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白血病治療法の検討②|プロトコルの選択と臨床試験って?

今回は、実際のプロトコル(治療法)選択について書きます。
※医学的文章ではなく、体験談ですのでご承知おきを。

・プロトコル(治療法)って?
風邪を引けば風邪薬をもらうし、湿疹が出れば塗り薬をもらうし、
捻挫や打撲をしたら湿布をもらう。
症状がでたら処方されるものを治るまで継続して使うのが、普段我々が知る治療法だと思います。
それに比べ白血病は(おそらく白血病に限らず他の大きな病気も)、様々な抗がん剤の投薬組み合わせと長期的なスケジュールが組まれたプロトコル(治療法)があります。
ただ絶対的な一つのプロトコル(治療法)が存在するというわけではなく、世界にはいくつもの研究結果に基づいた複数のプロトコルが存在し、各国、各病院や各研究チームで推奨するものが様々存在しているようです。

今回我々は病院から2方向のプロトコルを提案してもらい選択をしました。

・臨床試験って?
今回のプロトコル選択で、キーとなったのは「臨床試験」に参加するかどうかでした。
臨床試験というのは、治療を兼ねた試験でこれからのスタンダードになりうる治療法を作る過程に参加するということです。
新薬を作る時に、治験といって実施に薬を使う試験に参加するというのは聞いたことがあるかもしれませんが、それと似ています。

今回我々が提案してもらった2方向のプロトコルは<MLL10><MLL17>です。
1つ目の<MLL10>は、臨床研究がすでに終わり、ある程度治療成績が出ている治療法。
2つ目の<MLL17>は、いま現在、臨床試験として走っていてる治療法。まだはっきりと成績は出ていないが、これまでのプロトコルよりも更によい治療結果を期待できる想定の治療法。

MLL10とMLL17の大きな違いは3つ。
1) MLL17は臨床試験である。
2) MLL17では新しい薬を使用する。成人の白血病ではすでに治療成績が出ている薬ではあるが乳児への投薬は初。
3) MLL17の方がMLL10に比べて、リスクの層別化をより細かく設定してあり、長期的にみると身体への負担を抑えて治療を進めることが期待できる。

リスクの層別化というのは、
一口に急性リンパ性白血病といっても、
【発症年齢(月齢)】、【診断時の悪性白血球数】、【遺伝子異常の有無】、【中枢神経への白血病細胞の浸潤の有無】などを考慮して病気のリスクの高さを【低リスク<中リスク<高リスク】に層別することです。
リスクの高さで同じプロトコル内でも治療ステップや使う薬や量が異なります。

はじめてプロトコル説明を受けた際に、我々夫婦の頭にまず浮かんだこと
それは"臨床試験ってどうなんだろう?"ということでした。
やはり成績がまだ出ていないという点が不安要素と感じたからです。
説明を受けて数日後には選択決定が必要だったので、
MLL10の治療実績、MLL17で期待される治療成績を
それぞれのメリットやデメリットを考慮しつつ入念に比較しました。

・プロトコル選択に必要な心得=家族(夫婦)の共通認識
熟考していく中で気をつけたこと。
それは、家族として何に優先度をつけて決定するかということでした。

最新の研究医療なのか、治療実績なのか、長い将来を考えたこどもの体の負担なのかなどそれは様々焦点をおけるところがあり、家族の考え方それぞれかと思います。

先程のリスクの層別化については、プロトコル検討期間中に諸々の検査結果が分かり、いーたんは【中リスク層】に該当することがわかりました。
そして、MLL10の治療実績では90%を超える高い確率で中リスク層の治療が無事に終わり、さらには治療後3年間の再発無発生率も90%以上という結果がでていることがわかりました。

【実績を頼りにする】
我々夫婦の軸はこれに決まりました。

プロトコル決定期限は白血病が判明した5日後でした。
それまで我が子がまさか生死に関わる病気になるなんて思ってもいなかった私たちです、迫る時間の中でできる限りの情報量を頭に入れて決断するしかありません。
主治医の先生の説明と資料を何度も読み、また主人が探してくれた他の文献も目を通して、一緒に考えました。
主人とも当時話していましたが、自分のことなら多少のリスクも受け入れながら治療選択をできるけど、こどものこととなると少しのリスクも踏みきり難い怖さがあります。
ましてやまだ自分の意思を言葉にできない赤ちゃんです。
意見を聞くこともできないし、本当我々親の選択がこの子の今後を左右させるのだなと責任の重さはありました。
だからこそ、夫婦でプロトコル決定に際して何を優先に考えるかは共通認識をもつようにしました。

そして今回我々が辿り着いたのは、実績を信じること。
この共通認識からなる軸を持って病気に取り組むことが大切だなと、今現在治療丸5ヶ月になりますが実感しています。
プロトコル選択に必要なことそれは共通理解をもつことだと思います。

実績の出ているプロトコルのメリット・デメリットはもちろんあるし、
臨床試験に参加するメリット・デメリットももちろんあります。
どちらを選んでも家族が納得できるかどうかが大切です。

もしいーたんが高リスク層に属していたらこの選択は変わっていたかもしれません。
先生いわく、臨床研究は、既存のプロトコルでも治すのが難しいとされる高リスク層の人を起点に仮説立て改善していくケースが多いとのことです。
実際、高リスクではMLL10でも決して満足いく治療実績があるわけではないのです。だから、より研究を重ねているMLL17に期待をするという選択をしたかもしれないと思います。

白血病の症状に応じて家族のものさしで優先と大事なものを測って決めていくことが長期的な病気と取り組みやすいと信じています。


・臨床試験に参加された皆様への感謝
今回、我々がMLL10のプロトコルに則って治療を進めようと決めれたのは、ほかでもなくMLL10の臨床試験に参加してくださった
こどもたちとご家族の皆様のおかげだと思います。
一方で、今回私達がMLL17の臨床試験に参加すればその結果が未来の乳児白血病患者のこどもたちと家族の助けになったかもしれないと思うと、その点では我々は協力できなかったという不甲斐なさも正直感じます。
白血病だけでなく、その他様々な病気の治療法が確立されていくということは本当に多くの方のサポートあってだと思います。
臨床試験には参加しませんでしたが、このMLL10プロトコルの治療をいーたんが乗り越え、それがいずれまた次の子どもたちの支えとなる結果に繋がればと思います。


プロトコル選択は、病気判明からわずかな時間で選択期限がきます。
何に軸を置いて選び納得するか、そのプロトコルと共にこどもが歩んでいくかというのが、治療中も治療が終わっても続くと思うので、
夫婦で(家族で)優先することを明確に共通認識することで団結力を持って治療に臨める。
これがわたしのこたえです。

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