1年経った今改めて振り返る、鈴木奈々「行きます!」事件
※本稿は全文note公開中。最後までお楽しみいただけます。
「今日は何の日?」4月27日編
楽天イーグルスの「今日は何の日?」。今日4月27日は、テレビ朝日・林修先生の「ことば検定」によれば、古代ギリシアの哲学者ソクラテスが死刑のため毒を飲んで亡くなった日なのだそうだ(紀元前399年)。
日本では「経営の神様」松下幸之助の命日(1989年)。司会者・アナウンサーの宮根誠司(1963年)、くるりの岸田繁(1976年)の誕生日であり、日向坂46の松田好花生誕祭(1999年)、楽天では2015年に在籍した育成捕手アレハンドロ・セゴビアの30歳誕生日になっている。
◎楽天イーグルスの4月27日戦績
そんな4月27日の戦績は2勝6敗。主なトピックは、現在は関西地区のスカウトを務める愛敬尚史が、プロ初先発で先発初勝利を挙げた日になる。
2013年には新人の則本昂大が7回1失点の好投をみせると、打線は嶋基宏の先制決勝3ランなどで岸孝之を早々にKO、球団通算500勝を飾った日だ。翌2014年はユーキリスが左足底筋腱炎で登録抹消。この後、治療を言い訳にアメリカへ帰国した助っ人は、そのまま帰ってこなかった。
投げそうで投げない始球式
しかし、4月27日で最も印象に残るできごとは、昨年の4月27日、楽天生命パークのロッテ戦デーゲームで発生した『鈴木奈々事件』の一択に尽きる。
始球式に臨んだタレント・鈴木奈々がマウンド上で「行きまーす!」を6回連呼しながらも一向に投げず、場内から「はやくやれー」「やれやれー」「何してんだ、はやくやれよー」の野次が飛び交い、プレイボールを約4分遅延させた事件だ。
本塁後方で見守った楽天のマスコット=スイッチが自らの左手首を何度も指差しながら巻きの進行を促した愛敬あるジェスチャーが記憶に焼き付いたあのハプニングである。
その後、パリーグTVのYoutubeチャンネルに「どこで!? いつ!? どうやって!? 投げそうで投げない始球式」としてアップされた動画は現在110万再生回数を突破する炎上案件になってしまった。
《動画》どこで!? いつ!? どうやって!? 投げそうで投げない始球式
https://www.youtube.com/watch?v=vPWsv7IiQLs
報道によれば、彼女は初の大役で緊張感に襲われたという。運動会や卒業式などの入場行進で緊張のあまり手と足が同時に出てしまうあんな状況に置かれたのかもしれない。ただ、これだけなら、まだあそこまで批判を浴びなかった。
冷雨冷雨、疲労感増すゲーム展開
火に油を注いだのは、当時の気象条件だった。
今日の仙台地方は最高気温17度と予報されているが、昨年は12時時点で気温7度にとどまる大変肌寒い1日だった。そこへ冷雨が追い打ちをかける。ポンチョ姿のまま彼女の独り舞台を理由も分からず見せつけられ、約4分も待ちぼうけをくわされれば、そりゃあフラストレーションも溜まるというものだった。
ゲーム内容も、どっと疲れを増す展開だった。
先発・美馬学は2回までに5失点。序盤の戦況悪化に苦しんだ楽天だが3本の一発攻勢などで反撃し、中盤には試合を振り出しに戻すことに成功する。ところが、9回に松井裕樹が先頭打者四球と自らの暴投も絡み、最後は4番・井上晴哉に決勝打を浴び5-6で惜敗。ネット上でよく揶揄される「追い越せない程度の反撃」になったところも、ファンの怒りを誘った。
美馬はワーストレベルの投球内容
先発・美馬は、この年のワーストに近いレベルの内容。25先発中、1試合5失点以上は4度あったが、そのうちの1つ。その他は、下記のとおりである。
ストライク率60.2% (25試合中でワースト2位)
速球の平均球速140.0km/h (同ワースト)
空振り率4.5% (同ワースト3位)
ゴロ率22.2% (同ワースト2位)
降板後の美馬は「全然勝負できていなかった。(雨中マウンドを)気にし過ぎた」と唇を噛み締めている。
ぬかるんだマウンドに加え、冷雨に打たれて身体が冷えきった影響も大きいだろう。「行きまーす!」詐欺でベンチ前の雨中約4分も待機するはめになったことも、エンジンかからなかった原因になったと言わざるをえない。
大谷翔平を知らない子供たち。キャッチボールを知らない大人たち
ただ、1年経った今改めて振り返ると、国民的娯楽としての野球の地盤沈下を再確認させられる案件だったようにも思う。
グラウンドに飛び出した鈴木奈々はマウンドや2塁ベース方向を指差し「どこから投げるの?!」というジェスチャーを繰り返していた。その投球動作はきわめてぎこちなく、キャッチボールを1度もしたことがないのでは?と思わせるものだった。
始球式のオファーが来てから当日まで、どこから投げるのか?も含めて事前練習を怠ったのかもしれない。仮に練習したとしても付け焼刃程度なら、極度の緊張感で頭真っ白になったときには意味をなさない。
ともかく(当時)30歳の彼女の人生において、野球は日常ではなかったと言えそうで、台湾の始球式のようにセンター方向へ投げなかっただけでもマシ。昔は「打ったら三塁に走っていいんですか?」と考える人は黒柳徹子さんぐらいだったが、今ではそう思う大人は確実に増えている。
《動画》台湾のかわいい始球式
https://www.youtube.com/watch?v=Nv5WL1zXR5E
里崎・クロマティ・ビックリマンチョコ世代が子供の頃は、毎日のように巨人戦のTV中継があった。しかし、今では日本テレビの巨人戦中継は年間20試合にも満たない。全国ネットでの放送はさらに少なく数試合どまりである。一方でプロ野球の観客動員数は好調を記録する。
この怪現象はプロ野球が全国津々浦々の老若男女が楽しめるナショナルパスタイムスポーツとしてのステータスを捨ててタコツボスポーツへの道を選択した・せざるをえなかった「なれの果て」だと思う。その結果、今や草野球の経験すらなく、大谷翔平よりもヒカキンに憧れる子供たちが続出しているのだ。
勝者はサンドウィッチマン?!
話を戻そう。この事件を上手いこと笑いに回収してみせたのは、お笑い芸人のサンドウィッチマンだった。
今や地上波で観ない日はないお二人は、約3ヵ月後の8月6日、ウェルファムフーズ森林どりスタジアム泉のマウンドに立っていた。
この日開催された楽天vsDeNAの2軍戦の始球式に呼ばれたお二人は、伊達さんがマイクパフォーマンス、投球は富澤さん。
富澤さんが投げる直前、「今から2分ぐらい鈴木奈々みたいに時間を・・・」と言いかけた伊達さんのマイクパフォーマンスに、場内が笑いに包まれた和やかな始球式になった。【終】
《動画》【ファーム】サンドウィッチマンの2人が始球式に登場!! 2019/8/6 E-DB(ファーム)
https://tv.pacificleague.jp/vod/pc/topics/opening_ceremony/36888
読者の皆さんにいただいたサポートで、さらなる良い記事作りができるよう、心がけていきます。