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青春を鳥に賭けて

甘さ控えめの、酸っぱさだけが際立つ青春であった。

鳥の勉強をするために、大学に入学したのである。

舞台は新潟の佐潟である。新潟大学から自転車で片道一時間の距離にあるこの湖沼に、私は毎日通っていた。卒業研究のテーマであるカルガモの群れ行動を観察するためにである。

私は学部卒だが、3つの研究室に所属していた。

私の通う理学部は、私が入学するのとほぼ同時に生態学系の教授が次々と退官してしまった。仕様がなく理論進化学の研究室に籍を置き、お隣の教育学部で行動生態学を教えていた先生にお願いして机だけ置かせてもらい、行動研究の方法を学んだ。但しこの先生も当時の専門はアシナガバチとマメゾウムシ、モリアオガエルなどであったため「ボク鳥は教えられないよ」とのことであった。そこで再度さらにお隣の農学部の森林学科に侵入し、野生動物学保全学のゼミに参加させてもらった。鳥類学についてはここで学んだ。有難いことに、進化学、行動生態学、野外鳥類学それぞれについて指導教官がいた形である。

朝起きて大学の男子寮から3研究室をはしごして、その後一人で自転車を漕ぎ、誰もいないフィールドで鳥を見続け、男だらけの研究室に戻って解析し、週末は山岳部の活動、夜間はビル清掃のアルバイト、の繰り返しの4年間であった。夢中な時間は早く過ぎていく。

カルガモの群れは季節によって構成が異なる。それぞれの群れが何のために群れているのかを行動から解析するのが、自分で設定した研究テーマであった。毎日4時間、1分ごとに群れの全個体の行動をサンプリングして記号で記録しいていく。「採食」「警戒」「休眠」「羽繕い」「移動」などである。

群れのサイズが大きいほど各個体が採食や休眠に使う時間は長くなる一方、一個体あたりの警戒時間は減り、なおかつ「群れの誰かが警戒している時間」の割合は、偶然から予測される期待値よりも有意に高くなった。警戒の分業の結果、採食や休眠いつ帰る時間が増すというのが群の機能だという研究結果を、当時研究室に1台しかなかったマック(パフォーマというやつ)で論文にまとめ、卒論発表を3回して卒業した。

大学院に行って研究を続けたい気持ちが強く、院の入試にも受かっていたが、せっかく決まっていた就職を蹴るのも勿体なく思い(当時はバブル崩壊後の就職難のピークでもあった)、結局帰郷しての就職を選んでアカデミーの道からは遠ざかってしまった。

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時は経ち、今は下の娘が大学に通っている。好きな語学を夢中で勉強しているのを見ると、今からでも大学院に通いたいなあ、などと度々考えるようになった。

甘酸っぱい思い出はなかったが、もっと思いっきり学問をしたかった、というほろ苦い熱意は今でも胸に残っている。

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