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【試合評】早川隆久を追い詰めたオリックス打線の積極性~4/4●楽天0-4オリックス

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対照的にみえた両軍のプレー

試合開始時、楽天生命パークは雨雲に覆われ、スタンド内のお客さんはポンチョ姿だった。天気予報よりも前倒しで降り始めた雨のなか、両軍はじつに対照的なパフォーマンスをみせた。

楽天先発の早川はプロ初登板とは違い、3回まで毎回ランナーを出す投球。
ピンチも2回、3回、6回と合計3イニングで招く内容だった。

いっぽう、オリックスの宮城は初回こそ得点圏に走者を置いたが、4番・浅村を5-4-3の併殺打に退けると、翌2回以降は波に乗り、わずか1安打に抑える大胆な快投をみせつけた。

打線は?というと、楽天打者は球を見るケースが目立ったのに対し、オリックスの打者はプレイボールと同時に、早川の1stストライクから積極的にバットを振る戦いを展開した。

結局、勝敗を分けた要因の1つは、両軍が講じた相手先発攻略プランの差にあったように思う。

楽天打線はハマらず、敵軍は鮮やかに決まった。

オリックス打線のアグレッシブさが、4球団競合ドラ1の出鼻をくじき、イキのいい高卒2年目の快投を引き出した部分は大いにあったのでは?と感じた。

◎試合展開

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◎両軍のスタメン
オリックス=1番・太田(二)、2番・佐野皓(右)、3番・吉田正(左)、4番・ジョーンズ(指)、5番・モヤ(一)、6番・中川圭(中)、7番・紅林(三)、8番・伏見(捕)、9番・安達(遊)、先発・宮城(左投)

楽天=1番・辰己(中)、2番・小深田(遊)、3番・島内(左)、4番・浅村(二)、5番・茂木(三)、6番・鈴木大(一)、7番・横尾(指)、8番・渡邉佳(右)、9番・太田(捕)、先発・早川(左投)

早川を追い詰めたオリックス打線の圧力

早川の立ち上がりを改めて振り返ってみよう。

1番・太田にはフルカウントから右前へ弾き返されたが、2番・佐野皓は3球三振。3番・吉田正を2球で左飛に退け、4番・ジョーンズは初球をひっかけさせての遊ゴ。

走者を1塁にくぎ付けにしたままで後続を断ち、立ち上がりを14球でまとめるゼロ発進だった。

しかし、ここで僕が注目したのは、14球中、相手打者がバットをスイングしてきた回数が12球にも及んだという事実である。

初回から恐れを知らずガンガン振ってくる姿に──マウンド上の早川がどう感じたかは分からないが──中継映像を見守る僕を落ち着かせず、相当の圧で襲いかかってきた。バットを振られれば振られるほど、何かが起こってしまうからだ。

連打で無死2,1塁を招いた翌2回も、早川13球のうち敵軍は8球で応戦している。2回までのオリックスのスイング率は74.1%にもおよんだ。

いっぽう、宮城と対峙した楽天打線はどうだったか。初回17球のうちスイングは4球、2回は15球で8球。2回までのスイング率は37.5%。対戦相手の半分にとどまった。

結局、早川が見逃しストライクを初めて記録したのは、2回無死1塁の中川圭との対決で、この日の18球目を数えていた。そこまで最も安全なかたちでストライクを取ることができなかったのだ。

4球団競合のドラ1は制球がすこぶる優れている。

大学通算の与四死球率は2.66と少なく、大学4年秋に限って言えば1.77だった。開幕前の実戦では17回を投げて2四球のみ。それでいて奪三振を18個も記録していた。

オリックスのスコアラーや打撃コーチは、ストライクゾーンに積極的に投げ込んでくる早川の投球スタイルや、こういうデータを踏まえて、追い込まれる前のカウント球を1stストライクから積極的に打って出る作戦を採用したのだろう。

早川は初回、2回とゼロに抑えたものの、僕は心中で嫌な予感を覚えていた。そしてこの序盤2回までの敵軍攻撃は、3回の2得点を生み出していく。

◎早川隆久 球種別の投球結果

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6回2失点の伏線を担った早川初被弾

3回は1死後、1番・太田に左中二を許した。

太田は1打席目8球勝負の5球でバットを振り、2打席目は5球全球でスイングした。バットを振ること合計10球目で太田はツーベースを弾き返していた。

バットを振ることでしか得られない情報は、たくさんあると思う。球の軌道や球威・切れ、投手とのタイミングの微調整、自身のスイング軌道の確認などだ。

この日の早川はストライクゾーンに球を集めすぎ、太田にバットを振ることで得られる数多の情報と修正機会を与えてしまった。太田のカウントは0-2とまだボール球が使える状況だっただけに、じつにもったいなかった。

この後、吉田正に1-0からの内角速球を右翼スタンドへかっ飛ばされ、プロ初被弾を味わうことになったのだが、このホームランが6回2失点劇の駆け引きのなかの伏線になった。

2点ビハインドの6回は、先頭・佐野皓に追い込んでからの低め絶妙のチェンジアップを上手いことひろわれて左安に。そして無死1塁、吉田正に3打席目がまわった。

1打席目は外の真っ直ぐに合わせてフェンス際まで飛ばす左飛。
2打席目は内角ストレートを一閃して問答無用の右越え2ラン。

となると、3打席目の初球の入りは、大飛球を2本作られたリスクあるストレートはない。必ず変化球で入ってくる。こういう読みが成り立つ。

内角球を本塁打にしているので、初球インコースもない。
初球はアウトコースの変化球だろう。

昨季パ首位打者に輝いたリーグを代表する好打者だ。こういう予測は簡単だったはずで、僕には初球外角変化球を狙い撃ちされたようにも見えた。

痛すぎた2点タイムリー

無死2,1塁、ジョーンズはサード正面の併殺コース。

しかし、この打球処理で2回のように3塁踏んでの併殺を狙った茂木が慌てて打球処理にもたついてしまう。結局、1塁送球アウトがせいいっぱいのプレーになり、1死3,2塁を作られてしまった。

この後、早川がモヤに今日2本目のヒットを中前へ弾き返され、3点目と4点目を失ってしまった。

この1本はじつにもったいなかった。

モヤと言えば、昨年の左投手打率は35打数3安打の.086だったのだ。サウスポーに決定的な弱点を抱える外個人に許した悔やまれるヒットになった。

結果球は外角の良いコースに投げ切った変化球。

しかし長いリーチをめいっぱい生かし、バットにひっかけて乗せるような要領で2塁ベース右、前進守備のセカンド左を弾んで中前へ抜けていくヒットになった。

この日の早川はストレートに勢いがないように思われた。
太田もそう感じたのだろう。対戦巡目が進むたびに速球の割合は激減した。

◎早川隆久 対戦巡目の球種内訳
1巡目 速球14、変化球17
2巡目 速球11、変化球29
3巡目 速球2、変化球16 (6回1死3,2塁、モヤの中安)

真っ直ぐが使いにくくなっていたから、緩急が生まれにくくなった。
そんな状況では、それなりに切れのある変化球も、打ちごろの半速球になってしまう。6回はおそらくそういう状況が発生していたのかもしれない。

なお、このとき、内野前進守備を敷かなかったら、浅村は追いついていただろうか。追いついて1塁送球の二ゴにできていたら、三走の生還は許しても4点目は防げたはずだ。

でも、内野前進守備ではなくても、あの打球なら中前へ抜けていったと思う。

というのは、通常の場合、二塁手が1,2塁間を大きく詰めるモヤシフトを敷いたと思うからだ。当然浅村は追いつけず、水切りショットのように外野に抜けていくゴロだったので、2塁すぐ左に位置取りする小深田も難しかっただろう。

◎宮城大弥 球種別の投球結果

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宮城で宮城がみせた快投劇

いずれにせよ、今日の宮城の出来では6回の2点はなくても、オリックスの勝利だった。それほど才気煥発に溢れた投球だった。

ライターの氏原英明さんは、ハイボールを生かしピッチトンネルを構成した投球が、楽天打線を悩ませたとみている。

付け加えて、下記のように、宮城&伏見の敵軍バッテリーは、1巡目はストレートとスライダーで組み立て、2巡目以降に95キロも記録したカーブを大胆に混ぜた。

◎宮城大弥 対戦巡目の球種内訳
1巡目・・・・・ストレート18、スライダー16、カーブ4
2巡目・・・・・ストレート16、スライダー8、チェンジアップ4、カーブ8
3・4巡目・・・ストレート12、スライダー10、カーブ8

そしてこのカーブ20球は、そのうち10球が2ストライク以降に使用されていた。つまり、勝負球としても機能していた。

この日はわずかしか投げなかったチェンジアップも、要所での絶妙な隠し味になった。

4回2死満塁、一打出れば楽天が同点に追いつくという場面、横尾を0-2から二ゴに仕留めた外角低め勝負球は、このチェンジアップだった。横尾は真っ直ぐだと判断してカットするためバットを出したが、そこから球は逃げていき、バットの先に当たる二ゴになってしまった。【終】

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