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角野隼斗 Live at ブルーノート東京

クロスジャンルで活躍する話題のピアニストであり、人気YouTuberである角野隼斗さんのブルーノート公演。クラシックやポピュラーを遊び心たっぷりでアレンジしたかと思えば、本気でど真ん中も見せる多彩な音楽性、画期的なアイデアが満載のステージ演出など、センスの良いエンターテインメントを楽しむことができたライブでした。今回の公演は2日間それぞれ2公演のうち、最終日の2nd showが配信され、筆者は配信のみ観覧しました。

この記事はクラシック音楽初心者、かつジャズにそれほど詳しくもないにわかファンが、ライブの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いライブレポートです。

音源は主に角野さんの公式YouTubeとApple Musicをリンクしてみました。(さすが人気YouTuber、映像の作りも素晴らしいですね)

セットリスト

1. HUMAN UNIVERSE(オリジナル)
2. インヴェンション(バッハ / 角野隼斗アレンジ)
3. We Will Rock You(クイーン / 角野隼斗アレンジ)
4. Frog Swings(オリジナル)
5. 愛の夢(リスト / 角野隼斗アレンジ)
6. ココドコ (オリジナル)
7. 猫ふんじゃった(オリジナル)
8. One Minute Hourglass (オリジナル)
9. Spain(チック・コリア)
10. Gotta Be Happy(小曽根真)
11. Rhapsody in Blue(ガーシュウィン ピアノバージョン)
<アンコール>Tinkerland(オリジナル)

<出演>
角野隼斗(ピアノ)
+飛び入りゲストさん

公演日:2021年6月7日 Blue Note東京
  配信:2021年6月7日 ~ 6月10日

セットリストは角野さんのオフィシャルウェブサイトより↓

後日公開された(実に3ヶ月ののち!)ブルーノートのオフィシャル動画(ハイライト)を。


角野隼斗さん

にわかファンで僭越ながら、角野隼斗さんについて少しまとめてみます。

クラシック音楽を基礎に、クロスジャンルの音楽を演奏・作曲・アレンジし、新しいタイプのピアニストとして注目を集めている方。YouTubeやインスタグラムなどSNSでの活躍も有名で、YouTubeでは”Cateen(かてぃん)”という名前で活動し、チャンネル登録者75万人という人気YouTuber。Penthouseというシティポップバンドのメンバーでもあります。ファン層の幅は広いのでしょうね。

また音大ではなく、東京大学大学院をつい昨年(2020年)卒業したという珍しい経歴をもつピアニストさん。音楽的な経歴を拝見すると数々のコンクールで入賞されていて、2011年および2017年のショパン国際コンクールアジア大会で金賞受賞、2018年ピティナピアノコンペティション特級グランプリなど、輝かしいバックグラウンドをお持ちです。筆者は、今年のショパン国際コンクールにエントリーされていることに大注目しています!

そんな角野さんの音楽をブルーノートで聴くという。筆者にとって角野さんはジャズ風のオリジナル曲の印象が強く、どうも”角野隼斗さんってジャズピアニストですよね?”と言ってしまいそうなものがあります。ブルーノートのステージに立つのは時間の問題で、ついにその時が来ただけという感覚でした。角野さんの本気のクラシックをまだ十分に知らないからかもしれませんね。こんなにジャジーな方がコンクールで優勝しているという事実がまだなかなか結びついていません(笑)


ステージ演出

ぜひこのポイントも書き残しておきたいのですが、映像の作りがとても素晴らしかった!大事なことなのでもう一度言いますが(笑)本当に素晴らしかった。

まず巧みさに気づいたのは、照明やカメラが音楽にぴったり合っていること。楽器だけではなく照明がリズムを刻んでいてグルーヴィーなのです。アンバー色のスポットライトが角野さんを照らして魅惑的な光と影を作り、ランダムに小さな光が落ちたステージには都会的な空気感が。焚かれたスモークに当たる白い筋はどこかマンハッタンの風景を彷彿とさせ、キレのある青いライン、情熱的な赤・・・。光の演出がとても素敵でした。カメラも音に合った絶妙なところで切り替わり、画がとてもスタイリッシュ。カメラがパンしてスムーズな動きで角野さんをいろいろな角度から追いかけていたのは、ドローンの映像にも思えましたが違うのかしら。それがとてもおしゃれで、カメラアングルも多彩。ミュージックビデオを見ているかのようなクオリティで、そのまま円盤化してもおかしくないと思うものでしたが、もしかして・・・。


HUMAN UNIVERSE(オリジナル)

バッハを彷彿とさせるクラシックなメロディで始まるこの曲は、どんどん情熱的になり、また哀愁が感じられたり、表情豊か。ブルーノートの大人な雰囲気に素晴らしくマッチしていました。角野さんのオリジナルの新曲とのことで、近いうちにCDや配信で聴けるようになるのかと期待してしまいますね。


インヴェンション (バッハ / 角野隼斗アレンジ)

むしろこちらはまさかバッハだとは思わなかったというアレンジ。ピアノと一緒に使っていたのはシンセサイザーでしょうか。筆者にはどこか80年代の音楽や、壮大な宇宙をテーマにした映画音楽のようなものに聴こえていました。

動画は少しだけですがインスタグラムから。


We Will Rock You(クイーン / 角野隼斗アレンジ)

YouTubeやインスタグラムでは拝見したことがあるのですが、角野さんはピアノを弾きながら何やら珍しい楽器を同時に弾くことがあります。ここで登場したのはそのひとつ、カホンと呼ばれる打楽器。筆者にはジャズドラムをブラシで叩いている音にしか聴こえません!見た目は大きめのスピーカーで、角野さんはピアノ椅子ではなくカホンに座りながら演奏しています(以下の動画でも座っていますね)。ピアノを弾きながらリズムはカホンで取るなんて、どうして可能なのでしょうと思う器用さですね。


Frog Swings(オリジナル)

この曲ではさらにカホンが存在感を出し、カホンソロ?ドラムソロ?の聴きどころがありました。”角野隼斗さんはジャズドラマーでしたっけ?"ですね(笑)

この曲はカエルの歌を元にしたものとのこと。ライブ配信のお楽しみのひとつであるチャットの中では、かっこよくジャズアレンジされたこの曲を「さすが青山のカエルは違う」といったようなコメントで盛り上がっておりました(笑)。(ブルーノート東京は青山にあります)

ちなみにチャットでは角野さんの革ジャンの”萌え袖”と”絆創膏”でも大盛り上がり(笑)。角野さんは指の保護のためによく絆創膏を貼っていらっしゃるようですが、知らずに怪我をしているのかと思ったファン多数。またそれが演奏中にズレてきていたことに、ものすごい心配が集まっていました(笑)。


愛の夢(リスト / 角野隼斗アレンジ)

リストのジャズアレンジを聴いたのは初めてでした。クラシックをジャズにするのは振れ幅が大きい気がしていて、成功させるのは難しく、最悪はとても違和感のあるところに落ち着いてしまうイメージがあります。角野さんのアレンジは自然で、このリストはとても美しかった・・・。さすがですね。


ココドコ (オリジナル)

また新たな仲間、ルーパーという機材を使っていました。”ココドコ ココドコ”と聞こえるから、という理由でついたタイトルだそうですが(笑)そのおちゃめなタイトルに似つかわしくなく、終始”ココドコ ココドコ”とループする、スタイリッシュで未来感のある曲でした。


猫ふんじゃった(オリジナル)

角野さんのかくし芸、マジックの披露です(笑)演奏をメモリーして自動演奏できるスタインウェイのSPIRIOという新しいピアノを使った演奏は、もはやパフォーマー。筆者はこのピアノを少し前に見たことがあったのですが、角野さんのアイデアに富んだ、とてもおちゃめな使い方は、上手い!とひたすら唸ってしまいます。とてもセンスがありますね。

こちらの動画でもSPIRIOを使ったマジックが見られます!


One Minute Hourglass (オリジナル)

再びSPIRIOを使い、角野隼斗x角野隼斗のデュオです。最後の1音は指を鳴らしてSPIRIOを操作する(?)かっこいいパフォーマンス。憎いですね~(笑)


Spain(チック・コリア)

これまでに登場したルーパーとSPIRIO総動員で、たったひとりで演奏するジャズの名曲。もはやバンドメンバーが10人くらいいそうな音です。そして、無人のSPIRIOにはまるで亡きチック・コリアさんが弾きに現れたかのようだと、うるっときたファン多し(チャットにて)。筆者もそれを想像すると、グッと堪えるものがありました。

音源はYouTubeにはなかったのですが、Twitterで。


Gotta Be Happy

ジャズの聖地といえるブルーノートでライブを開催するにあたり、メンターというべき存在になった小曽根真さんについてのエピソードを語る角野さん。この日は客席にいらっしゃるということで小曽根さんを紹介し、なんとステージにご招待!そしてなんと、飛び入りゲストとして共演が実現しました!

おふたりの即興の掛け合いは本当にかっこいい!そして楽しそう!演奏から伝わってくる喜びは、見ている側もハッピーにしますね。会場もチャットも熱々でした。もう一度聴きたいですね。

先日ラジオ番組で共演されていたのを拝聴したのですが、小曽根さんが角野さんのリズム感について絶賛していました。クラシックの人とは思えないグルーヴを出しているのだとか。


Rhapsody in Blue(ガーシュウィン ピアノバージョン)

筆者が見たことのある角野さんの演奏でいちばん情熱的なものでした。もしかしたら小曽根さんとの共演直後にその熱が、興奮が、喜びが、加わったのかもしれませんね。

そしてここで角野さんならではの3つ目の新しい楽器が登場。ピアニカです。ノスタルジックで、どこかユーモラスなメロディにぴったりのアレンジです。

・・・が、微笑ましく見ているわけにはいかないというほどのピアニカの超絶技巧が!息のかけ方の技術のようでした(チャットによると)。そして、もともとクラシックのこの曲。後半、本気のクラシック要素を情熱的に見せたところは凄みがありました。角野さんのクラシック音楽に対する情熱が表れたのでしょうか。素晴らしかったです。

動画はサントリーホール公演での管弦楽バージョン。サントリーホールにもピアニカ登場!!


<アンコール>Tinkerland(オリジナル)

筆者にはこの曲にすごく角野さんの魅力が詰まっていると思えて好きな曲です。使う楽器もメロディも遊び心がたっぷり。ピアノを弾けない筆者には聴き分けができないのですが、高いピアノの技術があるからこそという部分があるのではないかと想像します。個人的に、オスカー・ピーターソンの軽快で幸せそうな超絶技巧を彷彿とさせるものを感じながら聴いています。

そしてブルーノートにもオリジナル通り、この曲のためにトイピアノがひっそりと出番を待っていたのでした。


最後に

最近ブルーノートでは「Blue Note meets Classic」というシリーズを開催していて、クラシックど真ん中をジャズクラブで紹介する試みをしていますね。これまでに横山幸雄さん、金子三勇士さん(筆者の記事はこちら)、そして今度はクラシックどころか古典楽器であるチェンバロまで持ち込む鈴木優人さんの公演が控えています。コロナ禍により既成概念を覆すいろいろなチャレンジが起こっている中、ブルーノートの新たな挑戦も勇敢ですね!筆者は金子三勇士さんの回でここ2~3年でいちばんかもしれない大興奮を味わいました(笑)そんな中クラシックピアニスト"でもある"角野隼斗さんの公演。あれ?タイトルに「Blue Note meets ・・・」が入っていませんね!ジャンルを越える新しいピアニストと呼ばれている証を見た瞬間でした。

余談ですが、配信のイントロダクションではブルーノートのオリジナルの映像が入るのですが、それがもうかっこよくて高揚感を高めるものでした。細かいところで、ブルーノート東京の入り口のToday's showの看板がちゃんとHAYATO SUMINOになっているんですよね。神は細部に宿っておりました。

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