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谷さやん『谷さやん句集』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2022.11.20 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

谷さやんさんの第二句集『谷さやん句集』です。

「夏柑ひとつ」の章には、この4年間で詠まれた200句が収録され、後半には、以前このブログでもご紹介した『空にねる[俳句とエッセー]』から改めて199句が再録(「空にねるの章」)されています。

プレゼントを包んで手渡されたような美しい装丁の句集で、お土産にいただいたスイーツの箱を開くような気分で手に取りました。

「夏柑ひとつ」の章

帯で坪内稔典さんが取り上げられている「首謀者はこの捩花か透きとおる」も大好きな句でしたが、他にも心動かされる句がたくさん。私の超個人的なざわざわ感(!?)好みで、エイヤッと選んだ捩花以外の10句。

桜咲く人間以外みな真顔
肉親やつくづく枇杷の皮厚い
走り梅雨耳たぶ触ってひっぱって
ふしだらに蜘蛛の太って惑星も
新涼の鏡よどこの馬の骨
学問の自由石榴に割れぬ自由
木枯に卵は羽根が生えそうよ
父の日の窓の雨雲父かしら
とんび今わたしの呼吸冬の海
屑みかん星に名前をつけましょう

また、自然体で季語の只中に存在しているような句群も魅力的に感じましたし、リアルな映像が見えるような句にはにやりとしてしまいました。

来た順に好きにすわって花の中
蟬の声あれは大陸からの風
打ち合わせ雪に脱線していたる
寒鴉空ごと降りてくるような

ペコちゃんの舌になってる雪が降る
帰宅してまず伊予柑にグータッチ
鹿の子が視力検査の窓に来て
隣合わせに尻もちと桜貝

「空にねるの章」の、前回抽出の句(省略します)は今回も好きでしたが、4年を経てまた新たに

昼顔やひさしくわが血みておらず
秋星へライオンひとつ寝返りす
猫の眼のひらりと戻る牡丹雪
いちどきり雪をみし眼の雛しまう
空にねる脚長蜂をおこしたか
蟬が死にあらがう音か月の屋根
遅刻するつもりの鞄秋の雲
柚子湯してほろびた国の夢をみて
秋風や口の限りのあくびして
さわやかに観音様へ切る十字

などにも心惹かれました。

やはり、『谷さやん句集』は、色とりどりの美しいスイーツの詰まった箱で、一句一句を美味しく味わいました。