見出し画像

【戦評】「相手のペースで投げさせてしまった」敵軍主砲にそう言わしめた、弓削“大一番”の好投~6/23○楽天4-0日本ハム

※本稿は全文noteに公開中。最後までお楽しみいただけます。

投打かみ合った最高の東北開幕戦

「いよいよホーム開幕ですね!」

この日の朝、三木谷オーナーがTwitterに綴ったメッセージは、シンプルながらも万感の想いに溢れていた。

本来なら満員御礼のもと大盛況で行われるはずだった東北開幕戦も、今年は無観客だ。しかし、奪われた日常、離れた距離を取り戻す「第一歩」を、理想の勝ち方で飾ることができた。

戦況は終始、楽天有利に運んだ。

2回、4番・浅村によるチーム1号を口火に、打線が小刻みに点を積み重ねていく。
打線の活況に呼応するように、投手陣も好投した。7回途中無失点の先発・弓削以下、4投手が零封リレーを完成させ東北に白星を届けた。

チームは4-0で今季初の零封勝利を飾り、弓削は今季初勝利。
昨年対戦防御率も1.40と相性良くプロ初完封勝利も記録したファイターズ相手に、期待に応えるみごとなピッチングになった。

打線は開幕戦に続く二桁の11安打だ。

アベック弾になった浅村とロメロは2安打1打点。
下位打線の2年目コンビも活発で、太田、辰己がマルチをマークしている。

開幕カードではゴロを打たされる場面が多く苦しんだ茂木も、この日は左翼線に痛烈な当たり弾き返す好走塁二塁打に、チームに4点目をもたらす左犠邪飛を放ち、主将の面目を保った。

一方、完全かやの外になったのは、内田だ。
調子の上がらない銀次に代わり、今季初のスタメン起用。
しかし、バット8回振って6回空振りしての3三振と、打ち気に逸る姿が色濃かった。

それにしても、同一カード6連戦の初戦を、開幕ダッシュを決める重要な一戦を、理想の試合運びで取ることができたのは大きいと思う。

チーム成績も3勝1敗、ロッテと並んで1位タイを維持している。

◎両軍のスタメン

日本ハム=1番・西川(中)、2番・大田(右)、3番・近藤(左)、4番・中田(一)、5番・渡邉(二)、6番・王柏融(指)、7番・横尾(三)、8番・鶴岡(捕)、9番・中島卓(遊)、先発・マルティネス(右投)

楽天=1番・茂木(遊)、2番・鈴木(三)、3番・ブラッシュ(右)、4番・浅村(二)、5番・島内(左)、6番・ロメロ(指)、7番・内田(一)、8番・大田(捕)、9番・辰己(中)、先発・弓削(左投)

◎試合展開

画像1

ロメロ絶好調

両軍先発の立ち上がり三者凡退ピッチを見れば、投手戦になってもおかしくなかった。

弓削の投球は太田の要求するミットどおりに収まり、ほとんどが低めにコントロール。マルティネスも150キロに迫る速球を軸に力強いピッチングをみせていた。

投手主導で進みそうな雰囲気をガラリと変えたのが、2回の浅村&ロメロの競演弾。野球の華といえる一発の威力は大きく、味方打線に勢いをもたらした。

なかでもロメロに尽きる。

「オリックスにいる頃からいいイメージを持っていたんだ」という楽天生命パークでの1打席目で鮮やかな一発回答。甘く入った半速球を逃すことなく左翼席へ運んだ。

マルティネスに与えたダメージも大きかったに違いない。
浅村の一発だけならまだしも、同じイニングに2本目だ。

昨年は故障に泣き、本戦が630日ぶりの先発マウンドだった。有原と並ぶ「第二のエース」を自認し、意気込んで再出発をはかるゲームプランが狂う決定的な一撃になったはずだ。

それにしても、ロメロが驚くほど絶好調だ。

3回2死3,2塁でまわった2打席目は申告敬遠を受けた。
これで開幕2戦目に続き、はやくも2個目。もちろんパリーグ最多数である。

第4打席では、対応が難しい右のサイドスローからも二塁打を放った。
このとき、外野からの返球を一足先に制する好走塁で2塁を陥れたのだ。

僕が注目するのは、ただ単に打撃好調なだけではないところ。
コンディション自体が絶好調で、例年故障に泣く彼の身体が信じられないほど良く動く。

思い返してほしい。開幕戦では6-4-3のゲッツーコースを1塁全力疾走し併殺崩れをもぎ取る場面があった。

守備での動きも素晴らしい。開幕戦では右中間フェンス直撃コースを必死に背走し最後はフェンス激突のジャンピングキャッチ。

開幕2戦目では長打を単打に変える守備をみせた。1回1死1塁、吉田正が弾き返したライト右への打球。これを懸命にまわりこみフェンス到達を阻止したことで、打者走者の二進を防いだ。

◎ロメロ 試合別 打撃成績

画像2

打率.385はパリーグ3位タイ。
長打4本はパリーグ単独最多数になった。

ロメロの起用では状態管理が最重要になるが、三木監督も了解している。
終盤には小郷と交代させて負担を軽減させたり、ブラッシュとDHの椅子を分け合うなど手を打つ。

韓国プロ野球の二の舞は避けたい

ロメロに限らず今後、怖いのはやっぱり怪我になのだ。

NPBより一足先の5/5に開幕した韓国プロ野球では、開幕後に肉離れなど故障が多発したという。

◎開幕した韓国プロ野球“肉離れ”多発…サムスン落合2軍監督が警鐘「ユニホーム着ると練習期間と感覚違う」(東京中日スポーツ 2020年6月3日11時25分)

里崎智也さんもYoutubeチャンネルで指摘していたが、2週間しかない開幕前の実戦は明らかに少なく、選手は調整不足だと言う。そのなかで開幕して、いきなりの本番モード。アドレナリン噴出している選手は手加減ができないため、どうしても身体に負荷がかかり、思わぬ怪我につながるのだという。

そのあたりは楽天首脳陣も先刻承知。
今後もうまいかじ取りをみせてくれると僕は信じている。

弓削しっかり修正、本領発揮の初白星

6.2回、打者24人、球数93、被安打3、被本塁打0、奪三振6、与四球1、失点0、自責点0

圧巻の好投だった。

開幕ローテ問題で僕が最も懸念していたのが、日本人最身長左腕の“処遇”だった。背番号23を開幕ローテに入れること自体は僕も大賛成。

しかし、前例なき同一カード6連戦の初戦に、東北開幕戦も兼ねる本戦を任せるのはどうなのかな?と、ベテラン涌井の状態が良好だっただけに、疑問を持っていた。

というのは、開幕前の弓削の成績は、かんばしくなかったからだ。
6/2実戦再開後に限ると防御率7.50、投球回を超過する被安打を許し四球も多かった。与四球率は4.50、6/2以降では5.25だった。

◎弓削隼人 開幕前の投手成績

画像3

6/16の2軍戦でも5回4失点と炎上していたため大変心配していたが、この1週間でみごとに修正。東北開幕戦へバッチリ照準を合わせてきたところに、唸らされた。

この日、制球が高いレベルで安定。ストライク率は66.7%を計測。初球ストライク率はさらに高く70.8%、カウント構築も2-0経由は1打席に対し、0-2経由は7打席とストライク先行の組み立てができた。

開幕前に課題の1つに挙げていた両サイドの投げ分けも素晴らしく、この日唯一先頭を出した7回無死1塁では渡邉に内角を意識させながら外からの113キロカーブで空三振に取る場面もあった。

弓削にタイミングをはずされ、狙い球を絞り切れない打者が続出。
その象徴ともいうべきシーンがあったので紹介したい。

4点リードで迎えた6回表・日本ハムの攻撃だ。

6回表はゲーム前半と後半を分けるインターバル直後になる。打順も3巡目4巡目に突入する頃合いで、試合の流れが変わりやすいともされるイニングにあたる。

本戦も相手打順はちょうど3巡目、1番・西川から始まる攻撃になった。

このとき、僕が目を見張ったのは、弓削が西川からポンポンと見逃しストライクを奪い、0-2と早々に追い込んだ姿だった。

敵軍サイドからすれば、4点を追いかける状況だ。ゲームは中盤に差し掛かり打順も1番。ここで反撃しなければ勝機は一気に遠のいていく、そんなシチュエーションのはず。

ところが、西川はのんびりと球を見送り、やすやすと追い込まれた。
待球スタイルの打者だが、ここは狙いを絞りカウント球を応戦していくべき。僕が日本ハムファンなら、そのように臍を噛むシーンになった。

つまり、それだけ打者が狙いを絞りきれていないのだ。頭の中を整理できないまま打席に立っていたことで、弓削が3巡目に記録した見逃しストライクは7個。この数は1巡目とほぼ同数だった。

開幕カードで3戦連続安打、一発も放った4番・中田からを封じたのも大きい。

昨年は対戦打率.167に抑えたが「レベチ」を掲げさらなる覚醒を期す今年の中田は今のところ一味違う。

そんな敵軍主砲に2三振(1四球)と手玉に取り、「カットボール、カーブのコントロールも良かったし、相手のペースで投げさせてしまった」と言わしめた。

中田の言にあるように、この日はカットボールとカーブが冴えた。

この2球種を「カウント構築のカギ」として使用、2ストライク目を取ったカウント球の大半が、じつにこの2球種が占めていた。

(ファーストストライクも重要だが、僕は2ストライク目も大切だと考えている。「追い込む前」と「追い込んだ後」では打者の打撃成績はまるきり違うからだ)

そうそう、開幕前の弓削の課題と言えば、追い込んでからの投球にあった。
2ストライクまではいくが、決め球に精彩を欠き、2ストライク以降の被出塁率が.478だった。

しかし、本戦は当該14打席で許した出塁は2打席のみ。
ファンを満足させる、画竜点睛入るナイスピッチングだ。【終】

こんな感じの楽天に関する試合感想文やコラムをnote/まぐまぐで綴っています。ただいまnoteの新規読者さん、まぐまぐメルマガの新規読者さん、絶賛募集中!!! ご登録は下記からどうぞ!!!


ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

読者の皆さんにいただいたサポートで、さらなる良い記事作りができるよう、心がけていきます。