならそれは大衆から距離をおき、ときには少し変に見えるような行動だからです。

たしかに、それは本当に見過ごされている問題ですね。でも、見過ごされているものだけをただ考えれば良いというわけではありません。

3. その問題は解決可能だろうか?

スケアード・ストレイトは、軽犯罪を犯した子供たちを刑務所に連れて行き、有罪判決を受けた犯罪者たちに会わせることで、改心しなければ将来どうなってしまうのかを見せつける番組です。このコンセプトは社会的プログラムとしてだけでなくエンターテインメントとしても人気を集め、優れたドキュメンタリー、あるいはA&Eでのテレビ番組として受け入れられた上、初放送時には視聴率記録を塗り替えました

しかし、スケアード・ストレイトには一つ問題があります。おそらくこのプログラムは、若者たちが犯罪に手を染めることを促進してしまうのです。

より正確に言うと、プログラムを受けた若者の犯罪件数は以前より減っているため表面上は効果があるように思えるのですが、その減少幅は、プログラムを受けなかった若者と比べると小さかったのです。

この悪影響は非常に大きく、ワシントン州公共政策研究所は、スケアード・ストレートに費やされた1ドルがもたらす社会的損害の大きさは200ドルにものぼると見積もっています。 これはやや悲観的過ぎるようにも思えますが、どちらにせよプログラムが大きな失敗であったことに変わりはありません。

なぜこのような結果になったのかはわかりませんが、若者たちが刑務所での生活が思ったほど悪くないと感じたのか、あるいは犯罪者に憧れるようになったのかもしれません。

スケアード・ストレートのように、良い効果をもたらすための活動が逆効果になることがあるのです。良いインパクトを与えられずに終わってしまうものも多いでしょう。Coalition for Evidence Based Policy(証拠に基づく政策連合)のデビッド・アンダーソン氏による見積もりでは、

専門家の意見、あるいは必ずしも厳密でない研究に裏打ちされたものも含めた(社会的プログラムの)うちほとんど(おそらく75%以上)は、厳密に評価のもとでは効果が小さいか、まったくないとわかったのです。

つまり、エビデンスを見ずに慈善団体を選んで参加すると、多くの場合はまったく良い影響を与えずに終わる可能性が高いでしょう。

残念なことに、どのプログラムが効果的なのかを事前に見極めることは非常に難しいです。そんなわけない?そう思うなら、以下の10問のクイズに答えて、何が効果的なのか当てられるかを試してみて下さい:

クイズに挑戦してみましょう

どの社会的介入が効果的か、あるいはそうでないかを考えてみて下さい。すでに何百人もがこのテストに挑戦しましたが、偶然とほぼ変わらない正答率にとどまっています。

では、取り組むべき社会問題を選ぶ前に考えてみてください:

  1. 厳密な証拠に基づいてこの問題を解決に向けて前進させる方法はあるのだろうか?例えば、蚊帳によってマラリアを効果的に予防できることは、多くの研究によって示されている。

  2. あるいは、問題の解決に役立ちそうで有望だが実証されていないプログラムを検証し、本当に効果があるかどうかを調べる方法はないだろうか?

  3. この問題を解決することで、たとえ小さな可能性であっても大きな好影響を与える可能性が生まれるだろうか?例えば、より良い政策によって壊滅的なパンデミックを食い止めることがこれにあたる。

もしこれら全ての問いに対する答えがノーなら、他の手を探す方がよいでしょう。

(ほとんどの社会プログラムが無意味だと本当に言えるのでしょうか?関連する資料)

スケアード・プログラムは軽犯罪を犯した少年少女に牢獄での生活を見せ、こんな生活は嫌だと思わせて彼らを犯罪から遠のけようとしました。ところが、実際はただ彼らが犯罪を犯す可能性を高めてしまったのです。画像提供:スケアード・ストレートを提供するA&ETV

それぞれの項目のバランスを心がけましょう

以上の三項目全てについて完璧に当てはまる問題を見つけるのはきっと難しいでしょう。よって、どれもほどよくあてはまるものを探しましょう。解決するのが難しめでも、とてつもなく規模が大きい上かなり見過ごされているのなら、その問題は取り組む価値があると言えるでしょう。

ここで紹介したフレームワークについて最大限に知りたい場合はより詳しい記事を読んでみてください。異なる領域間を比較する方法が述べられています。

あなた自身の適性と専門知識

あなたに向いている役割や仕事をいっさい見つけられないような問題に取り組んでも仕方ありません。それでは満足を得たり大きな業績を残すことは難しいでしょう。

つまり、規模が大きく、見過ごされており、解決可能な問題を見つけられれば素晴らしいですが、その上で、自分に合った特定の役割も見つける必要があります。

これから述べるように、個人的な適性は非常に重要です。一般的にはそれほど緊急でないと思われる分野であっても、あなたに適性があるのならばその問題に集中した方が良い場合が多いのです。

キャリアの初期段階では、将来どんな問題に取り組みたいかについて漠然と考えていれば十分です。次の2つの記事で取り上げますが、自分の得意分野を探し、役に立つと思われるスキルを身につけることに注力すべきなのです。そうすれば、いずれは学んだことを使って、その時に最も差し迫った問題に取り組むことができるでしょう。

もしあなたがすでに特定のスキルを持っているのなら、それを活用して重要な問題に取り組む方法をしっかりと考えるべきです。 例えば、卓越した経済学者が生物学者になるのは良い判断だとは言えません。そうではなく、自分が最も緊急だと思う問題に経済学を応用する方法があるはずです。上記の枠組みを使って、取り組むのに適した関連分野を探せるはずです(開発経済学や雇用政策など)。

結局、この世界で最も緊急な問題は何なのでしょうか?

誰もそれについて話していないが解決可能な、しかも規模が大きい問題は何でしょうか?それについては次の記事で考えます。

休憩


脚注

  1. 本文の注に関しては原文を参照してください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?