これぞ松坂世代のID野球。shibakawaが選ぶ、平石監督の名采配

※本稿は全文公開します。最後までお楽しみいただけます。

三木楽天、倉敷で本格始動

新たな1軍指揮官に三木肇2軍監督を迎えた楽天の秋季キャンプが、故・星野仙一副会長の故郷・倉敷で始まった。

期間は10月30日から11月14日までの約2週間。紅白戦に加え、10日(日)にはシティライト岡山と、13日(水)にはJFE西日本との練習試合も予定されている。野村克也監督直伝の三木流「考える野球」を、チームに浸透させる絶好の機会になりそうだ。

バッテリー中心の「守りの野球」に、走塁意識や小技など「細かな野球」の徹底を掲げる三木監督の独自色は、倉敷初日から現れた。

実戦さながらの試合状況を設定し、打者、走者、守備陣にまでかなり細かな指示を出す作戦練習、ケース打撃が実施されたようだ。日刊スポーツの報道によれば「四球を選ぶケースでボール球を打った打者に打ち直しを命じる」場面もあったというから驚かされる。

平石監督がみせた松坂世代のID野球

今や「考える野球」と言えば、楽天では三木監督の専売特許の感がある。しかし、平石洋介前監督も野村監督のもとで4年間プレーし、「ノムラの教え」の受講生だった。

そんな松坂世代初の指揮官がみせた平石流ID野球の名采配。shibakawaが選ぶベストタクトは、楽天が3-2で勝利した5月24日オリックス戦(楽天生命パーク)だ。あの試合、イーグルスは僕の想像を超えていく名場面を作り上げた。

同10回戦は美馬学vs山岡泰輔の東京ガス対決で始まり、ロースコアのまま5回に突入。5回表にオリックスが犠飛で1点を勝ち越して、1-2と追う展開で5回裏、楽天の攻撃を迎えた。

先頭打者は6番・ブラッシュ。ストレートの四球で出塁した。直近1ヵ月で11本の一発を量産する鷲の新外国人に、勝ち越し直後に一発であっさり同点にされるリスクを警戒したのだろう。この日3ボールが1度もなかった山岡の制球が突如として乱れた。

無死1塁で打席には7番・辰己涼介。この場面が、僕が選ぶ平石監督のNo.1采配だ。

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完全に送りバント作戦の場面だった。

投手はエース格の山岡。今年パリーグで規定投球回をクリアした6人衆の1人で、楽天戦から7勝もあげた好投手である。1イニングで複数得点をあげるのは難しく、欲張らずにまずは同点に追いつくことが肝心と思われた。

後続は8番・小郷裕哉、9番・堀内謙伍。打順は下位にくだっていく状況だったが、ベンチには嶋基宏、山下斐紹、三好匠、渡辺佳明、前のカード5安打の今江年晶、渡辺直人、オコエ瑠偉が控えている。同点のランナーをきっちり得点圏に送り、代打のカードを切る作戦も十分に考えられる場面だった。

また、打者の辰己は前日終了時で打率.209。直近10試合は打率.118とさらに低迷していた。山岡&若月健矢の敵軍バッテリーも、プロに飛び込み、右も左も分からない新人が打撃に四苦八苦している状態だから、当然送ってくるだろうと判断したはずだ。実際、辰己は初球、2球とセーフティバントの構えをみせてきた。

今年、辰己がバントの構えをみせたのは、当方計測で合計60球を数える。バントの構えも2種類あって『あらかじめ構えるとき』と『セーフティバントの構え』。辰己の場合は60球中55球が『セーフティバントの構え』だった。

◎2019年 楽天主要打者のバント構え内訳

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そのため、初球、2球と連続でボールが外れて打者有利2-0カウントになっても、あらかじめ構えていないものの、3球目もセーフティバントの容量で球を転がしてくるはず。僕も完全にそう思い込んだし、ベンチやバッテリー、守備陣まで敵軍全員タカをくくった。

3球目のコースこそ、山岡の完全なる油断を象徴している。

若月が構えたミットはアウトコース。しかし、どうせバントだろとタカをくくった山岡は、ボールになってカウントをさらに悪くするのを嫌い、ストライクゾーン真中近辺にストレートを置きにきた。

この甘くて威力のない145キロを、辰己はセーフティバントにいかず、一気呵成に強振して応戦。右中間を破った会心の一撃は、1塁走者・ブラッシュをホームに悠々呼び込む同点三塁打になった。

打者が発展途上の新人選手で、その新人がバントするときはセーフティバントから試みるケースが圧倒的だった点が、この作戦を成功にみちびいたカギになった。

もし打者が銀次や茂木栄五郎なら、かなりの高確率で2-0から打ってくるかもしれないと、相手も警戒したはず。

しかし、2-0になった後、若月はマウンドに行かず淡々と3球目に移行したのは、辰己に対して強攻の警戒を全く取っていなかった何よりの証拠。バントと見せかけて、辰己に積極的に打たせていった強攻作戦は、完全に敵軍の油断を突いた、僕のような鷲ファンの想像を超えた、平石流の「考える野球」「弱者の兵法」になった。【終】

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