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鳥の性と秋の声

9月に入ると、溜め池に集合した換羽終了後のカルガモ群の中で、デクレッシェンド・コールという鳴き声が聞かれはじめます。

デクレッシェンド・コールは、音楽符号のデクレッシェンド(decrescendo、>の記号)の意味どおり、グェーーッグゥェッグゥェッグゥェッグゥェッ、とだんだん弱くなる連続した鳴き方のことです。ドナルドダックの笑い声に近いでしょうか。夕暮れ時に特によく聞かれます。

このデクレッシェンド・コールはカルガモのほかマガモやコガモなどマガモ属のメスに特有の鳴き方で、オスを誘引する機能があると考えられています。

オスはこの鳴き方ができません。また、夏のメスもこの鳴き方ができません。この声を出すことを思いつくことさえできません。行動もその動機も、すっかり消失した状態です。

最高カルガモ群

カルガモのメスは、夏期に繁殖と子育てを終え、換羽が終了してつがい形成期がはじまると、初めてこの声を出すことができます。

言い換えると、この声が出せるようになる頃までのカルガモは、自分がオスなのか、メスなのかを全く意識していません。また、目の前にいる相手がオスなのか、メスなのかについても興味を抱きません。

行動上は、性的にニュートラルな状態にいます。

それが9月上旬になると、(恐らく日照時間の減少に起因する)ホルモンバランスの変化から、行動的な雌雄差が現れ始めます。メスはメス特有の鳴き声を出し、オスはそれを異性からのサインと識別します。季節とともに自分の性別を「思い出す」わけです。

逆に同じこの時期に自分の性別を「忘れてしまう」のがモズです。

モズは早春~初夏に平野部で繁殖し、その後高地へ移動してふたたび繁殖活動を行い、晩夏にまた平野部に舞い戻ってそのまま冬を越します。

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越冬の際には、一羽ずつのなわばりを作り、他の個体を雌雄問わずに排除しながら生活します。この際、縄張り宣言として高い場所で「ギチギチギチギチ……」と良く響く声で鳴くのが「百舌の高鳴き」です。

高鳴きをしている時期のモズは、繁殖直後のカルガモと同じく、自分がオスなのか、メスなのかを全く意識していません。また、相手がオスなのか、メスなのかについても興味を抱きません。雌雄問わず全ての個体が高鳴きをし、侵入者も雌雄問わずに追い出します。

秋につがい形成期がはじまったカルガモたちは、3月ころまでの長い期間をかけてパートナーを探し、次の初夏の繁殖に備えます。

秋に里に下りてきたモズたちは、つがい形成がはじまる2月ころまでの長い間、自己の生存のみに集中して生きていきます。

哀愁を帯びたカルガモの声と、鋭く挑発的なモズの声が、それぞれの秋の始まりを告げています。

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