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【戦評】毎週水曜日は心のオアシス~8/19○楽天12-2日本ハム

※本稿は全文noteに公開中。最後まで閲覧いただけます。

今週も水曜日がやってきた! 

毎週水曜日はオアシスだ。

心が潤い、満たされた気分で観戦することができる。
長い1週間を乗り切る週半ばに湧いた救済の泉である。

先週金曜日から勝利に見放された楽天が、札幌2日目で投打がっちりかみ合った。12-2は今シーズン6度目の二桁得点、同4度目の二桁大量点差となり、前日今季最多タイ15安打を放ったファイターズを降した。

先発・涌井は8回4安打1失点の快投。
ストレート平均球速145.1キロは、この時期にきて今季最速を計測している。6戦連続のQSをマークし、2013年の田中将大と並ぶ球団史上2人目の開幕8連勝を飾った。防御率も2.21に改善し、パリーグ1位をキープしている。

好調の打線は今季26度目の二桁安打13本。
猛打賞は鈴木、先制打を含む2本のタイムリーを放った田中。

鈴木は9度目を数えてパリーグ1位。ヒット数を72本に伸ばし、2位・柳田らに5本差をつけ、今年は初の最多安打タイトルを窺う。

田中は今季初の3安打だ。前日敗色濃厚の終盤に諦めず1号2ランを放った勢いをこの日につなげた。
2回無死満塁では、同じ姓の田中幸雄さんも「鉄則」と解説した“四球直後の初球”を快打する先制打、3回2死2塁では逆方向に応戦しフェンス直撃の適時ツーベース、3本目は1塁線切れるようで切れない内野安打と、多彩の3安打でアピールしている。

同日、千葉ではロッテとソフトバンクが2-2の引き分け。楽天はロッテと並ぶ2位タイに浮上し、上位3球団のゲーム差はわずかに1.0。残暑厳しい8月後半の優勝戦線は、さらなる混戦に突入している。

チーム成績は52試合28勝22敗2分の貯金6。

各種戦績は、8月9勝6敗1分、直近10試合5勝4敗1分(得点52/失点56)、日本ハム戦5勝3敗、ビジター11勝11敗1分、先制した試合20勝9敗1分になった。

ゲーム差は1位・ソフトバンクと1.0、4位・日本ハムと3.0、5位・西武と5.0、6位・オリックスと12.0で推移している。

◎両軍のスタメン

楽天=1番・小深田(二)、2番・鈴木(三)、3番・茂木(遊)、4番・浅村(指)、5番・島内(左)、6番・内田(一)、7番・田中(右)、8番・太田(捕)、9番・辰己(中)、先発・涌井(右投)

日本ハム=1番・西川(中)、2番・渡邉(二)、3番・近藤(左)、4番・中田(一)、5番・大田(右)、6番・王柏融(指)、7番・横尾(三)、8番・宇佐見(捕)、9番・中島(遊)、先発・杉浦(右投)

◎試合展開

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予想した投手戦は、想像以上の快勝に!

それにしても予想を上回る素晴らしい結果だ。

試合前、涌井と杉浦の被OPSは.561、ちょうど並んでいた。

両右腕はともに素晴らしいストレートの所持者だ。

涌井は前年からストレートの球速がアップした。打者が真っすぐをスイングしても54.4%がファウルになり、前へ飛んでいかない球威を有する。

参考までに下記に他投手の数字を出したが、この54.4%は2013年の田中や2018年の岸、2017年楽天キラーだった菊池雄星すら上回る好値なのだ。プロ16年目ながら進化したベテランの真っすぐの“力強さ”を証明するデータだと思う。

2020年 涌井秀章 54.4%
2017年 岸孝之 50.6% パリーグ最優秀防御率
2013年 田中将大 49.6% 歴史的24勝0敗
2017年 楽天戦での菊池雄星 48.7% 楽天戦8勝0敗
2020年 則本昂大 42.6%

一方、杉浦は昨年4/23の初顔合わせ以来、空振り率の高いストレートが楽天打者をホトホト困らせてきた。

今年6/28●E4-6Fまで3試合で対戦し、当該37打数5単打の打率.135。昨年来、楽天打線は真っすぐへの対応力が劇的に改善。しかしそのなかでも、杉浦の真っすぐだけにはなぜか全く対応できず、長打を1本も打つことができなかった。

そういう事情があったから、本戦、僕はロースコアの投手戦を予想した。
しかし杉浦を3回6失点KO、予想を覆す大勝なのだ。

カウントの呪縛を跳ねのけた2回3得点

楽天は2回3得点、3回にも3点を入れて序盤で勝敗を決定づけたが、見どころ大きかったのは2回の先制3得点だ。

楽天側からみれば集中力を持って戦うことのできた攻撃。
敵軍サイドからすれば、もったいない攻防になった。

先頭・浅村の二安はバットの先、投手頭上を越える詰まったバウンドだった。これを2塁ベース付近で処理に入った遊撃・中島卓が焦ったかグラブ空振りし、バックアップした渡邉の1塁送球も間に合わなかったもの。普通に処理していれば遊ゴになるはずの守備ミスだった。

無死1塁、島内はフルカウントから死球。
147キロ速球が島内の右足裏に当たった。

投げる直前、宇佐見のサインに4度首を振り、自ら投げたい球を投げ込んだ投球だった。それなのにひっかけてぶつけてしまったのだ。案の定、これを機に杉内の投球が崩れていく。

無死2,1塁、6試合ぶりスタメンになった内田。
今季からアゴにヒゲを蓄え始めた“浅村譲り”が「プロ初の大仕事」をしてのけたのだ!

初球真っすぐをビッグスイングで空振り。
2球目を膝元ズバッと決められて見逃しストライク。
わずか2球で早々に追い込まれた圧倒的不利の打席だった。

しかし、見せ場はここからだった。

内角厳しい真っすぐを見きわめ、外角低めボールゾーンに誘うスライダーを2球連続で我慢。0-2から3-2までカウントを戻していく。

内田を歩かせれば無死満塁になってしまうため、杉内はゾーンで勝負せざるをえなくなった。3-2から力でねじ伏せにきたゾーンの146キロを2球連続でファウルで粘って応戦すると、最後8球目148キロは力んだのか低めに外れ1塁へ、内田は無死満塁を作る四球をもぎ取った。

0-2経由から四球を引き出す作業は、本当にウルトラCなのだ。
たとえば今季の楽天打者で0-2経由から四球を獲得したのは、当該304打席わずか3.0%、9打席のみである。

調べてみると、内田の0-2経由四球はプロ初だった。

その後に先制打を弾き返した田中の活躍もさることながら、絶好のお膳立てを整えた内田の四球も見事だった。

この日、楽天は2回3回5回と無死満塁を作り、6回にも無死2,1塁を作った。
合計4イニングで無死で複数走者を塁に置く理想すぎる攻撃をみせて、大敗したカード初戦の嫌な雰囲気を振り払うことに成功。

好印象だったのは、12得点中4点は内野ゴロによる三走生還だった点。
相手内野陣の守備体形次第では、内野ゴロでも得点を入れることができるのだ。

なかでも田中2点先制打直後の2回無死3,1塁、8番・太田の三走生還の遊ゴだ。
これも2球で早々に追い込まれ、1-2からの6球勝負だった。

今季の太田の三振率は26.8%。
約4打席に1度の高い頻度で三振を喫する太田だ。
実際、本戦でも2三振を記録している。

結果球は外角低めフォーク。ともすればバットが空を切ってもおかしくない場面だったのに、しぶとくくらいついた。内田にしろ太田にしろ、カウントの呪縛を跳ねのけたタフなアットバットをみせてくれた。

この試合、楽天打線はこれまで難攻不落だった杉内の真っすぐを攻略。当該9打数4安打、1二塁打、2三振、2四球、1死球、打率.444を記録し、田中の2本目タイムリーが楽天打者が杉内の真っすぐで初めて長打にしたツーベースになった。

ここ最近不振のロメロ完全休養日で純国産打線で臨んだが、問題なしの爆発力で快勝を導いた。これで今季初の2週連続ビジター日程は、4勝3敗1分と白星1つ先行。ぜひこの2週間トータルで貯金を作りたい。

◎涌井秀章 球種別の投球結果

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こやシンを予想するのが楽しい!

8回、打者28人、球数110、被安打4、被本塁打1、奪三振3、与四球1、与死球0、失点1、自責点1。

今季2度目の完投をかけた最終回、マウンド上は宋家豪だった。
少々残念な気持ちもしないでもないが、きわめて真っ当な判断だ。

今後も重要な戦いが続くなかで好投を期待するなら、大量点差のついた9回にあえて球数を投げる必要はなかった。それに宋は8/13○E7-4L以来のマウンド、登板間隔が空いていた。

1球1球に意図があり、たまにある逆球や抜け球も文脈や物語の一部に回収してしまう涌井の好投劇。

最近、僕の楽しみは「こやシン」の予想だ。

ここはシンカーだろう!ここでシンカーだ!と配球を予想するのが楽しい。
太田がミットをストライクゾーン真中近辺に大胆に構えたときは(たまにチェンジアップのときもあるが)だいたいが「こやシン」だ。

今やこの新球種は全体の10%を越えてくるほど重要な球種になっている。当該被打率も.087、わずかヒット2本しか許していない。

当該ゴロ率も60.0%と高く、ストライクゾーンにあえて甘く投げ込み、打者にストレートだと思わせてがっつかせ、バットを振ったら手元で鋭く変化して芯を外し、イージーなゴロを量産する。その絶妙な匙加減が見ていて飽きない。

こやシン併殺斬りに中軸ワンツースリー

2回表に3点先制の援護をもらえば、今の涌井なら問題なし。

しかしあえて勝負どころを上げるなら、3点先制直後の2回裏だろう。

回先頭の被出塁率.172と先頭打者を出さない涌井が、味方先制劇直後、前日3安打の5番・大田に高め釣り球をセンター返しされ、無死1塁を招いていた。

続く打者は王柏融だ。

今季は開幕1軍も極度のスランプで7/26に2軍落ち。しかし約1ヵ月足らずのファームでは打率.684と驚異のアベレージを残して、昨日1軍に再び上がってきた。

そんな台湾4割打者を初球ファウル、2球空振り。チェンジアップ連投で0-2に追い込むと、2-2からの7球勝負は「こやシン」。思惑どおりの3-3-6のゲッツーを打たせることに成功する。

左打者からすればチェンジアップも「こやシン」も外へ逃げながら沈んでいく球種だ。しかし実際には異なるのだろう。球速も「こやシン」のほうが速い。このときのシンカーは外へ容赦なく鋭く変化したのが、映像でも確認できる。キレ味は抜群だった。

日本ハムは4回表から二番手・福田。このプロ2年目左腕が楽天の左打者3人をわずか10球で片付けた。テンポ良い投球は自軍に流れを呼び込もうとするかのようだった。

その直後の4回裏、ファイターズは3番・近藤から始まる中軸対決。
3回には西川の2号ソロで1点返され6-1になっていた。

もしここで複数失点すれば、戦況も変わる恐れがあった。
しかし、そんな心配は杞憂、涌井も10球のワンツースリー。

注目は4番・中田との4球勝負だ。

この日、涌井の最速は149キロ。合計3球で計測した。
涌井もここが勝負どころと判断したのだろう。
そのうち2球を中田との勝負で使用。

結果球の外角低めも149キロのストレート。
中田に右翼ウォーニングゾーンまで飛ばされたが、柵越えせず塀際失速し右飛に終わったのは、涌井のストレートに球威がある証拠だ。

先週はOPS1.506で4発を量産、前日も一発放った好調レベチの中田だ。
その中田のバットを押し込んだのは「素晴らしい制球力」x「球速アップした復活ストレート」による賜物。今季の涌井を象徴する1コマになっている。

もう1つ、身体が良く動けているのも、開幕8連勝の原動力だろう。

目を見張ったのは、6回1死の西川一ゴだ。

1塁ベースカバーに入った涌井は俊足西川との競争になったが、鼻差で制して1塁を踏んだ。驚くほどの機敏プレーをみせてくれたのだった。【終】

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