METオーケストラのコンサートマスター、B・ボウマン氏にインタビューしました!
6月に来日し、兵庫県立芸術文化センターと東京・サントリーホールで演奏会を開くMETオーケストラ。NYメトロポリタン歌劇場(MET)のオーケストラとして年間200回近くものオペラで演奏しつつ、コンサートも活発におこなっています。現地ニューヨークではカーネギーホールで定期演奏会を開催し、昨年はヨーロッパ・ツアーで大好評を得るなど、近年その活動は大きな注目を集めています。
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METオーケストラには二人のコンサートマスターがいます。2000年から活躍を続けているデイヴィッド・チャン氏、そして2018年に就任したベンジャミン・ボウマン氏です。METオーケストラ来日公演にも勿論、この二人の参加が予定されています。
ボウマン氏は今年3月27日、30日に、東京・春・音楽祭のワーグナー『トリスタンとイゾルデ』(演奏会形式)で、マレク・ヤノフスキ指揮 NHK交響楽団のゲスト・コンサートマスターを務めるために来日しました。2022年にヤノフスキ氏がMETで指揮をした時にボウマン氏と仕事をし、オペラをよく知っている実力派コンサートマスターということで招聘されたそうです。
2回の『トリスタンとイゾルデ』公演を大好評のうちに終え、アメリカに帰国するという日にボウマン氏にお会いし、短いインタビューをさせて頂きました。とてもフレンドリーで優しい雰囲気のボウマン氏は「今回が初めての来日だったけれど、6月にまた戻れることが嬉しくてたまらないんだ!そうじゃなかったら今日の出発が本当に悲しかったと思うよ」と、ニコニコしながら質問に答えてくれました。以下に、その一問一答をお届けいたします。
ーー 今回あなたはNHK交響楽団のゲスト・コンサートマスターに招かれて、マレク・ヤノフスキー氏指揮で『トリスタンとイゾルデ』を演奏しました。今回の来日はあなたにとってどのような経験でしたか?
ボウマン(以下B):本当に得難い経験でした。かねてより日本を訪れたいと思っていましたから。日本文化にはいつも興味を持ってきましたし、私のファミリーには半分日本人のメンバーがいるんです。日本食も大好きです。やっと来日して直に日本の文化を体験できたのは本当に良かったです。『トリスタンとイゾルデ』は大きな作品ですから東京に2週間半ほど滞在し、とても忙しい日々でしたが、街を歩いたり様々な場所やレストランなどを訪れて、素晴らしい時間を過ごしました。
日本の大好きなところは、機能性、人々の優しさ、暖かさ、寛大の精神、細部へのこだわりです。そして、その全てがNHK交響楽団にも見事に反映されていました。ヤノフスキは彼らと何度も共演しておりオーケストラとの相性も良く、『トリスタンとイゾルデ』公演は、演奏する我々にも大きなカタルシスを与えてくれました。
ーー 6月に、今度はあなたの率いるMETオーケストラと来日されます。日本の音楽ファンの多くはMETオーケストラをまだ聴いたことがないと思います。オーケストラの特徴を教えていただけますか?
B:メトロポリタン歌劇場(MET)は世界最大、かつ最高のオペラ・カンパニーの一つだと思います。私たちはそのことをとても誇りに思っていますし、大変であると同時にとてもやりがいのある仕事です。
私たちが最も得意とするのは「聴く」こと。交響曲を演奏する時にも、そこにはオペラ的な要素が加味されていると思います。歌の要素が強く、柔軟です。最高の演奏を目指してリスクを恐れずエネルギッシュに挑戦し、自分たちが演奏している音楽に身を捧げます。
METオーケストラは普段、オペラのピットで長時間演奏しているので、コンサートで演奏するのは私たちにとって特別な意味を持っています。ですから我々は昨年のヨーロッパ・ツアーや、今回の日本のようなコンサート・ツアーで、観客の前で自分たちの演奏を披露できる機会をとても大切にしているのです。
METオーケストラ来日公演 【プログラムB】メインとなる
マーラー交響曲第5番のリハーサ ル映像
コンマス、ボウマン氏の真剣な眼差しにも注目!
ーー METオーケストラが日本で演奏する二つのプログラムの聴きどころと、音楽的な魅力を教えてください。
B:今回のプログラムはバラエティに富んでいることに加え、METオーケストラがよく演奏するレパートリーとスタイルを表現するものです。【プログラムA】のワーグナーは我々にとってもっとも得意な作曲家の一人です。そしてバルトーク『青ひげ公の城』は色彩に富んだ、エキゾチックなサウンドを持つ音楽です。ストーリーはダークな話が好きな人にはもってこいの内容で(笑)、人間の真実を表現する芸術作品です。
【プログラムB】については、METオーケストラは今年の2月初めにカーネギーホールでマーラーの交響曲第5番を演奏しました。それは衝撃的な経験で、思い出しただけでも鳥肌が立ちます。素晴らしい結果を出すことができました。日本ではますます進化した演奏をお届けしたいです。前半のリセット・オロペサとのモーツァルトのコンサート・アリアも楽しみにしていてください。
どちらのプログラムもそれぞれの魅力があり、どちらがお勧めということは言えません。よく考えて選んでいただくか、可能な方はぜひ両日共に聴きに来ていただければ嬉しいです!
ーー METの音楽監督であるヤニック・ネゼ=セガンさんについての質問です。マエストロ・ネゼ=セガンの何を一番評価しますか?彼との共演はあなたにとってどのような意味があるのでしょう?
B:マエストロ・ヤニックについては語るべき素晴らしいことがたくさんあります。私は、彼の中には世代の異なる二つの指揮者像の最高のものが存在すると思っています。旧世代の世界的指揮者が持っていたスキルと技術、そして若い世代に特徴的な感情表現と自由な精神です。全てをコントロールしながら、とても協力的なのです。
彼の中には電流が流れていて、我々に音楽を伝えます。ヤニックは音楽を誰にも強要せず、音楽を一緒に生み出してくれるのです。リハーサルの時にも何が起こるか予想がつかない高揚感がありますが、本番では全てが彼を通じて流れている感覚があり、音楽だけに集中できるのです。皆が同じ方向に向かって集中している感覚はまさに魔法のようです。
ヤニックがMETの音楽監督に就任したのはそれほど前のことではないので、彼との関係はまだ成長中でエキサイティングです。外国への演奏会ツアーは、ヤニックと我々の絆をさらに発展させるための素晴らしい機会であり、彼のシンフォニー分野における豊富な経験が、METオーケストラのオペラの経験における豊かさと融合することによって最高の音楽が生まれるのだと思います。
ーー あなたはご自身をどのようなアーティストだと思いますか?また、どのようなアーティストでありたいと思いますか?
B:若いアーティストが野心を持つのは当然だと思います。でも自分のことを考えると、ソリストになりたいと心から望んだことがあったかどうか確信を持てません。成功したいとは思っていました。今でも成功したいと思っています。ただ、私にとっての成功の定義は時と共に変わってきています。コンサートマスターはオーケストラの中の接着剤のような役割を持っています。もしくは、公の場でオーケストラの顔として皆を代表することもあります。
我々はピットに入るオーケストラです。私たちは協力的なアーティストです。我々はそのことが気に入っており、なぜならオペラ的な音楽家は「聴く」ことが好きなのです。他者をサポートすることを好みます。
私は個人的にもサポートするアーティストでありたいと思っています。私は音楽を作り出す過程において誠実でありたいのです。お互いの連携を密にして、ストーリーを語ることに惹かれます。それが音楽を生き生きとさせ、私の、自分のやっていることへの興味を常に刺激し続けてくれるのです。ストーリーテリングに深く関わり、それに情熱を注いでいれば、音楽は仕事ではなくプレイになります。この言い方が一番正しいかも知れません。
ーー どうもありがとうございました。METオーケストラの来日を楽しみにしています!
B:私たちこそ来日公演を指折り数えて待っています。METが最後に来日したのは私が入団する前の2011年でしたし、METオーケストラとしての来日は今回が初めてだと思います。我々にとってこれは本当にビッグ・イベントなのです。私は今回東京で演奏して、日本のクラシック・ファンの音楽に対する情熱をひしひしと感じました。音楽を愛し、注意深く耳を傾ける聴衆の皆さんの前で演奏することは、私たちMETオーケストラにとって得難い経験となることでしょう!
ボウマン氏からのメッセージ動画。インタビュー当日にお願いしました。
(インタビュアー・井内美香)
⭐️来日公演の公式HPはコチラ
ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラ来日公演
演奏曲目:
【プログラムA】
ワーグナー:歌劇『さまよえるオランダ人』序曲
Wagner: "Der fliegende Holländer" Overture
ドビュッシー:歌劇『ペレアスとメリザンド』組曲(ラインスドルフ編)
Debussy: “Pelléas et Mélisande“ Suite (arr. Leinsdorf)
バルトーク:歌劇『青ひげ公の城』(演奏会形式・日本語字幕付)
(メゾソプラノ:エリーナ・ガランチャ、バスバリトン:クリスチャン・ヴァン・ホーン)
Bartók: “Bluebeard's Castle” (Concert Performance, with Japanese subtitles)
(Elīna Garanča, mezzo-soprano / Christian Van Horn, bass-baritone)
【プログラムB】
モンゴメリー:すべての人のための讃歌(日本初演)
J. Montgomery: A Hymn for Everyone (Japan premiere)
モーツァルト:アリア「私は行きます、でもどこへ」「ベレニーチェに」
(ソプラノ:リセット・オロペサ)
Mozart: “Vado, ma dove?” K.583 / “A Berenice” K.70
(Lisette Oropesa, soprano)
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
Mahler: Symphony No.5 in C-sharp minor
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