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大日本報徳社「報徳」への寄稿 第1回

静岡県掛川市に本拠を置く大日本報徳社。出身高校の先輩である報徳社社長から機関誌「報徳」への寄稿のお話をいただき、拙文を「報徳」2023年7月号(七月一日発行)に掲載していただきました。

地域金融機関の事業者支援と報徳
第一回 地域金融機関による事業者支援の現状
金融機関での勤務歴が四〇年を超え、二〇二一年から横浜市に本拠を置く地方銀行の社外監査役を務めながら、中小企業診断士として中小事業者支援の仕事にも取り組んでいます。
「報徳」の読者の皆様には事業経営者やそのご家族も含まれていることを念頭に、地域金融機関(注一)による中小事業者への支援に関する話題をお伝えしたいと考えました。
中小事業者への支援では、「至誠と勤労」「分度と推譲」「道徳と経済」などの報徳の考え方に共感する事業者が多いことを感じています。近年はSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)やカーボンニュートラル(気候変動問題解決のために二酸化炭素排出量ゼロに向けた行動)を事業経営に取り入れる動きが広がりつつあり、ここにも「天道と人道の調和」を目指す報徳の思想が役立つと考えられます。
 
地域金融機関による中小事業者支援
地域金融機関には、地域経済を支える中小事業者を支援する役割があります。そのうち貸出を通じて事業者を支援する活動を「資金繰り支援」、事業拡大や経営改善等に向けた自助努力を支援する活動を「本業支援」と呼びます。
経営が悪化した事業者は、事業活動に必要な資金が不足する事態に陥ると「当面の資金をどのように工面するのか」という不安で頭が一杯になり、根本的な経営課題の洗い出しや課題解決に向けた行動が取れなくなります。こうした場合、地域金融機関はまず資金繰り支援で事業者の不安を取り払い、そのうえで経営課題解決のための本業支援を行う手順で事業者支援に取り組むのが常道です。
財務基盤の弱い中小事業者の資金繰り支援では、各地の信用保証協会(注二)による信用保証の活用が大きな役割を果たします。
 
ゼロゼロ融資への取り組み
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う中小事業者に対する資金繰り支援対策として、二〇二〇年春には政府系金融機関に特別貸付制度が設けられる一方、地域金融機関の貸出について信用保証協会による特別保証制度が整備され、地方自治体による利子補給を併用することで無担保・無保証、実質無利子の特別融資が行われました。担保・保証ゼロ、利子ゼロのため「ゼロゼロ融資」と呼ばれます。
地域金融機関はゼロゼロ融資を推進しましたが、中には追加資金の必要のない事業者に対しても「金利や手数料の負担もないので、不測の事態に備えて手元資金を増やしてはどうでしょうか」などの勧誘を行い、ゼロゼロ融資を自行庫の貸出金増強に利用する動きもみられました。
ゼロゼロ融資は借入当初一~三年程度の元本返済猶予(元本据置)を認める制度です。資金繰りの苦しい中小事業者の多くが当初三年の元本据置を選択したことから、本年七月以降に元本返済が本格化することが想定されています。しかしながら、売上回復が不十分な事業者に加え、最近の資源価格や光熱費高騰の波及を受け経営状況が一段と悪化する事業者も増えており、元本返済が困難な中小事業者が多数存在すると指摘されています。
 
伴走支援型特別保証(コロナ借換保証)
ゼロゼロ融資の元本返済開始に直面する中小事業者への支援策として、二〇二一年四月に「伴走支援型特別保証」が創設されました。これは「経営行動計画書」を策定したうえで、金融機関による伴走支援(注三)を受けることを条件に、借入時の信用保証料を大幅に引き下げる制度です。中小事業者の活用が進むように利用条件が段階的に緩和され、二〇二三年一月からは「コロナ借換保証」という名称も使われています。
この間、信用保証協会が本業支援業務を強化する動きがみられるほか、各地に「中小企業活性化協議会(注四)が設置されました。地域金融機関がこれらの機関と連携することで中小企業支援を推進する態勢も整備されつつあります。
経営行動計画書の策定・伴走支援の事務負担が伴うことから、地域金融機関が単独で多数の中小事業者の資金繰り支援に対応することは難しく、既存の商工会・商工会議所を含む公的な支援機関に加え、弁護士、税理士や中小企業診断士などの支援者が連携することにより、中小事業者をサポートすることが求められています。
そして、時期を逸することなくこうしたサポートを受けるには、中小事業者自身が自らの経営状況・資金繰りを的確に把握し、経営危機に至る前に地域金融機関や支援機関に相談していくことが必要なのです。
 
(注一)    本稿では、地方銀行と信用金庫、信用組合を含めて「地域金融機関」との用語を使っています。単に「金融機関」と言う場合には、都市銀行(メガバンク)などを含んでいます。
(注二)    信用保証協会は、全国の四十七都道府県および横浜・川崎・名古屋・岐阜の四市に設置された公的機関です。信用保証協会が事業者の借入金に債務保証をすることで、金融機関からの融資を受け易くしています。
(注三)    補助金や税制活用などを断片的にサポートする従来型の支援手法に対し、事業者との対話の継続を通じて、環境変化に応じて柔軟に対応する力を事業者から引き出す支援手法を「伴走支援」と呼びます。
(注四)    「中小企業活性化協議会」は、二〇二二年に既存の「中小企業再生協議会」を改組して生まれた公的な支援機関で、「地域全体での収益力改善、経営改善、事業再生、再チャレンジの最大化」を目的としています。四十七都道府県に設置されています。

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