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富山県内におけるハシブトガラスとハシボソガラスの分布要因

富山県を含む本州に一年中いるカラスはハシブトガラスとハシボソガラスです。あと山に行けばミヤマガラス、カラスとは名前が付かないけどカケスやオナガ、冬になるとミヤマガラス、ワタリガラス、コクマルガラスなどが渡ってきますが、一般にカラスというとハシブトとハシボソの2種です。

ハシブトガラスは英名「Jungle Crow」の名の通り森林性のカラスです。

ダム湖にいるハシブトガラス@南砺市・刀利ダム。

対するハシボソガラスは「Corvus corone」(死肉を食べるカラス)という英名を持ち、見通しの良い草原や河原、農耕地などを好む、とされています。

河原にいるハシボソガラス@舟橋村。

では、富山県内でのこの二種の分布はどうなっていて、どのように決まっているのでしょうか。11月~2月の越冬期は集団ねぐらを作るのでおそらく都市部との距離が分布に大きな意味合いを持っていることが予想されますが、「都市部からの距離」といっても「都市の中心地点」や「都市の範囲(外縁)」の定義が難しいため、とりあえず後回しにして、4~7月の繁殖シーズンについて考えてみます。

まずは私の調査地での両種の個体数の一覧を作りたいと思います。

場所ごとに調査地の広さや調査回数が異なるため、そのまま個体数の合計や平均を比較するわけにはいきません。

今回は、分析の対象を「ラインセンサス調査」を行った場所だけに限定します。

ラインセンサス調査では観察半径(多くは50m)とセンサスルート(km)を決め、時速2~3㎞でゆっくり歩きながら観察半径内に出現したすべての種と個体数を記録していきます。半径50mだと左右に100mの帯状の範囲が観察面積になるため、センサスルート1kmに出現した個体数は10㏊の個体数として密度が求められます。

ラインセンサスを行った16か所の調査地の、全出現個体数を調査回数と調査距離で割った生息密度が以下の表になります。

上市町大岩~浅生のセンサスのみ観察半径25mで行った(狭いV地峡谷沿いのコースで、見通しが25m程度しかない場所が多かったのでそう設定)ので、最後に×2をして10㏊の密度に変換しています。

また、富山市ファミリーパークは総面積33ヘクタールですので、3.3で割った数字になっています。


蟻浴(ぎよく。アリの群れに体の汚れをとってもらう)をしている
ハシボソガラス@富山市ファミリーパーク。

まずは、ハシブトガラスとハシボソガラス、それぞれの個体数に順位をつけて、2つの順位に相関があるかどうかを調べてみます。「ハシブトガラスが多いところはハシボソガラスも多い傾向がある」とか、「ハシブトガラスが少ないところではハシボソガラスが多い」とかいう傾向があるかどうかを知るためです。

順位同士の相関ですので、スピアマンの順位相関係数の出番です。エクセルの統計ソフトStatcel4を使ってさくっと検定します。


結果。P値が0.59239でしたので、両種の個体数を順位化した数値同士には相関性があるとは言えませんでした(※相関性が無かったと言えた、ではありません)。

平たく言うと、ハシブトガラスとハシボソガラスの密度に関係性は認められませんでした。一方が多い場所ではもう片方も多いとか、その逆とかいう関係性は観測されなかったということです。意図的な同居や棲み分けは行われていない、と考えてよいでしょう。

ですので、互いの存在は環境変数に含めずに、ハシブトガラスとハシボソガラスそれぞれについて独立に環境要因との関係を調べてみます。

まずはハシブトガラスの個体密度です。


ハシブトガラスの個体密度を小さい順にならべて散布図を作ってみました。

他と比べてすごく密度が高いのが立山町白岩川ダム、上市町大岩~浅生、富山市ファミリーパークの3地点です。


ハゼノキの実を食べるハシブトガラス@呉羽丘陵。


個体密度が近い調査地同士を4つのグループに分けて、統計ソフトRでクラスター分析をしたて様々な環境要因との関係を示したのが次の図です。


赤い枠で囲んだのが「ハシブトガラスの個体密度が小さい調査地」、緑の枠は「ハシブトガラスの個体密度が大きい調査地」です。

読み取れることをまとめてみると、

・多くの環境要因で分析したのに、ハシブトガラスの多い場所/少ない場所を分けていた要因は調査地の標高と海からの距離だけだった。

・ハシブトガラスが少ない調査地は標高365m以上で見られた。

・ハシブトガラスが多い調査地は、全てが標高365m以下だった。その中で、標高75m以上かつ205以下の地点に見られた。一か所だけ標高30m以上365m以下の調査地があった。

・標高205m以上330m以下の5地点ではハシブトガラスの多い地点と少ない地点が混在した。

こんなところです。

続きましてハシボソガラスです。


やはり大きく個体密度が高い調査地点が3か所ありました。舟橋村、猿倉山(伐開地=スキー場跡)、猿倉山(谷津環境の農耕地)、の3か所です。


オニグルミの実を駐車場のアスファルトの上まで運んで落して割って食べる
ハシボソガラス@富山市ファミリーパーク。
ドブガイを駐車場のアスファルトの上まで運んで落して割って食べる
ハシボソガラス@富山市ファミリーパーク。

調査地点をハシボソガラスの個体密度に応じて5つのグループに分け、同じように統計ソフトRでクラスター分析します。

結果です。


赤い枠で囲んだのが「ハシボソガラスの個体密度が小さい調査地」、緑の枠は「ハシボソガラスの個体密度が大きい調査地」です。


巣材に使う馬の毛を集めるハシボソガラス@富山市ファミリーパーク。

読み取れることをまとめてみると、

・ハシボソガラスの生息密度のいちばん低いグループの調査地はすべて「川がない」「民家がない」「海から9.85㎞以上離れている」という特徴で区分されました。

・他の生息密度が低い調査地の環境特性は「川がある+海から12.44㎞以上離れている」で、「標高225m以上」または「標高225m以下で魚が放流されている地点」というものであった。

・生息密度がいちばん高い調査地点は、「川がない」+「民家がある」か、「川がある」+「海から12.44㎞以内」+「標高145m以下」であった。


ノスリにモビング(偽攻撃)をするハシボソガラス@呉羽丘陵。


【ざっくりとまとめ】
・ハシブトガラスが少ない場所は高標高の地点だった。
・ハシブトガラスが多い場所は中程度の標高の地点だった。
・ハシボソガラスが少ない場所は川も民家もない、海から離れた場所だった。
・ハシボソガラスが多い場所は川がないけど民家があるか、川がある海に近い低標高の地点だった。

経験則をデータで裏付け、さらに細かく条件を見ることができました。


ところで、今のお話はハシボソとハシブト、それぞれの種が多い場所と少ない場所の条件についてですが、ハシブトとハシボソの2種のどちらが多い場所か、という「ハシブト/ハシボソ比」も気になるところです。

比についてはラインセンサスではなくスポットセンサス(定点調査)のデータも使うことができますので、調査地点数を増やして解析してみます。

こうなりました。

上から下へ、ブト/ボソ比が低い地点→高い地点の並びにしました。

なぜボソ/ブト比ではなくブト/ボソ比にしたのかというと、一か所だけ複数回の調査の結果でもハシブトガラスが記録されなかった地点があるからです。ゼロでは割れないので、分母はハシボソとしました。

散布図にするとこんな感じです。ブト/ボソ比が目立って大きい(ブトがボソに比べて多い)地点が4~5か所ありますね。ブトがボソの5~8倍もいる地点です。
対数軸ではないのでわかりにくいですが、ブト/ボソ比が小さい地点もよくよく見ると、ボソがブトより3~7倍かそれ以上多い地点が5か所あります。

クラスター分析の結果です。


赤で囲ったのがブト/ボソ比が小さい(相対的にボソが多い)調査地点、緑で囲ったのがブト/ボソ比が大きい(相対的にブトが多い)調査地点です。

ざっくり言えることは

・海から24.79㎞以上離れた場所ではブト/ボソ比が小さい(相対的にボソが多い)

・農耕地があり、海から21.48㎞以上離れた場所でもブト/ボソ比が小さい(相対的にボソが多い)

・農耕地があり、海から21.48㎞以内だが標高35m未満の場合にもブト/ボソ比が小さい(相対的にボソが多い)調査地がある

・農耕地がなく、海から12.82㎞以内の地点にはブト/ボソ比が大きい(相対的にブトが多い)調査地がある

・農耕地がなく、海から12.82㎞以上離れた場所でも、民家がなく、標高が325mより高いとブト/ボソ比が大きい(相対的にブトが多い)調査地がある

こんな感じになりました。

ざっくりと「ハシブトガラスは都会や森林に多く、ハシボソガラスは農耕地や河原に多い」というイメージでしたが、分析してみるとそういった傾向に当てはまらない場所もありました。

カラスは奥深いですね。

今回は以上です。

雪に潜ってくちばしの中に入った雪を首を振って投げる、という「遊び」を繰り返す
ハシボソガラス@富山市環水公園。


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