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地域金融機関の事業者支援と報徳第四回 地域金融機関による資金繰り支援~短期継続融資

第一回では、地域金融機関による事業者支援には「資金繰り支援」と「本業支援」があることをご説明しました。第二回では、本業支援のうち経営改善支援に取り組んだ事例をご紹介しました。今回は、事業者から感謝された資金繰りの支援事例をご紹介します。
支援事例の説明の前に、予備知識として金融機関による貸出の類型、貸出金の資金使途および返済財源、経常運転資金と短期継続融資について解説します(注一)。
 
金融機関による貸出の類型
金融機関が事業者に貸出を行う際には、貸出先の財務内容・資金使途・返済財源などを把握し、貸出形態と返済期間を検討する事前審査を行います。
貸出形態は、一年以内の短期貸出に対する手形割引・当座貸越・手形貸付、一年超の長期貸出に対する証書貸付の四つの類型があります(注二)。
手形割引は、事業者が商取引により取得した手形について、金融機関が支払期日までの利息を差し引いて買い取る形で資金を貸し出すものです。手形期日に支払人口座から借入事業者の決済口座へ振り込まれる資金により貸出金が回収されます。
当座貸越は、金融機関が事業者と当座貸越契約を交わし、当座預金残高を超える資金払出を一定の限度額まで認める形で資金を貸し出すものです。当座預金残高が一定の限度額までマイナスとなることを認める仕組みと言い換えることもできます。
手形貸付は、事業者が自らを振出人、金融機関を受取人とする約束手形を振り出し、金融機関が手形金額から支払い期日までの利息を差し引いて手形を買い取る形で資金を貸し出すものです。売掛金回収などにより事業者の決済口座に滞留した資金を手形期日に引き落とすことで貸出金が回収されます。
証書貸付は、事業者から借用証書(金銭消費貸借契約書)を徴求することで資金を貸し出すものです。元本は一か月毎の分割返済とすることが多く、その際に残高に応じた利息を支払うことになります。
 
借入金の資金使途と返済財源
金融機関が取引先に貸出を行う際に必ず確認するのが、資金使途と返済財源です。
資金使途は、設備資金と運転資金に大別されます。
設備資金は、工場設備や店舗等の土地・建物・設備の購入資金に充当されます。これによって生産・販売が増え、利益が増大することで、その利益によって借入金が返済されます。
運転資金は、事業者が営業活動を続けるうえで必要となる設備資金以外の資金で、経常運転資金と臨時資金があります。経常運転資金は、商品・サービスの原材料等の仕入れから販売代金(売上債権)回収までの間に不足する資金を経常的に調達するものです。臨時資金は、一時的に発生する資金不足を調達するもので、売上増加に伴い発生する増加運転資金、季節資金、決算賞与資金、つなぎ資金、減産資金、在庫資金、赤字資金などがあります。運転資金に係る借入金は売上債権の回収により返済されるのが基本です。
 
経常運転資金と短期継続融資
経常運転金は、経常的な営業活動に伴い発生する債権・債務に関して「売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産―買入債務(支払手形+買掛金)」に相当するものです。これは、当期に仕入れた原材料等の債務支払と商品・サービスの売上に伴い発生する売上債権の回収までの資金不足を補う資金です。売上債権の回収代金で返済されるので、原則として短期での手形貸付または当座貸越による借入で対応します。返済後、次の買入債務の支払資金が必要となり新たな借入が続くことで、短期ながら継続的な借入(金融機関側からは継続的な融資)となるため、短期継続融資という名称が使われます。
ところが、近年では経常運転資金を含めて運転資金をすべて長期の証書貸付で対応してしまう地域金融機関が増えてきました。運転資金をすべて証書貸付で借りた場合、事業者にとっては毎月の元本返済負担額が大きくなり、返済財源となる利益が返済額に対して不足するケースが発生します。
このようなケースでは、営業活動から利益が出ているにも拘わらず、借入金返済に資金が流出するため、資金繰りは苦しくなります。決済口座の預金残高が返済の都度減ってしまうので、事業者は精神的に追い詰められることがあります。
 
事業者の資金繰りへの不安を解消した支援事例
今回ご紹介するのは、運転資金のほとんどを長期の証書貸付で借り入れていた事業者です。直近期の決算で利益(注三)は九百万円を計上していました。月間利益は平均七十五万円です。一方、長期借入金(証書貸付)残高は地域金融機関からの三千万円と政府系金融機関からの新型コロナ対策での特別貸付による借入二千万円の合計五千万円でした。
私が相談を受けた時点では、証書貸付の毎月の約定弁済額は六十万円でしたが、半年後に政府系金融機関への元本返済が始まると返済額が二十万円増加することが見込まれ、毎月の利益を約定弁済額が上回ることが予想されていました。
社長からの相談を受け、同社の財務資料を確認した結果、私からは「地域金融機関からの長期借入金を短期継続融資に借り換えることで、毎月の約定返済額を政府系金融機関のみの二十万円に減額する」という対策を提案しました。
地域金融機関との交渉に際しては、事業の強みや将来性を明確にする説明資料として「知的資産経営報告書」と「ローカルベンチマーク」(注四)の作成を支援し、取引のある地域金融機関と信用保証協会にこれらの資料を提出することで、同社の事業性への理解を促しておいたことが役立ちました。
地域金融機関との交渉では紆余曲折がありましたが、政府系金融機関への約定弁済が始まる前月には、証書貸付三千万円について、信用保証協会の保証付きで短期継続融資への借り換えに成功しました。
社長からは、「これまで多少の利益を上げても約定弁済で預金残高が減って眠れない日が多かったのが、短期継続融資を受けてからは預金が減る心配が消え、夜眠れるようになった」と大いに感謝されました。
 
結び
今回ご紹介した事例は、特別なアイデアとか独創的な知恵や工夫があった訳ではありません。地域金融機関が本来持っている金融仲介機能を、資金使途や目的に応じて、基本どおりに組み替えるだけで事業者の抱えていた不安を払拭したのです。これを「金融道に即した適切な融資手法を提供することで事業者の経営課題を解決した」と理解することで、天道や人道を踏まえた実践活動に取り組む報徳の仕法に通じる意義を感じることができました。
 
(注一)    貸出の類型、貸出金の資金使途および返済財源、経常運転資金と短期継続融資に関する解説は、次の書籍より引用・加筆修正しています。
「これだけ覚える融資の基礎知識」(池井戸潤著、近代セールス社)
「貸出業務の王道」(𠮷田重雄著、金融財政事情研究会)
「ベテラン融資マンの知恵袋」(寺岡雅顕著、銀行研修社)
「新時代の中小企業経営支援の考え方」(寺岡雅顕・藤井健太郎・樽谷祐一著、銀行研修社)
(注二)    二〇二一年六月に閣議決定された政府の「成長戦略実行計画」において「手形・小切手機能の電子化」に向けた自主計画策定を産業界および金融界に求めたことを受け、全国銀行協会では、二〇二六年度末を目標とする「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画」を策定しています。すでに約束手形の一部はインターネットバンキングを利用した電子記録債権による決済に置き換わり始めており、手形割引に代えて電子債権割引を利用するケースも増加しています。今後は手形貸付や証書貸付も電子化される可能性があるものの、本稿ではこれまでの金融機関実務に沿った説明を行っています。
(注三)    証書貸付による長期資金の返済財源は期中の営業活動から獲得するキャッシュフローであり、金融機関は年間の「経常利益+減価償却費」による貸出金元本の返済年数を計算して債務者の返済能力を判断するのが一般的な取り扱いです。本稿では解り易さを優先して返済財源を単に「利益」と記述しました。
(注四)    企業の競争力の源泉となる人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産を知的資産と呼びます。自社の持つ知的資産を認識して整理し、自社の強みとして内外の関係者に開示する目的で取り纏めたレポートが「知的資産経営報告書」です。
「ローカルベンチマーク」は、企業の経営者と金融機関・支援機関等がコミュニケーション(対話)を行いながら、定型化された様式(「ローカルベンチマーク・シート」)を作成し、企業経営の現状や課題を相互に理解することで、個別企業の経営改善や地域活性化を目指すものです。いずれも経済産業省のサイトに解説が掲載されていますので、関心ある方は以下のURLをご参照ください。
知的資産経営ポータル
https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/teigi.html
ローカルベンチマーク
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/
 
以上

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